血濡れの情事
ああ、あかん……
その場に辿り着いた瞬間に、カラスバは黒く禍々しいものに覆い尽くされるかの様な絶望感に全身を支配されていた。
古ぼけた高い建物が隣接しているその路地裏。
ヤブクロンが多く生息している筈のその場所には何故か1匹たりともポケモンの姿を認識することは叶わない。
その代わりに認められたのは、地べたに倒れ込む人々、鮮やかな鮮血、そして血の匂いだった。
唯一その場に立っている人間が居る。
特徴的な髪型にそのガタイの良さから、認めたくは無いがその男は紛れもなく自身の腹心であるジプソだった。
倒れ込んでいる人々の顔は無惨にも腫れ上がり、口からは血を流し、四肢は有り得ない方角へと折れ曲がっている。
「やっ、も、もう止めっ・・・」
誰かが必死に懇願している、しかし、その声は肉を叩く音と骨が抉れる音、飛び散る血飛沫により直ぐに掻き消されてしまった。
「つっ!ジプソ!!」
再び拳を振り上げた男にカラスバは目一杯の声を張り上げる。
瞬間、ビタリとその拳は止まり、酷く濁ったグレーの瞳が此方に向けられた。
ああ、あかん。
カラスバは瞬時に理解した。
何がどうしてこうなったかは知らないが、普段は従順にも己に従っている男が今は我を失っている。
しかも此方の顔を認め声を認識しているにも関わらず、瞳の奥はまるで機械かのような冷徹さを孕んだままだ。
「ぐっ……?!!」
瞬間、カラスバの肩は男の手により荒々しく掴まれた。
そのままコンクリートの壁に強く身体を打ち付けられて、足は意図も容易く宙を浮く。
「じ、じぷ、目ぇ、覚ませやっ!」
必死に声を張り上げるや否や、ぐっ、と首を掴まれて頸動脈が締め付けられる。
必死に抗うも圧倒的な体格差ではどうにもならず、ただひたすらに足をバタつかせるしか出来ない。
ブチッ
何かが破ける音が薄れゆく意識の中で響き渡った。
薄っすらと開いているカラスバの視界は、感情の無いグレーの瞳をただ捉えているだけだが、その感覚に否が応でも状況を理解した。
頸動脈を締め上げている対の手で、カラスバが身に纏うシャツの下の肌がボタンを外されぬままに暴かれている。
外気の冷たい空気に晒されて、少しばかり頸動脈に掛かっていた手の力が緩みカラスバは思い切りにゲホゲホと嘔吐いた。
それでもやはり頸動脈に掛かったままの手は据えられたままで、カラスバの生死は目の前の男の手中に握られている事を悟る。
元来なら恐怖に震えているだろう……しかしカラスバの胸中は全く違った感情に満たされていた。
(……そやな……コイツになら殺されても、ええかもな)
カラスバがサビ組のボスとして君臨し続けて居られるのは、紛れもなく目の前の男の存在があってこその事だ。
時に危ない橋を幾度も渡り、生きるか死ぬかの場面に遭遇したことも1度や2度では無い。
それを時に武力で制圧し、時に上手く根回しをし、時にカラスバの盾となり、常に側で支えてくれていた。
好きだ、と感情を抱くのは意図も容易く、身体の関係を営むようになってからは、愛おしい、といった感情に全身が支配されるようになった。
ジプソ無くしては生きていけない程に堕落してしまっている、この男に骨の髄まで堕ちてしまっているのだ。
時間にして数秒、思考していたカラスバのベルトに男の指が掛かり、それを外され、スラックスと下着とが一気にずり下げられた。
ぺニスが外気にとさらされ、普段であれば存分にいきり立っている筈のそれは今はすっかり萎縮してしまっている。
(コイツ……オレを……犯したいんかいな……)
そう理解するが否や、つぷりとアナルに男の指の1本が侵入した。
ぬるり、とした感覚にそれが血液によるものだと悟るとカラスバは酷く不快感を表情に表した。
(お前の血なら良かったんやけどな……)
しかし紛れもなくその血は、今まさに地に伏している男達の流したものに違いないだろう。
感染症にでもなったら、どうしてくれんねん、一生掛けてでも償ってもらうで
そんな思考が過ぎるや否やあっという間に2本目の侵入を許し、中をぐちゅりぐちゅりと掻き回され始めた。
「ぐっ……う……っつ」
少し緩められたとは言え気道は未だ男の手により締め上げられていて、口元から出るのは嬌声には程遠い呻き声ばかりだ。
しかし慣れ親しんだその感覚から快楽を広い上げるのは酷く簡単で、縮み上がっていた筈のぺニスの亀頭はゆっくりとその頭を持ち上げ始めた。
どうせなら温いベッドん中でして欲しいねんけどな……
そんな思考が過ぎると同時にみちり、と肉が避けるかの様な感覚がして、カラスバのアナルに太く固く熱を帯びた肉棒の先端が沈みこんだ。
「じぷ……あ゛っつ!!!」
名を呼ぼうとして瞬間、最奥まで打ち付けられて、悲鳴に近い声がカラスバの喉奥から滑り出た。
上手く息が出来ない所為で思考が働かず、首を締め付けられている痛みにではなく慣れ親しんだ快楽ばかりに身体が反応を示してしまう。
「あ゛っ!……あ、あ、あ……!」
普段であればローションをたっぷりと塗り込み行う行為も、今は肉と肉とがぶつかり合う音だけが結合部から響き渡っている。
それでも的確に前立腺を刺激されてしまえば、否が応でも身体はビクビクと反応を示し、アナルは男のぺニスを締め付けようと蠢いてしまう。
「じぷっ!あ、あ、あ、ああ゛っつつつ!」
良いとこばかりを強く抉られカラスバは遂には果てた。
しかしながら普段であれば吐き出される筈の精子が出ることはなく、頭が真っ白になりながらも身体をビクビクと小刻みに震わせただけだった。
とほぼ同時にカラスバの直腸へと熱い精子がどくり、どくり、と注がれる。
繋がったままの赤黒いぺニスが幾度も脈打ち、最後の一滴までをも出して、漸くずるり、と引き抜かれた。
「げほっ!げほ、げほっ!!」
掴まれていた頸動脈が解放され、カラスバはドサリと地面の上に身体を投げ出した。
新鮮な空気を一気に取り込んだ所為で激しく咳き込み、その都度アナルからはつい今しがた出された精子がトロトロと流れ出た。
「……カラ……スバ……?」
此方を呼ぶ声に涙目になりながら見上げれば、酷く狼狽えた表情をした男の瞳を捉える。
その瞳は普段通りの色を徐々に戻しているかのようだった。
「……で?なんで、あんな事したんや?」
事務所にと戻ってきたカラスバは丁重すぎる程に身を清められ、痛々しいほどに言葉に詰まらせながらの謝罪を幾度も受けた。
もうええから、過ぎたことや、と宥めても宥めても、巨体を小さく縮こまらせて恐る恐ると触れてくるものだから、思い切ってこうなってしまった原因を尋ねることにした。
「それは……」
暖かい紅茶を差し出しながらもジプソは言葉を詰まらせる。
ややあって、重々しく口を開いた。
「カラスバ様が……身売りをしていると……夜の相手をして貰ったと豪語している輩が居りましたので……」
「へえ、そんで、お前はその話信じたんかいな?」
「信じる筈ありません……ですが、肌は白かっただの、中の具合が良かっただの、聞くに耐えなくなり……気づけば……」
「そいで大の男6人を病院送りかいな、サビ組の名にも傷が付くで」
「……申し訳ありませんでした。いかなる処罰も処遇も受けます。ですが、どうか……」
ジプソは言葉をぐっと詰まらせながらもカラスバの手を両の手で包み込んだ。
「貴方の傍に……居させてください」
今にも消え入りそうな、しかしながら強くそう告られて、カラスバは深々とため息を吐き出した。
「今更やろ?お前がオレんとこ去りたいゆーても逃がしてやるつもりあらへんで?」
ふう、ともう1つため息を吐く。
カラスバは遠く昔、食うにも困る生活が続いていた最中、戯れにも数度身売りしていた時の事を思い返していた。
臭くて、汚くて、あんなものは二度とゴメンだと以降してはいないが、どこかで噂が広がってしまっていたのだろう。
「なあジプソ、身体を繋げるゆーんは、好き同士やなくても出来る、それは解るな?」
「……はい」
「けどや、今オレが身体繋げたい思う相手はお前だけや、この意味分かるか?」
カラスバは暗に過去には触れずに置いた。
過去は過去。
過ぎたことはもう戻ることは無い……だからこそ、今感じているこの気持ちこそが全てだと目の前の男に伝えたかったのだ。
「外で、無理やりにもお前に犯されたんやでオレ。それでもや、気持ちよくなれたんは相手がジプソお前やからや」
言葉一つ一つ、どうすればこの気持ちが伝わるだろうと探りながらも紡ぐ。
紡ぎながらもカラスバは此方の手を掴んだままの男の指にそっと口付けた。
「反省してる言うなら今度はちゃんと愛してや、お前に愛されたいねん、心も、体も」
親指から小指まで1本1本にゆっくりと口付けを落とすと、観念したかのように大きな身体の中にすっぽりと包まれた。
「愛して居ります、貴方を……痛い程に……」
「そやな……オレもやで、ジプソ。だから、早よ……」
その先の言葉は、重なり合った唇に塞がれ続く事は無かった。
END




