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  ***



 玉宮から左右に伸びた生魂殿、還魂殿は、神籍の中でも優秀とされるものが就ける政治の場であった。

 生魂殿は亡者の魂を管理する場所である。

 玉宮から伸びた渡橋を通ると、黒々とした立派な門に突き当たる。その門の奥が生魂殿だ。門を潜ると、石造りの大広間。床も柱も黒々と磨き込まれた石でできている。玉宮や政宮が木で建てられているのとは一線を画し、堅牢で厳めしい雰囲気が漂っていた。

 広間の中央には祭壇が設けられている。


「この生魂殿では、門番により選別された亡者を冥界にて平籍、神籍へと転生させるための場所として設けられています」


 そう説明するのは、青の衣を着た男の文官である。ウガ、と名乗ったその男はへらりとした顔で笑って見せた。


「テラさま。この祭壇の上をご覧ください」


 ウガの指さす先を見て、アンナは目を丸くする。

 広間の中央に設えられた立派な祭壇の上には、濃厚な霧が漂っていた。その霧の先端が漏斗状に垂れ下がり、一筋の糸となって祭壇へと吸い込まれていく。


(すごい……大きな砂時計みたい)

「この霧状になっているものが、亡者の魂です」

「え!? これが……!?」

「はい。この魂が祭壇に吸い込まれていき、日々決まった数の亡者が冥界へと転生を果たします」

「はあ……」


 アンナはただただ驚くばかりである。スケールが大きすぎてついていけない。

 ウガはそんなアンナの顔を見て、意地悪くにやりと笑った。


「これくらいで驚いておられたら、すぐにバレてしまいますよ、テラさま」

「ちょっと……!」


 ひそひそと囁かれた内容に、アンナはウガの口の前に掌をかざした。


「ねえ、それわざと? 発言には気をつけてよね!」

「滅相もない。僕はあなたさまに忠告して差し上げているんですよ」

「それはありがたいけど。この場でバレて困るのは、あなたの上長のヨミなんだよ。あなたのせいでバレたってことをヨミが知ったら……私、知らないからね」


 そう言ってやると、ウガは大仰な仕草で顔を顰めてみせた。


「口の減らない王ですね。まあ、ごもっともなのは認めましょう」


 この男、ウガはヨミの腹心である。最初にヨミに引き合わせられたときは、どこかで見た顔だと思ったものだ。それもそのはず、アンナが最初にヨミに小刀を突き付けたとき、その直前まで話していた人物が彼だったのである。ヨミに部屋に連れ込まれ、食卓を整えてくれていたのも彼だ。つまり、アンナがテラではないことを知っている人物、ということになる。


「この男は、生魂殿と還魂殿の管理監督を行っている、いわば王の補佐を務めていた者だ」


 ヨミはそう言って彼を紹介したものだ。

 青い衣に、薄墨を刷いたような黒髪。長めの前髪は横に長し、耳もとにかけている。唇の横にある小さな黒子が印象的だ。やや垂れ下がった瞳に笑みを湛えながら、男は流れる動作で綺麗に礼をする。


「ウガ、と申します。以後お見知りおきを」


 礼儀正しい言葉遣いの中に、ほんの少しの毒が混じる。

 アンナは直感した。

 この男は、自分にあまり良い感情を持っていない。

 ヨミから宮城へ戻るようにと言われたあと、一度着替えに祭宮まで戻ったアンナは、カノの手によって、王の略装を身につけていた。宮の見学に行くとなると、それは視察ということになる。この機会に、なるべく王の姿を見せて置こうという魂胆なのであろう。

 ヨミのいう、俺の部下、とはウガのことである。ヨミからの言伝をつげ、案内を頼んだ時は目に見えて面倒くさそうに返事をしたものだ。

 アンナの直感はどうやら当たっていたようである。先程から丁寧に説明をしてくれるのはいいのだが、如何せんこちらを見下したような発言が多い。

 だがしかし。


(こんなの、慣れっこだもんね)


 生前の経験がものをいう。こういう男のあしらい方には慣れていた。面と向かって嫌味を言ってくるあたり、まだかわいげがあるというものだ。


「ウガさま! 大変です!」


 ウガが更に奥へアンナを案内しようとしたときであった。

 ウガと同じ、青い衣を着た男が慌てた風情で駆け寄ってくる。その場にいたアンナに気づくと慌てて最敬礼を取った。


「テ、テラ王! いらっしゃっていたとは知らず、失礼いたしました!」

「なんだ、騒々しいな。王の御前だぞ。緊急の要件でなければ後にしろ」


 ウガは面倒くさそうに男を見やる。男は一瞬迷ったようだが、ぐっと体を乗り出した。


「いえ、テラ王がいらっしゃるのであれば、ぜひご一緒にいらしてください! 玉宮の前で暴動が起きています!」


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