ノンフィクションモンスター
現実にフィクションを照らし合わせてはいけない。そんな事したら世界は崩壊する。故に、神だの幽霊だの…(省略)は信じない。崩壊するから。一つでもそんな物はあってはいけない。
そう思った矢先の出来事だった。
俺はその日、たまたま寝坊した。本来登校していなくてはいけない時間はとっくに過ぎていた。ので開き直ってゆっくり制服に着替え、ゆっくり朝飯を食べる。朝飯を食べてると、玄関のドアが開く音がする。しばらくすると、リビングにくたくたになった姉ちゃんが登場。覚束ない足でソファーに倒れ込む。
「しんどい〜」
「なんなん、姉ちゃんオールしとったんけ?」
「うん〜、頭痛いわ〜」
「酒飲み過ぎや」
「しゃーないやん。久々の部活の飲み会やったんやもん。うぅ気持ち悪う…」
酒臭い姉に水を渡す。
「あんた、学校どないしたん?」
「寝坊したからゆっくりしてんねん」
「そうなんや。やったら学校休んで、一日介護してや。私、今めっちゃしんどいねん」
「あほ。自業自得や。授業受けんの嫌やけど、放課後に友達と遊ぶ約束してるから介護は無理」
「なんやねん。お前学校に何しに行っとんねん。高い学費払ってんのに親不幸もんが…」
「朝帰りのお前に言われたないわ。昨日、オトンめっちゃ怒ってたで」
「え…まじ?ちゃんと連絡したやん」
そう言ってきたんで、間違って俺に送信したメールを見せる。
「ちょ…なんであんた言うといてくれんのよ!最悪やわ!」
「ほな俺学校行ってくるわ」
「ちょい待ちぃ!」
無視。どうせあの体調じゃ追ってもこれまい。
自転車乗って、駅まで向かう。東京引っ越してきて半年か。相変わらず慣れないな。この土地は。やっとこさ標準語には適応してきたが、たまに異様に腹が立つ。
駅に着き、駐輪場に自転車を置く。改札に向かい、電車に乗る。この時間でも人が多い。大学生のカップルが俺の前でイチャつく。うざいな。気を紛らわすために、携帯をいじる。mixi起動。誰かなんか書いているかチェック。すると、タッツーこと俺の親友、佐々木達也が一言欄にこんな事を書いている。
『体育館にモンスターがいる!皆、学校から逃げろ!』
思わず、吹く。返事を書く。
『もっとマシな冗談書け(笑)』
駅から歩き、学校到着。今この時間だと4時間目。古文。
「…だるいなー。山本かー。ガミガミうるさそうやし…サボったろ」
ふとさっきの『体育館にモンスター』が気になる。
「…暇やし行ってみよ」
体育館到着。…っておい。おいおいおいおい。
「なんやねん、コレ」
体育館はバラバラ死体だらけ。皆死んでる。体育教師の北川、その他生徒…バラバラ。首、腕、脚、内臓…散らばっている。首以外はもはや誰が誰の物だか判断出来ない。
達也は?
達也発見。男子更衣室にて。バラバラ。頭、腕、脚、内臓…手にはmixi起動したままの携帯。
「もしかして、例のモンスターか…そいつに達也も…体育館におった奴らもやられたのか?」
…アホバカクソ野郎。
そんな物いる訳ないだろう。これは夢じゃない。現実。頬抓るとちゃんと痛い。身体が伸びる人間もいないし、空島なんかもある訳ない。そーゆーのは漫画、映画、小説…すべてフィクション。よし。
一応、警察に電話。んで、他の現状確認するため体育館を出る。
学校の中も酷い。体育館とほぼ同じ。一年教室…ほぼ全滅。同じく二年も。音楽室も家庭科室も理科室も職員室も。そして我が三年二組も…
「あー、やっぱりか」
古文の山本先生、親友の倉本、竹下、大野、玉山、山口、クラスのマドンナ松川絵美…全員バラバラ。これは酷い。てかいい加減にしろ。さっきからゲロ吐くの我慢してんだぞ。
なんとなく、松川の頭に近づく。可愛い顔が台なし。鼻は折れ曲がってるし、白目剥いて、舌がべろーんと出てる。
「福笑いかっ」
バラバラ死体に突っ込む時点で、俺も大分キテるな。もう俺までフィクションみたいだ。馬鹿馬鹿しい。
よくよく考えると、ここは崩壊した世界なのかもしれない。フィクション。誰かに作り出されたフィクション。そうだ、これを作った制作者を見つけないと。通称モンスター。モンスターなんて現実にはいないから、もちろん制作者もフィクション。
「やったら終わらせたろ。うっといし。皆の敵討ちや。
現実の恐ろしさ教えたるわ」
俺は隈なく学校を探索する。モンスター。奴を探すために。外から複数のパトカーの音がする。警察も来た。さて、どうするモンスター?
三年七組を通る。流し目で見てた三年の教室もそこで止まる。中には生きた人間がいる。俺は迷いなく教室に入る。
「あ」
モンスターの正体は、日本刀を持った女子だ。うちの学校の制服。しかも、コイツ知ってる。
「愛美やん。なにしとんねん」
「あ、関西じゃん。オッハー」
古いポーズをして挨拶。日野愛美。部活の同期。彼女が言ってる関西とは俺の事。
「これ、全部お前やったん?」
「うん、そうやぁでー」
下手くそな関西弁で返答される。腹が立つ。愛美は皆の返り血浴びて達也がmixiで書いていた通り、
モンスターみたいになっていた。
「どうしようかな?私、関西の事めっちゃ嫌いやから、どこから切り落としちゃおうかな?」
「…そんなん好きしたらええやん。あ、ちょい待ち。その前に言いたい事あんねん」
俺は腹に力を入れ、叫ぶ。
「このクソフィクション野郎!」
愛美は急に俺が叫んだので、びくつく。
「な、なによそれ。私はちゃんと実在してるわよ!」
「こんな無茶苦茶な事しといてなにが実在じゃボケ!しかもお前一人で出来てる時点でおかしいやろがい!」
「出来たんだから仕方ないじゃない。それにね、私をこんなのにしたのも、皆を殺したのも全部関西…あんたのせいなんだからね!」
「はぁ!?他人のせいにすんなよアホが!なんで俺のせいやねん!言うてみろ!」
「あんたが…あんたが自分の価値観押し付けたせいだよ!バカ関西!」
「はぁ?価値観?」
「あんたが現実現実言うすぎるから頭に来たんだよ!『俺、フィクション嫌いやねぇん。だから映画とか漫画も嫌いやねぇん。あないなもん現実に生きられへん奴の逃げ道やわぁ』って言っただろうが!何回も何回も私に!」
「知るかボケ!あとさっきからなんやねん、その下手くそな関西弁わ!関西人に謝れ!あと殺した皆もついでにや!」
怒鳴り合いが続く…と思いきや、愛美は黙り込み、まるで今から俺に愛の告白をすよるうに呟く。
「…私はね…信じてるんだよ。神様とか幽霊とか…本当にそれは存在してると思ってる。いずれは私は…天の使者に選ばれ世界を粛正する」
ある意味、その発言はバラバラ死体を見るより衝撃だった。俺は、俺はてっきり愛美は俺の価値観と似てると思ってた。というより、愛美自身にそんな考えがあった事に驚いた。
「なんやねんそれ。頭おかしいんか。なんか台なしやわ。お前そないな奴やったんか。もっと前から言うとけや。そしたらお前なんかと関わらずにすんだのに」
「言いたかったよ!でも…恐かったんだよ!そういう、今のあんたの態度が!私の価値観が否定されるのが!それにあんただけじゃない!皆にも、絶対否定される。だから恐かった!だから一人残さず殺したんだよ!京子も美穂も…好きだった達也君も全員!自分の価値観を守るために、好きな人も関係ない人も殺した!」
そう言った後、愛美は刀を構え俺に狙いを定める。
「どう?これからあんたは…否定し続けた物に殺されるんだよ?さっきあんたが言った通り、こんな現状は現実にはほぼ有り得ない。でも、すでに起こってしまっているの。
私はフィクションをノンフィクションに出来る…正義の使者なのよ…」
「……ぶっ。ふふふ、はははは!」
俺は…不思議と可笑しくなり、その場で爆笑する。
「はははは!あ、アホや!アホすぎる!はははは!どんなけ自分好きやねん!どんなけ頑固やねん!そない自分の価値観大事やったら、こんなんするよりもっと他の事出来るやろが…ぶはははは!」
「わ、笑うな!私を、私の価値観を笑うな!」
俺の爆笑を予想してなかったのか、愛美は一旦刀を下に向け俺に口で反撃してくる。
「あんた、散々自分の価値観押し付けたくせになによそれ!」
「た、確かに押し付けたんわ認めるわ。ふふふ。でも、価値観なんて人それぞれ違うから楽しいもんなんやで。俺の現実主義価値観も達也やら玉山には否定されてたし、でもお前みたいに殺そうとかは思わんかったわ。それが普通やし。そんなん誰でも解るやろが…ははは!」
「…またそうやって私の価値観を潰そうとする」
愛美の表情が鬼のように変わっていく。それでも俺は怯まず攻撃。
「被害者ぶんなや!この我が儘女!そや、こんなんお前のただの我が儘や!価値観とか関係あるか!お前だけじゃ!価値観馬鹿されて人バラバラにする奴なんか!周りを巻き込むなボケ!馬鹿されんの嫌やったら勝手に自殺しろ!」
「黙れぇぇぇー!!」
愛美は叫ぶと、刀を俺の腕に振り落とす。右腕がごっそりと落ち、血が噴射する。激痛。でも止めない。
「ほ、ほらみろ!口で反撃出来んかったらすぐ暴力や!ジャイアンよりタチ悪いわ自分!」
「だから黙れぇぇー!」
次は左腕。もはや人生終了。両腕落とされて生きてるなんて、フィクションの世界。俺は現実を生きるただの高校生。こんな事されたら…死ぬ。せめて最後の足掻き。
「自分の価値観…うまく言えんと…現実を生きてるお前なんか…
死んでまえー!」
俺は叫ぶと、愛美に向かって全力疾走した。自分でも意味不明。愛美も俺に留めを刺すつもりなのか俺に向かってくる。全力で走ると、誰かの血で滑り仰向けに転倒。
が、倒れると同時に宙に浮いた俺の足が愛美の顎に炸裂する。サマーソルトキック。凄い勢い。どれだけ凄かったかなんて実際解らなかったが、愛美はそれをモロに喰らい身体全体が宙に浮いていた。そして、彼女も凄い勢いで天井に突き刺さる。
まるで漫画のように。
天井に突き刺さった愛美は意識を失ったか、あるいは死んだかで身体がプラプラと揺れていた。手元から刀が落ち、俺の顔すれすれで床に刺さる。
「…なんやねんコレ。所詮…俺の生きた世界なんて…こんなもんか…もし…これで俺生きてたら…マジでフィクションやん…そうなったら…絶対自殺したる…か…ら……な………」
俺は永遠の眠りについた。
完。
あれ?
おかしい。何故まだ続いてる。おい待て待て待て。アレで終わりでいいだろ。やめろよ。愛美じゃないけど、コレは流石に俺も認められないぞ。
「博士、実験サンプルが目覚めました」
「おぉ、長年研究したかいがあった。あのバラバラ事件でモンスターを撃退したかいだけの事はある。ふむ、よくやった」
おいおい、こんなあからさまでありきたりな展開やめてくれ。
「おはよう。我が研究の産物よ。いや、ダークセイバー…」
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!なんだその中ニ病的な名前!この展開!やめろやめろやめろやめろやめろ!フィクションだ!こんなの現実にあっちゃいけない!
「これから君は世界の崩壊を防ぐため、悪の組織『ノンリアルモンスターズ』を倒してもらう!そのために、我々は君をサイボーグ化させたんだ!我々を、人類を…頼んだぞ!」
俺は…俺は…
「…?博士、ダークセイバーの様子が変です」
「む!?い、一体どうしたんだ?」
俺は、状況を理解し博士に向かって叫ぶ。
「死なせてくれぇぇぇ!!」
〜本当に完〜