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3.2日目「ぐるぐる回って(中編)」

 

 昔はIfの話は好きだった。少しの期待と救いって感じで。でも、『私たち』はIfの約束は嫌い。

 Ifって、意味は『もしも』。けどそれってさ。

それって叶えられない約束になる可能性があるってことでしょ?

 だから、約束するときは『行けたら行く』とか、『今度ね』という約束はしないようにしてる。失うのが怖いから。

 約束を守れなかったら、死んでしまうから。いや、普通はないんだろうね。約束を破ったら、友達や家族に『なにやってんのさ』とドやされて終わってた。私もだいたいそう。

 

 でも守れなかったら、死ぬことだってある。約束を反故にして失ったものの大きさは計り知れないの。『あの時ああしていれば』とか、『私もそこにいれば』って、もう誰にも届かない願いで、シャボン玉のようで、お風呂場に出来た軽い泡に過ぎないの。 


 そう、この独り言だって、思考だって、一抹の泡。シャワーみたいな雨が降ってしまえば、塵にすらならずに消えてしまう。

 だから、このウロボロス娘との約束だって、Ifにしないようにする。私、もう後悔はしたくないからね。


「……でも、一体どうすればいいの。」

 

 ポツリと自信なく、私はこぼす。

あのウロボロス娘を還すためには、三つほど突破しなければならない問題がある。

 それは以下の問題。


・傷つけても直ぐに完治する再生力。

・再生力が追い付けないほどの力、武器。

・不確定要素への対処と失敗時の代償。


 第一の壁は「超再生力」と称しておこう。本人が言っていたように、呪いのような添えつけの完全オートヒール。これは第二の壁、「殺傷能力」の問題にも繋がる。しかも時間の猶予もないと来た。


「……考えれば考えるほど無理難題。嫌になってきちゃうわ。」


 ため息混じりにボソッと独り言。

 こういう時に何か天才的な発想をできたらいいのに。エジソンとかニコラ・テスラの発明ができる脳とか、ノイマンみたいなIQとか、私にはないから。

 でも、突破口がなきにしもあらずと、言いたい、思いたい。

 

 トランクの()()()がいかに彼女に通用するか、私にはそれぐらいしか考えたりできない。

 ……それと、気になっていた。チチチと聞こえる窓の外の小鳥はこっちを私を見てないし、代わりと言ってはなんだが、目の前のユングさんの視線が良くない。ずっとずっと、吸い込まれるような金色の瞳でこちらを見てくる。


「……む?なんだ。我に何か用か。」

「いや……あの、さっきまでの威圧感は?」

「あれは我が威厳を全面に出しただけだ。こう、なんだ。今はかわいい、というやつだ。」

「?????」

 

 か、かわいい?冗談は一週間ほど寝てから言ってほしいものだ。一瞬、『かわいいで悩殺!』とか、変な考えが脳裏をスニーカーを履いて爆速で走っていったが、そのまま頭からすっぽ抜けていった。

 しかし、どうしても思い付かない。こういう時に限って脳ミソは働かないし、ぐるぐると辺りは見えなくなっていってしまう。肘が思わずガンッ!と机にぶつけて、じんじんと肘が赤くなるのを感じながら立ちたがる。


「とりあえず、ユングさん!外に出ます!」


 怒りがほんのちょっとだけ含まれた発言にユングさんは笑みを浮かべてくれた。まだ何も考え付いてないけど。



 キラキラと自分を主張する太陽。

 負けじと存在感を醸し出す空の綿雲。

 自然にざわめく木々。

 コキコキとなる関節と私の指。

 外はまだ日差しがこれでもかと指していて、まだまだ健在と言うべき。でも気温は意外と涼しくて、鼻先を冷たい風が通りすぎていく。帽子にヒラヒラと勝手に乗った葉っぱを払って、メガネの位置を直す。目の前に佇むは循環の蛇の化身。


 私、もしかしなくても凄い存在の前にいるんだろうね。ただそこにいるだけなのに、太陽に負けないぐらいの存在感が強調されていて、見てるだけで自分が小さく小石のように感じてしまう。

 ギュッと私は切り札の取っ手を握る。

 ただのレザートランク。で、私の切り札はこの中に()()


「さあ、見せてみろ。我を超えて、はじまりへと戻せるか、汝に。」


 強大で、偉大で、伝説と対面してる。

 決断するには、覚悟を決めるしかない。


「……当たって砕けろだわ……!」


 レザートランクを投げ捨てる。フィギュアスケーターみたいに一、二回転して地面に静止。数秒後にはカタカタと動き振動、鍵が何もしていないのに開かれる。まるで解かれた封印のように、出番が来た役者のようにそれは這い出てきた。


 ──それは、霧のようで、『口』。いや、もしかしたら『犬』。それとも『狼』。『雨』、『炎』、『粒』、何にでも成れそうで、何にでも成れなさそうなそれは、私の周りをクラゲのように浮かんでいる。


 ふわり、ふわり

 ゆらり、ゆらり

 ひらり、もやりと


「お願いね……形の無い変幻自在の黒(レイヴン)。私の切り札の一つ!行ってきて!クロちゃん!」


 頷いていないけど、私には頷いているように見えた。名前は『クロ』。揺れてるだけの『クロ』。私の『クロ』。顔は見えないけど、毎日お世話してるから何となく理解できる……ような気がする。

 そんな立ち尽くしてる私の周りから、クロはまるで地を走るチーターのように素早くて、すぐさまユングさんの腕に纏わりついてバキッ!という音をたてる。ユングさんは抵抗はしないと言ってくれたため、思う存分試せる。


「むぅ……。左腕を持っていく程の威力はあるのか。我は期待している。もっと来るがいい!」


 ユングさんは痛みなど感じないように話す。私の瞬きうちには、すでに再生しており、完治していた。

 しかし、ここからがクロの本領。うちのクロは『損傷させた物事、対象の一部を取り込むことで、相手の情報、弱点、状態を解析できる。また、その相手にとって特攻となる状態に変化する』という力がある。

 つまり、相手の一部を取り込むことで、弱点を狙い打ちできる状態にクロは変化するということ。特定の病気に良く効く『特効薬』みたいなものだ。

 ガシャンガシャンという音は別に無いけれど、クロはみるみる変化していき……いき……。


 …………え。

 なんとクロは『砲台』になった。玉が出るわけじゃなくて、『レールガン』のようなものが正しい……のかな。


「えっ!?わ、私も予想外……」


 思わずすっとんきょうな声を。

 目の前の砲台を目にして言葉が詰まる。全長おそらく5mと、お城とかについてそうなほど大きな砲台。装填数は一発。

 幸いユングさんは抵抗をすることなく佇んでくれているため外すことはまずないだろう。だから今、私はこのクロが象ったレールガンの砲台にチャンスをかけるしかない……!


 実体ができたレールガンの発射ボタン。これを押せば最大火力の『特効薬』が発出される。

 ……もう一度思うけど、これは開店して数週間の何でも屋に来ていい依頼ではない。少なくとも私はそう思う。

 人差し指に過度な力が入らない程度に。


「……ふぅ……。……信じて……行こう。3……」


 手に汗が滲む。肌白い手は少しの震えを残しながらも、覚悟を決めたように右の人差し指が進んでいく。


「……2」


 少しだけボタンが沈む。発射されない圧力。


「……お願い……1……っ!」

「……む?……しまった!我としたことが……!」

「発射───」

「待て!止まれセラ!」

「え──」


 待って?待ってって、何。

 ボタンを押す圧力、それは既に限界を超えていた。砲台から放たれる一筋の光線はすで発射され、地を割り、森を貫き、葉を塵まで熱すほどに。


ズガガガッ─!


 だけど。その光線は矛先を百八十度変えてしまった。矛盾。狙いは既に決まっていたというのに、死を与えられる光線が迫る矛先は循環の蛇ではなく……。


「……え?」


………………私?

 避ける──不可能。受け流す──不可能。

 ……あれ。これ……無理じゃない?

 なんで。あ……痛い。身体が悲鳴とかじゃなくて絶叫をあげてるのが分かる。

 これは……熱が痛いっ……!

 これじゃ……死ぬなぁ。

 意識が引っ張られる。深く深く、深層に。


ーーーーー

 ザーザー降りの雨

 太陽より明るく感じる照明

 香ばしい肉汁が鉄板で弾ける音

 目に入ってくる光は妙に眩しくて

 きっと輝かしい光景なんだろうな……?


「……なぁ、聞いてるか?」


 ……あれ。何これ。あ、もしかして走馬灯?

客席に堂々と座る、制服に身を包んだ男が目の前にいる。その男子学生は返答を待ってるようだった。


「えっ、う、うん。ごめんごめん。どこからだっけ。」


 自分の意思と反して慌てて返答する。ここは……日本のファミレス?

 ……あれ、ここって。


「そうか?なんかボーッとしてんな。熱でもあんじゃね?それとも、理系の授業に疲れたとか?」


 彼は300gの特製ハンバーグを大きく口に頬張りながらもごもごと言う。

 理系……?ああ、そういえば選択科目は理系にしてたっけ。このときは、もう大学受験も考えなくちゃいけない時期。学校では先生に『早く行きたいとこ決めろよなー』とか、『勉強は続けるもんだぞー』とか言われてた。

 彼は文系。自分だって元は文系なのに、訳あって理系に転向したから大変で仕方ない。


 彼を軽く睨んで言う


「くそぉ……文系野郎がぁ。こっちだって元々文系だったのに……」

「クソどんまい」

「なんなんだよあの化学とか!?状態方程式!?ボイル・シャルルの法則!?知らんて!」

「おもろ。こっちはまだ楽だぜ?まぁ、地学とか世界史は終わってるけど……」

「世界史?世界史とか余裕じゃん」

「それはお前だけだろ。なんで世界史の授業とってる俺より世界史理解してんだよ。」

「そりゃまぁ……好きだし?趣味だし。」

「……問題。330年の建設以来、1453年まで続いた、トルコの前の都市は?」

「ああ、コンスタンティノープル?」

「正解。なんで。まじで」

「へへっ」


 ……会話が勝手に進んでる。一人称視点だけど勝手に言葉が発されてる。そうだ、この日は雨で、ファミレスの窓は既にしっとりと粒に濡れていたな。学校が終わって傘を忘れて、やっとの思いで避難したファミレス。店内は混んでて、学生もチラホラ見える。

 まだまだ雨は降り続けそうで、帰らせてくれる気配がない。


「なぁ、お前ってゲーム好きだよな。特にストーリー」


 熱々のハンバーグを食べ終えた彼が水を飲みながら聞いてくる。さっきの会話からだいぶガラッと変わった質問だ。


「うん、まぁ。ストーリー系は読むし、没頭したいタイプだけど」

「あれさ、もの申したいことがあってよ。例えば主要キャラが死んだとして、ネットとかでソイツが生きてるIfの話とかは見るか?」

「え、う、うん。だって、救いがある感じで好きだし」

「そうか?俺はあれ嫌いだ」

「えっ?」


 意図がよくわからない質問だ。この時もそう思ってた。思わず窓の外の雫にやっていた目線を彼に向けた。彼だってゲームは好きだ。仲良くなったのもゲーム。クラスではそう孤立してたわけじゃなくて、友達ともよく話してた。


「救いがあっちゃダメなんだよ。その作品におけるその登場人物は死んだ。物の()()が合わないんだよ。」


 口元を拭きながら水を一気飲みする彼。


「えー……そんなひねくれた事言うなって。良いことじゃない?少なくとも、そのIfを体験したときは幸せでいられるんだよ?」

「そのときは、だろ?Ifってな、逆を返せば、現実を突きつけることと同じなんだよ。作品に限らず、もしもあの時あーしてればとかさ、それって過去を突きつけられる行為と同じなんだよ。…………なんか、俺めっちゃ賢いこといってね?」

「自分で言うな自分で」

「とにかく、まぁアレよアレ。うん。そゆこと。まぁ、まとめたら……Ifは嫌いなんだ」


 このときはまだIfは好きだった。彼だって嫌いって言ってた。雨は既に止んでいて、外に見える街頭の光が窓の雫でキラキラと宝石みたいに反射してた。

 この光景は、忘れたくても忘れられない。だって、()()()()()()()()()()の会話だもの。

 しかし、走馬灯も夢もずっと続く訳じゃない。意識は徐々に何処かに引っ張られていった。


ーーーーー


「…………っはぁ!?」


 日光はまだ射してるけど半分空が見えない……。

 あ、あれ?私生きてる、の?しかも、何かふにっとした触感が頭の後頭部に当てられてる。


「……む。起きたか。セラ」

「…んあれ……もしかして、ユング、さん?」

「そうだ」


 やっと周りが見えてくる。ふにっとした触感は太もも。彼女は私に膝枕してくれていたのだった。空が見えないのは彼女の胸。軽く撫でてくれていて、心配そうに指先が私の髪の間を通り抜けていくのを感じる。落ち着く。

 しかし、落ち着きと同時に一つの結果が押し付けられた。そう、『失敗』ということだ。ユングさんからの依頼は失敗。


「……くそっ……失敗だったのね……」


 心の中には様々な感情が湧き出てきた。

 悔しい、投げ出したい、自分を殴りたい。これじゃあ約束を守れなかったのは私のほうじゃない。そんなことは二度としたくなったのに……。

 しかし、ユングさんはそんな感情を壊すようなことを言ってくれた。


「いや……お前は()()した。我を見事に一度、()()()()に還すことができたぞ」

「…………えっ?」


 その言葉は本当なのか?

 『でもどうして?』、それが頭の中を支配する。理解が追い付かないし、あの場面なら死んでいたのは私の方なのに。彼女が還ることになる理由がないはずなのだが。

 しかし、彼女の発言で私は察した。


『─トドメを刺したのはお前ではない』と。

もしかしたら、長ったらしいかもしれません?

そんなことはどうでもよくて、お知らせとして

投稿は不定期になります。

しかし、ペースは早く行きたいと思ってます。

ご理解のほど、お願いいたします。

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