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3.1日目「ぐるぐる回って(前編)」


「と、言うことで、最近はこんな感じ。」

「……あ~あ。」

いつぞやの深い夜。ホワイトキャンパスの上で『俺』は話す。なんでか『最近どうなのよ?』と聞いた彼女は鼻で笑う。聞いたのはそっちなのに。夢の中で聞く物語(日々)はそんなに面白いか。俺はキツくてごめんだよ。


「……アモン、アロケル、ダンタリオン、依頼うんぬんかん……そんな怒涛の展開。あんた、やっぱり運というか、運命に嫌われてるんじゃない?というか、物語にしては語り手が話す内容が薄くない?なんかこう……もっと一人称小説みたいにさあ。だいたい10000文字ぐらいにしてよ。語り手失格だと思うわ~。」

「うっさい。余計なお世話だよ。」


 白いワンピースの彼女に、そっけなく答える。

 散々だよ、ホントに。これは運がないんじゃなくて偶然だよ、偶然。そう信じ──


「家でもある何でも屋が半壊したのに?」

「ぐっ」

「ソロモンの悪魔とかいう天外(そと)の存在に目をつけられたのに?」

「ぐぅっ」

「元はと言えば何にも知らないのにこの世界にいるくせに?」

「ぐはっ!」


 なんてやつ。的確にこちらの不幸を指摘してくる。


「あんた、来て3ヶ月、店開いて数週間なのに、、もうこんなに困難まみれ?……逆に凄いと思うわ。」


 ……ああ、なんでも言ってくれるな。正直言ってちょっと腹が立つ。でも、嫌いじゃない雰囲気で……変な感じだ。


「それに、3日前はそのソロモンの悪魔が来たんでしょう?そのせいで、『あのお店は人間が運営してるけど、なんか怖いやつが時々来る』って噂がたって、あんまり依頼してくれるお客さん来てくれないんでしょ?店員目当てで来る人が多くなってる。」

「…………そうだけど。そうだけど!依頼は時々受けてるし、お客さんだって……」

「最後に受けた依頼はアルラウネ娘ので止まってるのに?」

「……………………」


 もしかしたら、結構自分はダメージを食らっているかもしれない。心が。顔がノイズで隠れてるやつにここまで言われるとは、人生不思議にまみれたものだよ、まったく。


「まぁいいわ。して、何か聞きたいことはないの?って、なにその顔ー!イライラしてやんの」


 …………無論ここまで来たら腹が立ってきてる。

 だけど、ここで怒ったりすると負けた気になる。大きく息を吸って、吐いて、イライラを彼方に忘れて、今日の質問を決める。大人だから、うん。

 そして、ぱっと一つ思い付いた質問がある。


「お前は……俺がなんで天外(そと)のやつに狙われていたりしてる理由、分かる?」


 何気に気になっていたのだ。『特異点」とダンタリオンは俺のことを指して言うが、そう言われる筋がちゃんと分かっていない。手探りより、こっちに希望を寄せてみた。


「……へぇ、意外。私のことに対する質問かと思ったのに。……ええまぁ。完全には理解していないけど、その質問にはYESと答えておくわ。」

「本当に!?そ、その意味は?」


 ガタン


 思わず彼女の言葉に、身を乗り出して椅子を倒してしまう。

 ごくり、と喉を通る唾液がいつもより冷たく感じた気がする。緊張?不安?期待?ああ、違う。きっと俺はこの答えを聞くのが『怖い』のかも知れない。『天外』というだけでも胡散臭いのに、強大な存在であることが嫌なところだ。

 ……まぁ、そんな悪魔なのに甘えてくるやつは二名ほどいるが。


「うーん。……そうね、一言で言うのなら……。みんな、あんたに『興味』があるのよ。」

「……は?」


 頭でも打ったか?信じられない理由だった気がする。


「だから、『興味』。召喚や契約を通さずに来たせいで弱体化を受けてしまう。けれど、それでもあんたに会いに来たのは、『興味』なのよ。」

「……嘘だ。さすがに冗談だろ?俺はただの人間だぞ?なんの変哲もない()()()()()()だぞ?」

「そこじゃないのよ、きっと。」

「じゃあ一体どこに───」

「あんた。()()()()()()()()()()()()()


 たった五秒の沈黙という間。この時間が、俺には永遠に続くように、感じた。でも、永遠は突然終わって、俺の心の中にポツリと言葉が浮かび上がった。

 …………何を言っているんだ、こいつは?言ってはあれだが、バカなのか?まるで、ちゃんと義務教育を受けた人に『難しいとは思いますが、1+1の答えはなんですか?』と聞いているぐらいバカ。年齢なんてそう簡単に忘れるはずがない。でも、嘘をついてる?俺がわかっていないだけ?……なんだろう、この違和感は。


「はぁ……俺は18さ」

「ブッブー。不正解。」

「い……えっ?」


 ……あれ。もしかして誕生日過ぎてたのか?


「じゃあ、誕生日を考えて19さ」

「不正解」

「……20歳以下」

「不正解」

「………………嘘つくなよ。さすがに嘘だろ。」

「嘘じゃない。嘘をつく理由が無いもの。」


 嘘か真か。これを判断できる材料は少ない、と、思う。でも、でも。俺は、分かる。


 ()()()()()()()()()()()

 なんで分かるのだろうか。見えない視線が、真の視線をしている。彼女のノイズの向こうが映す人物は、一体何?

 今、俺に浮かんだ言葉一つだけ。


「……え?」


 驚きどころの騒ぎではない。自分という存在が丸ごとひっくり返る。『なんで?どうして?なぜ?いつ?どこで?どのように?』。

 小学校か中学校の頃に習った5W1Hが脳裏をメトロノームのように何度もよぎる。


「……ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 気が動転して、声色が高くなる。


「おかしいだろ!?じゃあ一体俺はいくつなんだ!?何があって、そうなったんだ!?」

「……そうね。んー。」


 彼女は楽しそうに、悩むフリをして、指をいじりながら、『しょうがないな』という台詞が似合う雰囲気でこう、返答してくれた。


「あんた、今は……だいたい5()0()0()0()()だったかしら。いや、それ以上?……でも、それぐらいよ。これからは年齢不詳で名乗るべきね。」


 沈黙。ただ、沈黙。

 『5000』。なんの変哲もない数字のはずなのに。

 数学でも、物理でも、化学でも聞いたことある、どうでもいい数字がこれほど重く、俺の心にのしかかった気がした。

 頭が回らなくて。

 雷に打たれたみたいな衝撃で。

 閉じていた口が開いたままで。

 肌寒さすら感じないこのキャンパスの上で。

 でも、やっとの思いで、一言だけ残す。


「…………なんで……?」


 永遠に続くと思ってた間も、彼女の話も、ほんとに永遠に続くわけではない。ここは夢なのだから。きっと目が覚めたら元通り、キャンパスは色づいて、日が差してて、鼻をくすぶるシャックスの羽根がある。

 まだまだ聞きたいことがあるのに夢は終わる。

 バキバキと悲痛な叫びがキャンパスを襲って、空間ごと割れる。今日の目覚めの時間だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 冷や汗をかきながら、突然の白に視界が覆われる。なんだ、まだ覚めてな……あ。


「うーん……むにゃむにゃ……えへへ……ローストビーフ……オムライストッピング……」


 ………あっ、そっか。これはシャックスの翼だ。どうりで鼻が擦れてかゆい。というかなんだその高カロリーな寝言、普通しないだろ。


「……ん?」


 翼を避けてよく見ると、シャックスは布団をぶっとばしており、セーレの右頬に見事にライダーキックをかましている。少しだけ呻きながらセーレはまだシャックスと共に眠っている。呑気に寝てるな、まったく。ここまでぐっすり眠られるのは本当に羨ましい。自分の目の下のクマはいつも消えない。布団の質はいいんだけどな。

 二人を起こさないように、愛しのベットから起き上がって離れる。離れたくないが、朝日が起きろと急かしてきて、仕方なく離れることにした。


パチンッ


 今日も今日とて鏡の前で指をならして、朝御飯を作って、店の中を掃除して、シャックスとセーレを起こして……やることがいっぱいだ。でも、慣れ、というなのか、そこまで苦ではない。……まぁ、働くことに慣れたから。

 昔はアルバイトすらしてなかったのに。

 今ではこんな労働に慣れちゃって……とほほ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


修復された何でも屋、おそらく午前11時


「っと……名札名札……あ、あった……。」


 テーブルに投げっぱの名札を取る。ちょっとシワがよってるがなんとか伸ばす。テーブルの上には他にもペンやコップ、ちょっとこぼれた水……。ああ、あと、アレク、セラ、ネルの名札がある。『セラ・ヴェステリア』と書かれた名札はいつもいつも太陽を反射してて……眼に来る。


「……もう疲れた、運はないわ……。定休日とか、考えるべきかな……。ただひたすら待つのも……大変だわ……」


 カウンターに足の小指をガンッと思わずぶつけて、痛みに悶絶しながら『私』はポツリとこぼす。いつも通りカウンター下にいるシャックスとセーレは『大丈夫?』という目でジーッと見てくる。


「だ、大丈夫……。ま、まだお客さん来てないと思うし、だ、大丈夫……」

「おい。」

「ひゃっ!?!?」


 だ、誰!?


「何情けない声を出している。我は客だぞ。」

「あ、えっ、お客さん!?よ、ようこそ!何でも屋ゆめ……」

「無駄な挨拶はいらん。」

「あ……はい。」


 まさか、もう居たなんて。一生の不覚……とまではいかないけど、待たせちゃった。てか、なんだろうこの人、偉そうにしてるわ。……しかもでかいし。見たところ身長は2メートルを越えている。


「……えーと、種族?とお名前を……」

「見て分からぬか?」

「……ど、ドラゴン?お名前まではちょっと……」

「……我は循環の蛇ウロボロス、ユングだ。しかと覚えろ。」

「ウロ!?」


 は、はい?な、なんという大物!?

 ウロボロス?ウロボロスって言った?宗教とか、不老不死の象徴とか、一方では蛇とか言われてる、あの!?ちょっと待ってほしい。そんな大物まで亜人になっているの!?

 よく、ドラゴンとひとくくりにされることが多いけど、ウロボロスはその中でもトップクラスの知名度を持つドラゴンのはず。


 ……と、いうのは思考の片隅に置いておくしかなかった。

 そこにいるだけで全てを見透かされるような瞳。過去も、今も、未来も、秘密も……全て。

 しかし、そこまで強大な存在だと、必然的に一つの疑問が沸く。


「……し、して、本日はどのようなご用件で?私、セラ・ヴェステリアがお伺いいたします。」


 なんとか落ち着きを取り戻して、苦し紛れの案内をする。興奮してるのもあるけど、私は来店した理由が気になってしょうがない。得体の知れない高揚に身を任せて。でも、そんな興奮も、好奇心も、彼女の一言で全て消えてしまった。


「我は、死にたいのだ。」


 この一言は、私も、カウンター下にいる二人も、口が開いて塞がらない返答だった。

 理解が追い付かない。みんなみんな誰しも死にたくなることなんてない……はず。

 しかし、その言葉と同時に緊張も走った。

カウンターの上に広げられていた書類も、カウンターに差し込む光も……今はただ、二人の間に生まれた緊張に呑まれたように感じた。


「……は?」

「二度も言わせるな。我は死にたいのだ。」

「いや……どうしてですか?」

「それは、見た方が早いだろう。」


 ザシュッ


 ボトッと、カウンターに何かが落ちた気がする。いや、気がしたんじゃなくて、落ちた。脳の回線がとっても遅くなって、目を下にやるのに大層な時間がかかった。まるで、タイムラグというか、拒絶というか。でも、でも!

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


「な、何してるんですか!?ち、血が止まってませんよ!?し、止血を……」

「何もするな。どうせまた、生えてくる。」

「な、なに言って……え?」


 なんと、切れた手先はいつの間にか止血され、数十秒もしないうちに手が生えていた。人間離れした再生能力、これがウロボロス娘としてのものなのか。


「我は、如何なる傷も全て治ってしまう。それ故に、手足がもげようが、首から上が無くなろうが、呪いのように全て治るのだ。」

「え……で、でも、それは良いことではないのですか?怪我をしないのは……」

「お前はこれが、『良いもの』と言うか?否、良いものであるはずがない。こんなに……こんなに……!憎々しいものは……っ!」


 ……地雷か。

 大気がまるで震えるように、圧縮されるように怒りがこちらまでひしひしと伝わってくる。ユングさんの瞳はますます細くなり、いかにこの再生能力に怒りと憎しみを抱いているかが、嫌でも分かった。


「……一つだけ教えてもらっても、いいですか。」

「……なんだ………人間。」

「セラです。……どうして、そこまで怒りを抱いているんですか?……ごめんなさい、そこだけ、聞いておきたくて。」

「……そうだな。」


 彼女は怒りを抑え、ポツポツと語り始めた。


「つまらないのだ。この力……体質、我にとっては呪いだ。この世界に生を受けて、あらゆる始まりと終わりを見届け、あらゆる全てを知った。知識も、魔法も、光景も、刹那も……全て、つまらぬ。どんなものも全ては輪廻の中で失われている。虚無……失われる虚構……と、表現するべきか。全てが空虚なのだ。だから、死ぬ。普通の生物は始まりと終わりがあるであろう。」


 ……『始まりから終わり』?

 空虚、虚無。彼女はどれほど一人だったんだろう。私には想像できない。やることも全部やって、だからもう何も感じなくて。温かさがあった友は冷たくなって、隣から消えてしまって。

 ……意外だった。これが長命種だからこその悩みなのか?人間の物差しでは測れない悩み。


「しかし……我自体は輪廻の循環の中には含まれておらぬ。永劫にこの形を保ち、不朽の存在。終わりを完全に失ったもの。故にこそ、我は願うのだ。再び()()()()に戻ることを。だが、我には出来ない。故に我はこの力と、我自身に怒りを抱いている。」

「……()()()()?」


 はじまり。その言葉が何度も脳裏を反芻する。

 なるほど。

 それが、彼女が死にたがっている理由。正直、開店して数週間の店に来ていい相談ではないと思う。


 でも、淡々と語る彼女に、渇望はあった。循環の中で、学んで、知って、感じた彼女だからこその渇望。なんだか引っ掛かる。死ぬことに重点を置いているけど、どちらかと言うと戻ることに固執しているような。


「それは……死にたい、というものより、還りたいに近いのでは?私はそう感じています。()()()()に戻る。それは『つまらないから』という理由ではないはずです。いえ、多少はあるのかもしれませんが……。」


 今の私の考えを伝える。彼女ほどの存在に伝えるのは烏滸がましいかもしれないが、それはそれ、これはこれだ。机に手を置いて、木の冷たさを感じる。でも、彼女の視線はもっと冷たい。頬に直接氷を擦り付けられてるみたいに。

 緊張から、キュッと目を閉じる。ごめんなさいお母さん、お父さん、ヒカリ、あと小3の頃に祭りでとった金魚ちゃん。私死ぬかも。


 間は、少しだけだった。


「ふふふ……はははははははっ!!」


 突然のユングさんの高笑いに思わず『うえっ?』と変な声を出してしまう。

 ……笑い要素あったかしら?

 しかし、彼女は喜劇を見た後のように笑っている。


「はははっ……なんと……なんと愉快なのだろうか!我が……我がこの憎々しい力を乗り越え、還りたいと言うか!確かに、そうやも知れぬな!やはりお前は人間でありながら、相手の心を読み取るのが上手いようだ。」

「は、はぁ……。」


 彼女はうんうんと頷きながら話す。


「そうだな……我は()()()()に戻ることに固執している。輪は常に己と廻り、感情も、技術も、知識も、願いも。全ては巡り巡って最初に戻るのが理。……だが、安心しろ、人間。還るのは我だけ。その他にはなんの影響もありはしない。だからこそ、今一度依頼しよう。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


 なんとも、無茶な願いだ。

 人間に頼むことではない。

 でも。叶えてあげるべきなのだろう。この人は願ってる。そして、飢えている。

 きっと初心に還りたいのもあるのかも。それと、初めからクライマックスのこの依頼は、私にとっての歩み続ける一歩にもなりえる気配がした。

 未来に手を伸ばすために。

 だから私は無責任に答える。


「…………はい、承ります。何でも屋ですから。

もし成功しなくても、恨まないでくださいね。」

「ふはははっ……!いいぞ。我は約束を守ってみたいのでな。恨みはせぬぞ。」

「守ってみたいってなんですか……」


 不安しかないけれど、やるしかない。まるで山を一人で削るように無謀な挑戦だが、全力を尽くすこと。しかし、既に大きな問題にぶつかっている。


「あの。もう一つ質問したいんですけど。輪廻の、循環する輪の中にユングさんを戻すって言っても、いったいどうやって戻せばいいのでしょうか?私は……想像もつかないのですけど。」

「ああ、それは、我を殺せばいいぞ。」

「………………?なんて?」

「おい、二度も言わせるなと言ったであろう。

つまり、我を殺すことで、我は輪の中に戻る……と、いうことだ。簡単であろう?」

「……簡単に言ってくれますね……。」


 先ほど見たあの再生能力。あれはホントに呪いのように速く、並みの武器で傷つけても絶対に回復速度の方が速い。つまり、傷すらつかない。

 人間なら無理ゲー、期待されても成功率は0%。

 ウロボロスを超える。そんな無謀な挑戦が今日から始まった。

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