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奇跡とバトラーと悪魔と


「こんばんは。今日も今日とてようこそ。」


一面白の世界。銀世界、というよりはまっさらなキャンパスの上にいるような。そんな中、何の変哲もないテーブルが一つ、椅子が二つ。座ってる自分の正面には座するのは…………


顔に金色のブロックノイズがかかっているせいで、顔は見れない。動く口の形だけは隠れず。

性別は女なのと、ワンピースを着たロングの人なのはわかる。でも、それ以外の情報がない。見つけられない。


「……なに?もしかして、見惚れてる~?」

軽快な口調で、彼女はそう言う。


ーーーーー

この夢を見始めたのはちょうど一週間前。

初めの頃は夢を見たと言う記憶自体がなかったが、徐々に「こんな夢を見てた」と感じ取れるようになってきた。

彼女は未だにどんな存在かは分かっていない。

でも、どうやら1日一回は質問に答えてくれる。

どうしてだろうか。

夢を少しだけ覚えていた五日目、こう質問した。


「君は何者?どうして夢に出てくるのか。」

すると、彼女は少しだけ悩んでこう答えた。


「……実質君の親?なんで夢に出てくるのかと言うと……"君は選ばれたから"。って、答えておくね」と。

親な訳がない。自分にはちゃんと両親がいた。

普通の会社員の父と、専業主婦の母。……そして、妹がいた。そう、「いた」という事実はこれからも変わらない。それに、こんなブロックノイズが顔にあるやつなんて会ったことない。


昨日は話す前に彼女に一つ質問した。


「君の顔にはなぜノイズがかかってるのか」と

すると、


「うーん……まぁ、忘れられてる身だしね。あんたが思い出したら、消えるんじゃない?」と。


今日は、名前を聞いてみた。ちょっと遅かったかな。


「名前?…………それは秘密☆代わりの質問よろしく~。」

なんてことだ。答えは秘密だと。しかし、代わりの質問でいいのなら、一つ気になったことがある。テーブルの横に地球儀のようなものが置いてある。でも、青も緑も線もなく、真っ白の地球儀。その中に、なぜかミニチュアの学校……?が、くっついてる。


「この地球儀は?学校……みたいなものは……」

「ほほー、お目が高いね。それは"ある世界"を表した地球儀。その学校は……安置、ってとこかな。それだけ、教えてあげる。」

世界?安置?……何を言ってるんだ。まだ質問したいことが沢山あるのに、今日の夢はプツンと電源切れだ。


ーーーーー

「…………今日の依頼は、と……。地質調査か……。」

外を出歩いて、草を踏んで、ちょっとこけて、花はよけて、その依頼のポイントの地質を調べる。ポケットから名札を落としてしまう。……「アレク・オウィディウス」と書かれた名札。


「おっとと……コートも少しだけ汚れた……んー、泥が……」

モノクルを直しながら、よっ、と立ち上がる。近くにあった湖でコートの泥を落とせるか試したが、結果は惨敗。水面に映るはベージュ色の髪のイケメン。


「ついてないな……まったく。それより、地質は問題なし……魔脈は魔力がよく循環してる……自然も豊か……依頼人は……アルラウネ娘の人だったからか。」

依頼の書かれた紙を持って、手袋をはめ直して改めてこの辺りを調査する。面倒な脅威も特になく、ちょうどいい。大地をめぐる魔脈も正常で、しかもちょっと上質なぐらい。お客さんの喜ぶ顔を想像すると、以外にも心地いい気分になるものだ。……空を見て、その感情に浸かる。なんの変哲もない上空を何かが飛んでいく。

「……あれは……ワイバーンの群れか。さすがエディアル島、魔物娘以外にも普通に魔物はいるんだな。ドラゴンなんて、あんなにでか……ん?……こっちに来てるな。」

ワイバーンの鳴き声が聞こえて、獲物を見つけたように、あいつらはこちらに飛んで来る。するどい爪に、チカチカ反射する鱗にロマンのある羽……ちょっとでかい。しかし……


ガキン!


空中ですべて攻撃は浮遊する槍によって弾かれる。「俺」の手元には一冊の本。


「勘弁してくれよ?無駄な殺生はしない主義なんだ。だから、とりあえず帰らせてもらうよ。」

パラパラと本が捲れ、手をズズズと沈み混ませると、この世界には似合わない閃光弾。ひょいと投げ、光と共にアレクの姿はすぐに消える。


ーーーーー

「何でも屋 ゆめの」に帰ったあとは、本をカウンターに置く。するとシャックスとセーレは遊びたいが故に本を持っていった。勝手に。


「……遊びで使うもんじゃないんだけどな。」

あの本は「奇跡を創造する本(マイティ・ワーク)」といい、武器から小道具まで、取り出すことができる。先ほどワイバーンからの強襲を防いだのも、この本に記録されてる槍だ。また、この本は「記録」することもでき、閃光弾はダリアが作ったものを記録したものだ。しかし、ピーキーな部分もあるため、使いこなせているのはアレク本人の技量が高いからだろう。


「午後は……来客か。面倒くさいお客さんなんだよな……。……あとは"ネル"で対処するか」

ちょっとサボって店の看板を「Closed」にする。楽しみのスイーツを冷蔵庫から取り出して、頬張る。そうして、「アレク・オウィディウス」としての人物の午前は終わる。


ーーーーー

首もとの蝶ネクタイはキッチリ整えられ、シワ一つない、本人の性格を表したような執事服。

首から「ネル」の名札がぶら下がってる。


「……それで、僕で対処……まぁ、いつものことですが……」


今日も今日とて招かれざる客が二人。追い返したい。しかしその対処に「ネル」は追われる。軽く表すなら、ネルは小さな男の子の執事。しかしクールなちょっと可愛らしいとこもある男の子。して、肝心の招かれざる客は……


「すまぬな……毎度毎度……このようなことに付き合わせてしまってな。」

そう話すは赤い瞳の、ライオンの特徴がある獣人系の魔物娘。正式には、「ソロモン第52柱 アロケル」。まともな方だ。お疲れのよう。そして、問題なのは……


「あー早く殺ろうぜ!!とりあえず殺しあいだ!!!!」

隣には蛇の尾を持つ、狼の耳と肘先。吹き出る息からは炎が漏れだしている。こっちは、「ソロモン第7柱 アモン」。このお客様が一番対応がめんど……いえ、大変な方。どういう関係かは知りません。


「勘弁してください……貴方と戦うと腕の2本は持っていかれそうになります……。」

「実際1本持っていったもんな~!あ、いや、足だったか?」

「………………。」


事実。ホントに1本持っていかれた。痛かった。

思い出す鮮血。脳裏をよぎる痛み。吐き気がする。治ったから良いものの。しかし、対応するは「僕」。


「アモン。例え持っていったとて、負けたのはお前であろう。そんなのは負け惜しみにすぎぬ」

「いーや、まだ勝負はついてないね!まだ1勝1敗だ!。次勝ったほうが勝ちだろ!」


やめてほしい。さすがに疲れます。でもあと1回だけなら……


「分かりました。表に出やがれくださいませ。……そろそろウザったいので、完膚なきまでに殺……いえ、失礼しました。倒します。……ご覚悟を。」

威圧感があるかは分からないが、とにかくアイツを睨む。もう執事とか、どうでもいい。アロケルさんには悪いが、二人ともお帰り願うとしましょう。


ーーーーー


ガキン!ガッ、ズガガガガッ!!


「うおっ!?なんだか今日は力が込もってねぇか!?やっとやる気になったか!!その斧だって、いつもより振るってるな!」


少し傷ついた拳の先、滴る赤をアモンは舐める。彼女は戦いというものが、命と命をかける、生死を彷徨うヒリヒリしたものが好きなのだろう。


「えぇ!これが最後だと思うと清々します!だから……さっさとやられろよ!」

口調?性格?どーでもいい。そんなものは置いていけ。戦うとなったのなら、手加減は礼儀に反する。僕だって男だ。斧を構える。相手の一つ一つの鼓動、思考、狙い、全てを三歩先まで読む──!!


キンキンキンッ!


大斧と拳がぶつかり合う。鼻と鼻がぶつかりそうなぐらい近い接近戦の中の均衡。頬に伝う汗。目前からの息遣い。それでもアモンから伝わってくる熱意と喜び。力が均衡しながら、一歩も譲らない。

目線、日光、運命、熱、全てが僕に向いてる。

アモンの口がガバッと開く。熱が溜まり、ギザッ歯の奥に見えるは光線三秒前の炎。


「……この時を待ってた!」

「うおっ!?」

素早くしゃがみ、前方からの力の方向を変える。押し合っていた力の方向が急激に変化する。思わずカクンと態勢が崩れたアモン。


「……2」

斧を引っ張り、態勢を崩し、アモンの顎を下から手のひらで力強く押し上げる。ガキンと歯がぶつかり、口が塞がる。


「んごっ!?」

「……1……ボンッ!」


アモンはもう止まらないところまで、チャージをしてしまっていた。中に貯まった熱は外に出されることなく、吐き場所を失い……


ボォン!

膨張、破裂。体の奥底まで響く衝撃。脳髄を貫く熱。倒れそうになるには十分な理由……

刹那、次の瞬きの内に、彼女の首に刃先を当てる。肉に食い込み、咲き誇る花のように赤が舞う。ソラに舞う頭を構いはしない。両腕を切り落とす。最後に腹に突き刺す。


「悪魔なんだから……死にやしないでしょう」

「……悪魔でも、痛いものは……痛いんだぞ……」

さすが悪魔と言うべきなのだろう。首から上は離れて、腹を斧を突き刺されても生きてる。……苦しそうではあるが。


「チッ……負けだよ負け。不本意だがな。だけどな!?この世界に召喚を通さずに来たから弱体化されてるだけだからな!?」

「完膚なきまでに戦闘不能にされたくせに、言い訳?ダサいだろ……おほん、失礼しました。」

確かに彼女の言うことは事実ではある。荒々しくも、彼女の腹から大斧を抜く。刃先はドロッと汚れてる。すると、目の前からアロケルさんがアモンの体を拾い上げながら僕に話しかけてくる。


「……戦闘時間は7分……随分と早い決着……。やはり、弱体化とは面倒なものであるな。しかし、さすがにここまでされれば、こやつも満足しただろう。すまぬな、ネル殿。こんなやつの為に命懸けの戦いを任せてしまって……。おぬしは自分の手当ては大丈夫か?額と腹、そして右腕から血がかなり出ておるぞ?少し、目をつぶるといい。」

「あ……申し訳ありません。ありがとうございます。」

みるみる元通り。アロケルさんはこのようなことは得意ではないと過去に言っていましたが……これほどまで凄いのに?


「さて……我らはここらでお暇させてもらおう。こやつも懲りたことであろうからな。」

「きぃ~!くやじいー!!!」

顔だけなのに喋ってる……恐ろしい。しかし、問題が減ったのは素直に喜ぶべきか。背中を見送る。もう来るな……。アロケルさんはいいですけど……。


「……さて。僕もお仕事再開しますか……って。」

目を疑いたい光景。……「何でも屋 ゆめの」は、半分崩れていた。…………そういえば、アモンの攻撃が当たっていた……ような。

よくよく目を凝らすと、木の破片の下ではセーレとシャックスは寝ている。……そうか、まだ昼か……。

……寝すぎではないですか?というか、よく寝れていますね……。


「い、いやそれ以前に…………しゅ、修繕費を取ればよかった……っ!」

後悔先に立たず。ああ、これからが不安です。

またこんなことが起きませんように……。


ーーーーー

と、ここまで。ホワホワと霧が晴れるように鮮明に思い出してきた。ああ、そういえばそんなことも……バリバリあったな。

ここ最近は自分の「日常」に最も近い。

もう慣れたもの。

落ち着いた暮らしではないが、何かに頼られている感覚が脳を刺激してやめられないんだ。

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