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「初めての時」/1日目「"自称"考古学者兼発明家」


──もしも、忘れていたことを思い出せたら。

──もしも、何かに為ることができたら。

──もしも、あの時の約束を叶えられたら。


──それは、どれだけよかったことなのか。

 今となってはもう遅い。

 どんな選択をすれば、どんな後悔をしなければ、どんな、どんな……

 疑問符の繰り返し。だが何もかも、振り返る、思い出す、そんなことはできる。


──そんなんだから判断を、思考を止めて。僕は、君を、過去を、追い求めるだけなんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 真っ白なキャンパスのような、そんな何にもない世界で。

 『僕』は目の前の彼女と話しているが、キャンパスには吐瀉物が汚すように溢れていた。もちろん、これは僕のものだ。


「あら、意外かも。ユメの中でも人って吐けるのね。何が出てるの?」


 汚れを知らない純白なワンピースの彼女は嘲笑う訳でもなくただ単に関心しているような声色だった。


「……関心は後にして……でも、でも……!」

「でも?何が"でも"なのよ。分かりきっていた過去なのに。体験したことなのにもう忘れたの?」


 忘れることができたらそれは幸せだ。

 彼女は善意も感情も何もないけど『事実』だけは嫌というほどある。彼女の発言一つ一つが今の自分の心臓を握るようなものばかりで、動機が収まらない。

 

 ココはユメの中だってのに。酷い話だ。


「違う……っ!その話が本当なら……ホントのことなら!結局終わっているんじゃないか!僕の願いも……希望も、全部潰えてることになる!」


 思わず声を荒げて、罵声を浴びせるように。しかし、彼女は冷酷に告げてくる。


「……"だから"?」

「"だから"だって!?確かに、君の発言は理にかなっている……だけどさ、だからってリセットする意味はない!人類は愚かだ、それは変えられない事実だけど……そこから這い上がるのが僕たちなんじゃないのか!?」


 ……可能性は……まだ。まだ?

 ああ正直……分かっていた。


「這い上がる?それは自分で自分の首を絞めているだけに過ぎないのよ。現実を受け入れなさい」


 最早、言葉すら出すことが出来なかった。ユメの中の筈なのに自分の呼吸がうるさく思えている。

 

 そっか。

 ……目指していたものは、もう叶わないんだ……。

 ──そんな、微かな笑みを浮かべる彼女が一言。僕に向けて。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「───」


「──()()()


「…………?」

「……この先を知りたいのなら、まずは過程を知りながら、本のストーリーを読み返すことね。どうしてこうなったか、貴方がどうしてこの未来を選べたのか、偶然に偶然が重なって出来上がった一夜じゃ終わらない物語。希望、絶望、再開、拒絶、なんだって振り返ってから、心の準備をしなさい?」


 彼女はそう言うと、吐瀉物のかかっていたはずの白いテーブルを豪快に蹴り飛ばし、指パッチンと共に新しいテーブルがポンッ、とできた。

 テーブルの上には、『観測:3』と書かれた新しい本があった。タイトルの意味は分からないが、気にしてはいられない。


 彼女は本にそっと手を添えてこれから読み聞かせるように、表紙を捲る。

 これから、また急な旅が始まるのだ。


「──それじゃ、貴方の全てと世界を巡りましょ?」


 本がそっと……開くのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【世界基準:ヴァルネア期 3412年】


 ジリリリと、魔道具の時計がうるさい。


「……うっさい……あと、2分……」


 身体は言うことを聞かない。まだヌクヌクしていたい。だけどおぼろげな意識と、ボヤける視界で時計を見つめる。

 カチカチとなる針は既に九時半を通り越していた。なら大丈……夫なわけがない!店員寝坊で営業遅延とか、とんだ笑い話になる。

 

「……っあ!?も、もう開店時間十数分前!?やっ、やばい!……あでも最近暇だし……やでもマズいか!」


 時間というハンマーで殴られたように、パチリと目が覚め、ベットから飛び起き、バタバタとリビングに出る。魔術を利用したコンロで簡単な朝食……主にベーコンエッグとトーストを三人分作って、そのうち一つを喉につまらせながら掻き込んで食べる。

 

 その後、窓を拭いたり机を掃除したり……開店準備を済ませたことで一息ついた。

 少し冷たい足に靴下を履いて鏡の前で指をパチンッと鳴らし、自分の姿を見る。ゆらりと首から下がるガスマスクは異質だけど、これが自分。おかしいな、ホント。


 すると、床の軋む音が微かに後ろから聞こえてきた。バラバラな二つのリズムが階段を下りる音で、家賃すら入れない可愛い住居人たち。まぁ、ローンはないのだが。


「ン、シャックス、セーレ。おはよう」


 いつもの挨拶で二人を見る。まだまだ眠そうだ。


「んん……まだ眠い……お布団がもう恋しい……」

「セーレも……でも、大丈夫……。」


 二人はフラフラしながらちょこんとテーブルの席に座り、残り二つの朝食をそれぞれ美味しそうに朝食を食べる。

『私』も顔を見たいから二人の前の方に座る。


「……やっぱりお姉ちゃんの作るご飯、ボク大好きー♡」


「セーレも……好き……。」


「あははっ、そっか。そりゃ嬉しいね。」


 私の目の前で二人の可愛いがもぐもぐと朝食を頬張る。もきゅもきゅという効果音が似合いそうだった。

 右に座っている『シャックス』。見た目は中性的な幼さがある顔と上半身で、白い羽を持ち、腕は翼、鳥足のハルピュイア。身長は……だいたい142センチだろう。甘えたがりで、可愛いやつ。


 シャックスの隣に座るのが『セーレ』。見た目はやっぱり完全に黒髪美少年であり、瞳の色が金色である以外は人間の外見。身長は……シャックスより少しだけ小さい。大人しいが、同じく甘えてくるやつで。

 事実、うちには甘えん坊しかいない。


「「ごちそうさまー!」」


 二人が朝食を食べ終え、皿を下げたあと、私は二人とともに接客スペースへ向かう。リビングや寝室がある居住スペースと、店として仕事をする接客スペースは繋がっている。

 二人をおんぶしながら短い冒険を。


「お仕事レッツゴ~~!」

「おー……!」


 もちろん、客からは中を覗けないようになってる。そして、当たり前のようにシャックスとセーレの二人はいつもの定位置のカウンター下にしゃがみこむ。


「すちゃり!」


「……毎回思うんだけど、そこにいるのはなんで?」


「え~?だって、お姉ちゃんのお仕事姿一番近くで見たいんだもん!」


「……セーレも、見たい」


「まぁ止めはしないけど……頭ぶつけないでね?」


「……子供扱いし過ぎ、ダリア姉」


 他愛もない話をして、偶々残っていた埃を拭き取った後、私は店の看板を『開店中』へ裏返す。天井に突き上げるように伸びをして、深呼吸し、今日の営業に気合いを入れる。


「……よし!今日も『何でも屋 ゆめの』開店だ~!」


ーーーーー

 

 人間たちの住む『マグナス大陸』から、霧に包まれ隔離された知られざる人外、まぁ、基本的には『亜人』と呼ばれる者たちの島『エディアル島』。

 少し前に、人間のいないエディアル島に、『人間が経営する店ができた』と少し噂になった。正にそれは正しく、エディアル島のほんの数人の人間が経営し、依頼や相談を受ける店、それが『何でも屋 ゆめの』だった。


 『なんで人間が!?』や『そもそも見たことがない……』、『てか、ここに人間って来れるの?』など、様々な困惑と話題があった。

 しかし、急に『人間が経営しています!』などと明言してしまえば何かと変に怪しまれるため、あくまで『人間の個体を完璧に模倣した亜人です』と、そんなフレーズを掲げている。もちろん、私は正真正銘人間だ。


 エディアル島に住む亜人は基本的に、マグナス大陸の方に行ったことはなく、そもそも人間自体を見たことがない方が多かったことから、珍しさや貴重さがあったのも、話題が広まった理由の一つだろう。


 そんな『何でも屋 ゆめの』は複数の人間が代わりがわりに、一人ずつ店番が変わっている。プレオープンの5分。通称『伝説の5分間』"だけ"はこの何でも屋の『店長』が接客を。そして、今日はこの私、『ダリア・フレースヴェルグ』ちゃんが店番。


「……ボクさ、毎回思うんだけど……お姉ちゃんっていっつもクマがあるよね~」


「あー……まぁ、発明が楽しすぎてつい……かナ」


 シャックスからの質問に私はそっと答える。

 確かに、正直寝不足だ。昨日何か新しいものが作れそうで止まらなくなってしまっていて、気付けば朝に。……なるべくそういうのは止めておきたいんだけどな。

 

 そうして開店から数分後、カランカランと入店ベルが鳴り、扉がゆっくり軋みながら開く。


「……わっ!?ほ、本物の人間!?……あっ、あの!ここが何でも屋……で、あってますか!?」


 ペコリとお辞儀する少女。

 本日の魔物娘のお客さんは、かわいらしい角とウサギ耳がついたアルミラージのリーファちゃん。初来店だ。


「ソウダヨー、ここが何でも屋で間違いないネ。それで、本日はどんナご用件で?」


 彼女は指と指を合わせてモジモジしながら、意を決したようで話してくれた。


「あっあの……わ、私……友達が出来なくて……ど、どうすれば友達が出来るのか、そ、相談しに来たんです……!」


 ちょっぴり意外な相談だった。

 もちろん、何でも屋であるから、依頼事だけでなく相談も受け入れてるのだが、亜人も人間のように友達が欲しいなんて言う者がいるのだと、思った。


「……友達?いないノ?」


「は、はい……私、人見知りで……ほかの子に話しかけようとすると、どうしても萎縮しちゃって……」


「ンー……なるほど。じゃあさ……この二人に相手してもらうかな?」


 ちょうどカウンター下にいたシャックスとセーレを猫のように引っ張りだす。見た目はリーファちゃんのような幼さに似ているよだったから。


「えっ、ボクたち!?でも、お姉ちゃんの頼みならいいよ~!」


「……(コクン)」


「えっ、ええええ!?い、いきなりそんな!?」


「大丈夫大丈夫、ホラ、リーファちゃん、この子たちが練習台だと思ってサー、一歩踏み出してみヨ?」


 彼女に判断委ねるために優しい声で。

 自分の経験からなのだが、友達って一概にバカに出来るものではない。だからこそ、自分から踏み出すことが何よりも大切。

 声をかけてからなんて、後から考えればいいだけだから。


 彼女は少しだけ間を空けた後、コクンと頷いた。そして、カウンター横のイスに二人と一緒に座った。私はそれを横目に見る程度で、後は本人次第だ。


 これが、何でも屋の仕事の一つ。

 そうそう、これこれ。最近暇だったからこういうほんわかというか、優しいお願いや相談も受けいれる。というかもっと来て欲しい。

 けれど、どうしても私は「友達」というワードには、クイッと何かが引っ掛かってしまう。釣りで引き寄せられる魚みたいに。


「相談事……相談事」

「……友達、かぁ。………はぁ。」


 ……不意に、ため息と、脳裏に二人の友人がよぎる。

 別に私にも友達がいなかったわけではない。ごくフツーの人間だったし。

 

 ……一人は小さい頃からの男の親友。

 もう一人は不思議ちゃんなところもあった女の親友。

 大体は三人でいた。日常も、暇なときも、祭りも、あらゆる時も一緒だった。


 誰に言い聞かせるわけでもなく、私はそっと椅子に背中を預けて天井の木目を見て呟いてしまった。


「…………会いたいナ。約束、果たせなかったし。積もる話も……あるのになぁ。」


 ──二人はもういない。『いなくなってしまった』というよりは『消えてしまった』の方が正しい。あの時、二人は──


 しかし

 カランカランと入店ベルが鳴り、そんな私の思考を遮る。


「…………ン?……あなたは。」


 入店してきたのは、大人の女性。貴族がつけるようなつばの広い黒めの帽子に、グリーン・カーキのロングコートという、異質な服装。ハーフアップの灰色に近い白の髪はどこか上品さを感じさせるものだった。

 人間の文化がここまで現れるような服。

 するとその女性は口を開く。


「……む?今日はその姿なのだな、ダリア。いつものクマがもっと酷くなっている。分かるぞ~私にもあるなその経験は。」


「うっわぁーー!!!"ダンタリオン"!まーた来やがったネホントに、時間泥棒常習犯!でもありがとう最近暇だったカラ!!」


「だろう?我は博識だからな。」


「それ博識関係ないでショ」


 妙に自信満々で麗しいこの女性。

 ──"ダンタリオン"。

 『ソロモン72柱』における第70柱の悪魔。老若男女の顔を持ち、あらゆる知識を持つ存在……なのだが、今やこの店の常連であり、良き友人。

 

 でも悪魔が普通に客として来るのはホントに止めて欲しい。来るやつによっては店が破壊される。もっとこう……事前にアポとか取らないのかこの悪魔。


「というか、来てくれるのはありがたいんだけど悪魔来たら生態系終わるってなんども言ったはず。てかなんでそんなに天外からすんなり来て店に来てんの!常識は何処(いづこ)へ?」


「む?我はただこの店の客として来ただけだからな、なんの問題も無いであろう?」


 悪びれなく当たり前のことを言う彼女。


「いやまぁソウ、ソウなんだけど……!」


「まぁ、我の目的は元よりお前だ。ただ、様子を見に来ただけだから安心だろう。」


 どこがっ、安心っ、できる!?

 博識なのに『安心』の意味すら知らないんじゃない?その知能は飾りなのかホントに。


 でも、確かにダンタリオンはまったく危害を加えてこないし、話をすれば勝手に帰るのでまだ優良客であることに、頭が痛い。

 そんな彼女ダンタリオンはカウンター前の椅子に座り、こちらをジト目で見てくる。


「今のお前の心の中での発言は少々言いすぎだと我は思うがな。不敬罪死刑。それが普通なほど」


「アッ」


「まぁいい。我を"優良客"としっかり認めているところは評価している。それに、我はお前への興味はまだ失っていない。いや、失うには惜しすぎる」


 ダンタリオンは不適な笑みを浮かべる。

 しかし、正当な評価とは思えないその発言には、少しばかり嬉しいものも私にはあった。


「別に、私ってソンナ興味引く人間じゃナイと思うけど?」


 吐き捨てるように自嘲の意も込めて言う。


「そうでもない。」


「えっ?」


「この間……いや、お前にとっては少し前に、初めて我らが会った時に話したはずだ。我が思う、お前の()()()を。それだけで、我が図書館に知識として、お前を書物として組み込む価値はある。それと、お前の世界のことも。」

『どうしてこの世界にいるのかが分からない』


善行や悪行を積んだ訳でもなく、死に絶えた訳でもなく、神様に選ばれた訳でもない。

誰かに呼ばれたりもない。ここに存在する理由も分からず、自分は自分としてここにいた。


その代わり、何故か大体のことは出来るようになった。不思議な感覚。やったこともないのに、何故かできた。『自分が知らないときに経験でもした?』という可能性はありそうだが、よく分からない。ただ、持っている力が強いこともあるが故に、ダンタリオンやその他の悪魔……例えば、シャックスやセーレに目をつけられた。


シャックスとセーレもダンタリオンと同じく『ソロモン72柱』の一柱だ。二人は単純に私たちに惚れたのもあるが、興味が出るよりもとから友好的だった。


「……おい、聞いておるかダリア。まったく、話の続きだというのに。」


「……アッ、ごめん。えっと、どこからだっけ」


「はぁ……今は、お前のいた地球における我ら悪魔はどのような存在だったのか、を聞いておる」


「あ、そっか。えーと、悪魔は……」


思考で遮った会話を再開させる。ダンタリオンさんは天外から来た存在であり、あらゆる学術の知識があるからといって、自分達がどのように地球という別の星で語られてたのかは知らないらしい。

毎回、この話は長く続く。一番長い時は六時間も付き合わされた。その時は『地球の遊戯』が話題だった。探求心がすごいのは分かるが、勘弁してほしい。


「ダカラこうして……こう伝わってて……」


長々と話してる間にもお客さんはやってくる。なので、来たお客さんには相談、依頼したい内容を紙に書いてもらい、後日行うというもの。


──そして、数時間後。


「……だから、グリモワールや翻訳された本次第では解釈に違いがあるの。でも、根幹的な部分は同じ、ということ……。……ネ、もういいかな。閉店時間なんだけど。うちはそんな夜間までやってないカラ。」


「……む?もうそんな時間か?いやはや、時間の感覚が掴めなくてな。」


彼女はスッと立ち上がった後、『お話代金』と称して変な硬貨を置いていったあと、去っていった。


「……あの、お話、終わりましたか……?」


ちょこんと、リーファちゃんがシャックス、セーレと共にこちらを覗いてる。


「アッ、エッ!?もしかして話し終わるまで待っててくれたの!?あ~……そっか……それは申し訳ない。どう?お友達になれた?」


「うん!ボク、リーファちゃん好きになった!」


「……セーレも。リーファ、友達……」


「ふ、二人と話すのとっても楽しかったです!わ、私、なんだか友達づくり、出来そうです!」


三人はワイワイと、笑顔で、楽しそうで、昔の自分を見てるような気分になった。でも、この三人を見るからこそ感じることもある。一言で言うなら『尊い』。やべーかわいい。


「………ははっ。……そうだ、リーファちゃん。今日はもう遅いから、泊まる?」

初めまして。俗に言うぺーぺーの薬缶です。

暖かい心で見守っていただけると幸いです。

拙い部分もあるとは思いますので、よろしくお願いいたします。

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