EP7 ◇新造初号機屋台は01 オバンゲリほ~ん??◇
______ほあぁ!
私が何をしているかと言うと、初号機屋台01を試しに引っ張っているのです。
「げっ軽いじゃん! 01って初号機? オバンがゲリしたんか? ほ~ん」
それが私の第一印象でした。
「ふ、この屋台にはね、人に言えない秘密があるんですよ。ま、今は秘密のシークレットって事で」
『アレを話すには、まだ早すぎる』
『ケッ もったいぶりやがって。どうせ碌なもんじゃねぇし』
しかし流石に四輪は安定していて、ラーメン30杯分の麺とスープ、冷蔵庫とビンビール、酒、折り畳み椅子などを効果的に収納出来るし、電動四輪駆動は実に快適なのでした。
新屋台のお披露目なので、政さん、鉄さん、福山電池に中華飯店の大将夫婦、それに母が後をついてきました。
「今日は私の初舞台みたいなもの。お代は食べてのお帰りだよ~」
「麗美ちゃん、それ金を取るやくざな手口だぞ。知ってて言ってるのか?」
やっちまった。
「威勢はいいが、使う言葉の容量、用法は知っとかんとあかん」
大将がやれやれと言った顔でそう言うと、注文を受けて私の代わりにラーメン作りに突入。
私はと言うと、ギターで昭和の語り弾きスタート。
♪あなたは もぉぉ 忘れたかしら~
♪なんでもないような事がぁ 幸せだったんじゃないかとぉ~
しんみりと歌い上げると、おいおいと政さん、鉄さんが泣くんです。
「そんな悲しい歌かな? 銭湯の前で待ち合わせするカップルの歌でしょ? 泣く要素がどこにある?」
「お嬢、その後なんだよ。俺達だって若かったんだ。希望もあった。泣ける歌なんだよ、今の俺達は昭和枯れすずきだ が」
「へぇ~、美味いラーメン食べてビール飲んで、美少女が歌うフォークで泣く。政さん、鉄さんって、結構純なんだね」
______「いやいや、そんな事はないぞ」
そこに現れたのは、最初にラーメンを食べてくれた老人でした。
「御老人、らっしゃい!」
「屋台はな、人生そのものなんだよ。いろいろな人が集まり、愚痴も秘密もこぼせる場。それを訊いてくれるのが屋台の大将であって、胃袋と心の救いの場でもあった」
まるで道徳の時間だ。
「難しい話をされても、私にはうんうん へぇそうなんだぁ~って言うくらいだし。屋台の大将って、そんなに大変なんですか?」
老人はふッと笑う。
「お嬢ちゃん、それはな、どれだけ人生で苦労したか。あんたのお父さんは、それを経験していたからこそ、他人の話が訊けたんだ」
私は老人の言葉の意味が理解出来ませんでした。
うぅぅ。
「分からんのも仕方なし か。Z世代だのう。マシンガーZは知っとるだろうが」
おもむろに老人は、醤油ラーメンを注文しんさった。
「ところで、ホッピピーはないか?」
「なんだそれ?」
「やはり知らんか」
それ以降老人は、ただ黙り込んでいた。
中華飯店の大将は、老人が何を言いたいのか、ぼんやりとだけれど理解したようで、時折うんうんと頷いていた。
かたや福山電池は、新造屋台の点検に余念がなく、あちこちを見て回っていた。
「どこも異常はないみたいだね。明日からはバンバン稼げるよ」
「まぁ一応お礼は言っときます。ありが と う 電池」
「あのさ、なんで間があるの? それにもうボクの名前を覚えてくれないかなぁ? ボク達は、もう運命共同体 なんだからさ」
嫌だべぇ~!
「なんでだよ!」
電池が怒った。
その日も30杯を売り上げた所で閉店、01は無事中華飯店ドックに帰還したのでした。
______ところで新造屋台01初号機は順調そのもの。売り上げも30杯で打ち止めの日々が続いたのです。
それにメイド屋台でギターの弾き語り。もの珍しさから、やっぱりマスコミもやって来ます。
だけど私は取材断固NG。そんな私に代わって、政さんや鉄さんが、地元新聞社のインタビューに答えてくれたりして、サンデー版にカラーで掲載されたりと、不本意ながらローカルなアイドルみたいな存在に祭り上げられてしまったのよ。
「あいつ等、相当、私をよいしょしてるんじゃないよな? まさか組を作るつもりか?」
お陰で見物人が多くなると、当然商売の邪魔になる。中にはサインだとかふざけた輩も現れるので、そこは政さんや鉄さんが睨みを効かせてくれました。
「なんだよ。やくざのラーメン屋なのか?」
言いたい奴には言わせておけばいいのです。
私は相変わらず、お客様以外の野次馬には無愛想。
「こまけぇこたぁいい。世の中は金だし。それが私のモットーなのだ」
それを訊いた政さんや鉄さんは、ちょっと悲しい顔をしたのですが。
◇男だっていろいろあるんだよ◇
______この二人、かなり荒れていた時期があったと思う。
誰にだっていろいろあって今がある。そんな事は本人が酒の勢いで話した時、訊いてあげればいいと思うのです。
『私だって、こんな男勝りな性格より、美少女らしい性格だったら......そんな性格なら、屋台を曳かずに美少女アイドルを目指していたかも」
さてラーメンの匂いか私の美貌に魅かれたのか、間違いなく前者だろうけど、一匹の黒猫が纏わりつくようになったのです。
みゃぁぁぉ
腹が減っていると思って、半端なチャーシュー、鳴門、メンマをあげると、ピクっと一瞬驚いたような表情をし、やがて旨そうに完食してくれた。
「ふふ、君にはわかるのだね、私のラーメンの味がって、全部中華飯店の大将が用意してくれたものばかりだけどさ」
ニャ~
それから私は毎晩のように現れる黒猫に、餌づけしてしまいました。
「お嬢は猫にも好かれるんですね」
「いやいや政さん、ラーメンに釣られて来るだけだよ」
「こりゃタマが付いているので雄ですぜ。人間の男ならぶっ飛ばすところだが、俺も猫相手にそこまではしないさ」
フゥー
シャァー
「なんか毛を逆立てて怒ってるよ政さん?」
「ほう面白れぇ、相手にとって不足なし。隙があったら、どこからでもかかってきな! 俺はな、こう見えて通信教育で空手三段だぜ」
「ニチイの政さん、あんたどう見ても相当弱くね?」
「お嬢、これでも鉄と有事に備えているんでっせ」
??
「有事ってなんだよ」
「お嬢......今は知らなくていい」