EP6 ◇四者怪談で船が出た?◇
______福山電池との話し合いは、中華飯店の定休日になった。
「ほぉ、この人が噂の臓器売買の闇ブローカーか?」
「ち、違いますよ」
「大将、この男はね、私みたいな美少女を売り飛ばす<組織>の人間だよ」
「シンジケートね」
母も、福山電池を怪しいと睨んでいたのだ。
ダン!
「だからぁ~、ボクはシンジケートでも闇ブローカーでもないんですってば!」
堪らず福山電池が机を叩いた。
「しかしなぁ麗美ちゃん、俺も一応調べてみたけど、真っ当な会社だったぞ」
「でもさ、屋台にロゴ貼るだけで、私の屋台を改造してくれるなんて.....どう考えても怪しいじゃん。やっぱり美少女の私を東南アジアに売り飛ばすんつもりなんじゃ。顔がいいから、そうやって美少女を騙しているんだよ」
「確かにマサハルに似ているわ」
ポッ
「母ちゃん、なんで顔が紅いんだよ! これがこの男の手口なんだってば!」
「あの~、いい加減、ボクの話を訊いてもらえませんか?」
呆れた顔をしているのは福山電池だ。
「今や自転車、キックボード、シニアカーなどモーターでアシストする分野が増えていまして、屋台は実験モデルなんです。この先電動台車、電動小型リフトなど、我が社は生活に密着した製品を開発しているところでして」
「だけどラーメン屋台では、あんまり宣伝にならないのでは?」
『呪縛が解けたかGJ母、もっと言ったれ。この粘着変態男に』
「宣伝とは何か。TVCMや広告ばかりがCMではないのです。屋台は人が集まる場。そこでは珍しい電動屋台の話題も出る筈。まず知って貰う事が大事なんです。私の会社はまだまだ知名度が低く、お嬢さんの屋台に言わば投資したいのです」
「ま、理屈は通るけどな、しかし屋台の電動化なんて需要があるのか? それを全部ロハでやるってんなら、俺は反対はしないがよ」
早くも大将が折れた。
「勿論ロハです。しかも冷蔵庫まで付けると言う出血大サービス。さぁこのチャンスをお見逃しなく。受付は今から30分間!お電話お待ちしています」
『まるでシャバネットじゃねぇかよ、福山電池! それでどこから血ぃが出るんだよ』
疑惑は兎も角、会社はちゃんとあるしネットの評価もいい。私は意を決して屋台の電動化を頼む事にしたのですが、改造には屋台を会社まで持って行かれてしまうので、この際、福山電池が代替えを用意してくれる事にまでなったのです。
『何故、そこまでする福山電池......やはり目的は、この美少女のカラダか!』
閑話休題
それでリニューアル屋台が出来るまでは、仮物の屋台で営業となりました。
「一か月待って貰えます?」
「しゃぁねぇなぁ」
『上等だ。それくらいなら待ってやるけど』
タダで作って貰うのに、武士の商法も真っ青な私の態度である。よくこれで福山電池が激怒しないものだ。
父の形見の屋台を盗られる訳じゃなし。私に損はないのでした。
「福山電池さんよ、やっぱり目的は私だよな」
ギク
『今、完全に目が泳いだぞ』
それから毎日が平穏に過ぎていったのですが、それでも昭和の味とは何か、研究は続けてたよ。
◇初号機納入の儀◇
______あれから福山電池が顔を出す事はなかった。
ラーメンの売り上げは、なんとか30杯を完売出来る程になりました。
「上出来だけど、でも昭和の味って何が違うんだろう。誰も教えてくれないしさ」
世の中、人から教えられない物は沢山ある。ゼロから試行錯誤して立派な人物になった人は多いのだ。
「例えばソーイチロウ・オンダとか」
______約束の一か月が経過。
納品は定休日の中華飯店の前だ。
横付けしたトラックのクレーンから、カバーで覆われたままの屋台が降ろされた。
「大変お待たせしました」
『福山電池が妙にニコニコしているけど、余程の自信作なのか? 一般的な屋台を電動にしただけだろうに。まぁ折角だし見るだけ見て、ケチ付けて返品したろか』
では!
トラックのスピーカーから、ドラムロールの音まで出しやがった。
バーン
それに合わせて、福山電池の子分達がカバーを捲った。
おぉ
ちょっと全長が長くなっていて、それに四輪仕様だった。
「どうです? 四輪なので安定しますし、お客さんが四人は座れる長さですよ。ちゃんと収納折り畳み椅子も付いてます。目玉はこの屋台は四輪駆動でタイヤはオールシーズン、アイスバーンでも安心なのです」
ほぉ~
『ジムニィかよ! それに凍結してたら休業するぜ普通』
新屋台は雰囲気を壊さない為の木製を維持、赤ちょうちんや照明を点灯すれば、屋台として不満はない。
よく見ると、屋台後部裏には鉄板で<新昭和電池>の看板が付いていた。
「でかい。それよりこの赤い暖簾は?」
「フッ、屋台の屋号ですよ」
福山電池はさらりと言ってのけた。
<歌うメイドラーメン屋台麗美組>
「何ですの? これ」
母も怪訝な顔をしていた。
「いや、政さんや鉄さんの要望でね、即採用したんですよ。そうしたら意気投合しちゃいましてね。いやー良かった良かった」
『って事は福山電池も<舎弟>になっちまった? なんだよそれ』
「いやね、お嬢の屋台ラーメンはね、<麗美組>でもう有名ですから。メイド姿で気風がいいと、その筋の人にジワジワと評判なんですよ」
「どの筋だよ! 腹筋か?」
「それでその暖簾まで作ったんかい? そんな看板背負ったら、お客人が寄り付かないんじゃ?」
「大丈夫、大丈夫。モーマンタイ!」
「福山電池おめぇ、中国人だったんかい」
「いえ、生粋の日本人です」
「本当におめぇ、謎まるけだな、おい」
「お褒めに預かり恐悦至極です」
もうええ。
私の心配をよそに、船はもう出てしまったのです。
「固定のお客人はなんとかMAX30人。これ以上増えても......私が困る。うん、これ位が私には丁度いいんだ。地道にいこう」