EP4 歌うメイド姿の美少女屋台ラーメン爆誕
______ドクン トクンと胸の鼓動を感じるのは......。
「やはりこれは緊張するよね」
19時を回ったところで、私は前から決めていた秘策を実行する時が来たからです。
ところで、あれからあの老人や、少ない父のお馴染みさんが来てくれたからで、今では10人くらいが私の常連さん? になってくれました。
『まだそうとは言い切れんけど』
「ふッ、これは私の若さと美貌とメイド服の勝利なのだ! でも売り上げは10杯だよ」
それでも毎回、昭和の味とはちと違うかなと、皆さんは少し残念そうでした。
『まさか皆、馬鹿舌なんじゃ?』
______ある日、そのうちの一人が、赤暖簾をかき分けて椅子に座ると、私はすかさず。
「へい、らっしゃい!」
と景気づけに大声を出すと、今座ろうとした馴染みになったお客さんが、椅子から転げ落ちてしまいました。
どて。
「う、麗美ちゃん、なんだよそれ?」
「え~と形だけでも昭和にしようかなっと。だってみんな昭和、昭和って言うからじゃん!」
「そ、それは何とも......少なくとも俺は応援するよ あはは(汗)」
少ない固定客さんの有難い御言葉でした。そして私はフォークギターを取り出したものの、選曲に悩む事になったのです。
♪おらは死んじまっただぁ~ 天国よいとこぉ~
これじゃ縁起が悪いし古い?
♪神田川 あなたはもう忘れたよね~
ボケ老人には悪いけどこれでいくべ。
屋台ラーメンを食べながら、美少女がメイド服とギターで昭和の歌を歌う。
歌う屋台の珍しさもあってか、次第にアパートの住人も寄って来て、SNSで拡散する事態となってしまったのです。
お陰で奮発して準備した20杯のラーメンは完売したのですが、私はあの老人の言葉を忘れてはいません。
アパートの住人の話題を呼んだ美少女メイド屋台ラーメン。20杯では足らなくなったので更に増量30杯にしたのですが、これが私の限界なのですよ。
なにしろ屋台の重量は、か弱い私が曳くにはヒジョーに重いからで。
『根性だけでは、屋台は曳けんぞな』
◇謎のスポンサー?◇
______私がヒーヒー言いながら、いつもの場所に着いて汗をふきふきしていると、一人の青年が現れてラーメンを注文したのです。
『こりゃオタク系だな』
「おねえちゃんが一人で? へぇ~この屋台は面白いねぇ~」
ども。
「ところで、こんなところに中華飯店のロゴが貼ってあるけど、ボクの会社のロゴも貼ってくれないかな?」
へ? 今なんと?
私が戸惑っていると、ちょっとイケメンな彼が名刺を差し出したのです。
「ふむふむ新昭和電池......しんしょう わ でん いけ」
「あのさ、どうやったら、そんな読み方が出来るの? お嬢ちゃんの屋台、一人で曳くの大変でしょ? ボクの提案を受けてくれたら、いろいろメリットがあるんですよ。勿論、こちらにもメリットがあるからですけどね」
はひ?
『シャンプーをくれるんか?』
ちょっと見、俳優でミュージシャンの福山さんのような、それでいていかにも電池を作っているな~と言う印象でした。
「それで福山電池さん」
「福山?、いえいえ昭和 元です。渡した名刺にちゃんと書いてあるでしょ?」
早い話がリチウム電池とモーターで、屋台が軽く曳けるようになる改造をすると、バッテリーで赤ちょうちんや照明の電源にも使えるようになるそうだ。
私としては有難い申し出なのですけんど、いきなり福山電池に言われてもね。かねがね金がない!
「ムゥ、これは怪しい.ぞな.....狙いはまさか! はッ!」
私はジト目で福山電池を見上げました。だって背が高けぇんだよ。
「あのさ、今とても妙な事考えてなかった?」
うら若い美少女が一人で屋台を曳けば......セキュリティーの問題があるのです。だから営業は21時まででっせ、お客じん。
「無理もない。ま、いきなりでは警戒するよね。取り合えず味噌ラーメンを」
へ、へい♪。
『ふ、味噌だね。大将自慢の味噌だぞ』
客となれば話は別。私はコロッと営業スマイルに変身だよ。
この味噌ラーメンも、中華飯店の大将から分けて貰っている味噌。口に合わない筈がないのです。
ズ
「これは......名古屋の地味噌かな?」
「そこは企業秘密のトップシークレットだで」
「答えが出てるじゃん」
「す、鋭いな電池」
『それいいとして美味いのか不味いのか、はっきりせい福山電池ぃ!』
「味噌ラーメンとしては完成している。これなら客は増えるだろうけど......」
むッ
『何が言いたい福山電池!』
私はイライラしながら、その続きの言葉を待ちました。
「悪いけど、何か微妙に足りない物がある。もしかして舌の肥えたお客さんから、同じ事を言われてない?」
むぐぅッ
『何者だ こいつ』
あの老人と言い、準常連さんも似たような事を言っていたからです。
「ボクの話を前向きに検討してくれれば、いろいろ相談に乗るから、そこんとこヨロシクで。じゃまた来るから」
チャリ
スープまで完食して500円硬貨を置くと、後ろ姿で手をヒラヒラさせて去って行きやがった。
「くそぉ、腹が立つぜ福山電池!」
「だけど美味いけど、微妙にこれじゃない感って、父はいったいどんなスープを作っていたんだろう? レシピなんて残してないし......そう言えば父は出張が多かったけれど、それは関係ないか?」
嫌な客でも金さへ貰えば神様だ。
謎めいた老人と、出合ったばかりの怪しさ満載の福山電池。
この二人がこれから、何かと私に絡んで来る事になるのだった。