第九章:もうひとつの扉
「ねえ、美由紀ちゃんって……SMとか、興味あったりする?」
ある夜、ユウナがふとそんなことを言った。
「SM……? って、あの、ムチとか縛るとか……そういう……?」
「うん。でもね、最近のSMって、それだけじゃないんだ。むしろ“信頼の上に成り立つコミュニケーション”って感じ。美由紀ちゃん、ちょっとだけ興味あるんじゃないかなって思って」
最初は戸惑った。でも、どこかで心の奥が静かにざわついた。
“支配されることに安心を感じるって、変なのかな”
“痛みじゃなくて、包まれる感覚だったら……?”
ユウナは、都内のとあるプライベートサロンに誘ってくれた。そこは、初心者でも安全にSMに触れられるように配慮された場所だった。室内は決して暗くなく、清潔で静か。スタッフも優しかった。
そこで出会ったのが、**黒澤**という年上の女性だった。レザーのロングスカートに、知的な眼差し。彼女はこの空間のファシリテーターであり、「ドミナ(支配者)」でもあった。
「美由紀さん、“誰かに許されることで自由になれる”って感覚、わかる?」
「……ちょっとだけ、わかる気がします」
「じゃあ、一度だけ、何もかも委ねてみませんか? すべては、あなたの“YES”があって初めて始まるのよ」