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第八章:名前を取り戻す日
ユウナの家は、小さなワンルームだった。観葉植物と、ナチュラルな木の家具に囲まれていて、どこか落ち着く空間だった。
紅茶を飲みながら、美由紀は少しずつ、あの夜のこと、そして今の気持ちを話し始めた。声は震えたけれど、ユウナは遮らず、最後までじっと聞いてくれた。
「……美由紀ちゃん、それはね、あなたのせいじゃないよ」
そう言って、ユウナはそっと手を重ねてくれた。
「騙した方が悪い。あなたが優しかったから、信じただけ。だから、どうか、自分を責めないで」
その言葉は、美由紀の心に深く沁みた。許されたような気がしたのではない。ただ、存在そのものを否定しなくてもいいんだと、ようやく思えた。
「……私、また、美由紀になってもいいかな」
ユウナは、微笑んだ。
「ううん、あなたはずっと美由紀だよ。それは、誰にも奪えない」