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第七章:声をかけてくれた人
それからしばらく、美由紀はカフェにも行かず、女装もせず、てつとしてだけ過ごした。だけど、心は空虚だった。あれほど楽しかったメイクも、服選びも、今はただ「怖いもの」に変わってしまっていた。
ある日、SNSで知り合った女装仲間のユウナからメッセージが届いた。
「最近見かけないけど、大丈夫? 何かあったのなら、話してほしいな」
その一文に、ふっと肩の力が抜けた。ユウナとは数回カフェで言葉を交わしただけの仲だった。でも、その優しさは嘘ではない気がした。
勇気を出して、メッセージを返した。
「……少し、つらいことがあって。女装が、怖くなってしまったんだ」
ユウナはすぐに返してくれた。
「よかったら、うちにおいでよ。別に女装してなくてもいい。てつ君のままで。おしゃべりだけでもしよう?」
その誘いに、美由紀――てつは、少しだけ心が救われたような気がした。