第四章:出会いの予感
その後も、週に一度は「美由紀」として外出する日を作った。公園、ドラッグストア、カフェ、そして古着屋。少しずつ、距離を延ばしていく。
ある日、美由紀は偶然ネットで「女装カフェ」という言葉を目にした。
― 女装子やトランスジェンダーの人たちが気軽に集まれる場所。服装自由、誰でもウェルカム。
「……行ってみようかな」
不安はあった。けれど、どこかで「誰かと話したい」と思っていたのだ。
土曜の夜、初めて訪れたそのカフェの扉を開けたとき――
「いらっしゃい! 初めて? 緊張しなくて大丈夫よ」
明るく声をかけてきたのは、鮮やかなドレスを身にまとった先輩女装子・レナだった。どこか母性的で、優しく、でも堂々としていて、美由紀は一瞬で惹かれた。
「あなた、ナチュラルで綺麗ね。自分でメイクしてるの? 上手」
「えっ、あ、ありがとうございます……!」
嬉しさと照れくささが入り混じり、美由紀の頬は紅潮していた。
その夜、美由紀は初めて「女装子仲間」と心から語り合った。好きなメイク道具の話、最初に外に出たときのこと、親にカミングアウトした人の話、恋の話――。
「私だけじゃないんだ」
そう思えた瞬間、世界はほんの少しだけ優しく見えた。