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第二十三章:静かなる火種
慎との関係は穏やかな時間を取り戻していた。身体を重ねるたびに、感情はより深く繋がっていく。
美由紀はもう、キスを「確かめるため」にしていなかった。彼の手に触れられるとき、そこに信頼があった。
だがある日、慎がふと漏らした言葉が、美由紀の胸をざわつかせた。
「……理子さん、最近また連絡が来ててさ。仕事絡みだけど、少しだけ会うことになってる」
その一言で、かつて収まったはずの嫉妬の火が、静かに再燃した。
「そうなんだ。……言ってくれて、ありがとう」
表情には出さなかった。けれど、心は冷たく、重くなった。
“信じたい。けれど、私はまだ完全には満たされていないんだ――”




