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第二十章:揺れる心、揺れる境界
慎には、元パートナーがいた。サロンでも有名だった年上のドミナ。彼がその関係を終わらせた理由を、美由紀はまだ知らなかった。
ある日、サロンでその女性・**神宮寺 理子**と出くわした。
「あなたが……慎くんの新しい子ね。ふぅん。かわいいじゃない」
笑いながらも、その声には鋭さがあった。目が、値踏みするように美由紀を見ていた。
その日から、美由紀の胸の中に、黒くて小さな感情が膨らみ始めた。
慎といる時間が、だんだん“癒し”ではなく、“確認”になっていく。
「ねぇ、私のこと、どう思ってるの?」
「大事だよ」
「……それだけ?」
慎は戸惑いながら、抱きしめた。
けれど、その腕の中でも、美由紀はふと「この温もりは、あの人にも向けられていたのでは?」と考えてしまう自分に気づく。




