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第十五章:ゆっくりと、侵されていく
それは、偶然だった。
黒澤の主催する小さなワークショップで、美由紀は**相川 慎**という男に出会った。
年齢は三十代半ば。物静かで、少し不器用なところもあるが、目の奥にはどこか“痛み”のようなものを抱えていた。彼は、支配者でも被支配者でもなかった。
「自分がどちらなのか、まだよく分からないんです。ただ……本音で話せる相手がいたらと思って来ました」
その言葉に、美由紀は不思議な共鳴を覚えた。
「……私もそうでした。ずっと、“どちらか”にならないといけないと思ってたけど、そうじゃなかったんだなって」
ワークショップのあと、自然と二人は連絡を取り合うようになった。初めてのメッセージに、慎はこう書いていた。
「あなたと話すと、少しだけ、自分が許されているような気がするんです」