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第十四章:支配の彼方に
日常に戻ったある日、美由紀はふと気づいた。
電車の中での視線。カフェでのちょっとした言葉。以前なら萎縮していた場面でも、もう「取り繕おう」としなくなっていた。
「支配されることを経験したからこそ、自分を“中心に据える”感覚が分かったんだ……」
SMという世界で失ったと思ったものの中に、実は「自由」があった。
黒澤との関係も、より静かなものに変わっていった。激しいプレイをすることは減り、代わりに哲学のような会話が増えた。
「美由紀、あなたはもう、“される側”だけの人じゃない。次に求めているのは、“関わること”でしょう?」
美由紀は、静かに微笑んだ。
「……誰かの“居場所”になれる存在に、なってみたい」