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第十二章:名前で呼ばれること
それから、美由紀は時折、黒澤のもとを訪れた。
時には手を縛られることで安心した。時には跪くことで、心が静かになった。けれど、そこにあるのは「屈服」ではなく「解放」だった。
何度も黒澤は問いかけてくれた。
「これは“あなたが望んでいること”なの?」
「はい……私、こうして誰かに“いいよ”って言ってもらえることが、嬉しいんです」
美由紀は、幼い頃から誰かの期待に応えようとして生きてきた。女として振る舞うことも、最初はその延長だったかもしれない。でも今は違う。
「私、美由紀って名前を……“愛される名前”にしたいんです」
黒澤は微笑んだ。
「それはもう、十分そうなっているわよ。あなたがあなたを許した瞬間にね」