第1話「目覚め」第2話呼びかけ
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第1話「目覚め」
刑務所の冷たい独房。
天海翔蓮は、ぼんやりと天井を見つめていた。
彼は死刑囚だった。しかし、なぜか執行は先送りにされ続けていた。
時間だけが無意味に流れ、彼の肉体は衰え、髪も伸び放題になっていた。
ある夜。
独房に差し込んだ月明かりの中で、翔蓮はふと何かを感じた。
――終わっていない。
心の奥底で、確かに「光」が揺らめいていた。
自らの肉体は滅びようとも、自分の思想は消えない。
そう確信する何かが、彼の胸に芽生えていた。
遠く離れた世界では、かつての弟子たちが静かに動き始めていた。
彼らの中には、まだ「救世主」を信じる者がいたのだ。
翔蓮は静かに目を閉じた。
「…我が子らよ、闇を越えよ…」
囁くような声が、冷たい独房に消えていった。
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第2話「呼びかけ」
かつての側近、水島優作は、出所後も社会に溶け込めずにいた。
履歴書に空白の数年を書けるはずもなく、就職活動はことごとく失敗。
日雇い労働で日々をつなぎ、狭いアパートで孤独な夜を過ごしていた。
ある日、見覚えのない封筒がポストに届く。
中には、一枚の紙だけが入っていた。
《光は消えていない。
闇を越え、我らは再び結集する。》
そして、最後に「妙音」という署名。
――天海妙音。
かつて、翔蓮の最側近だった女。
優作の胸はざわめいた。
これはただのいたずらではない。
何かが、確かに動き出している。
優作は迷った。
もう過去には戻るまい、と何度も誓ったはずだった。
だが、どうしても、胸の奥で「翔蓮の声」が蘇ってくる。
あの救済の光。あの絶対の教え。
「今の社会こそが病んでいる」という確信。
そして優作は、封筒の裏に書かれた住所へと、足を踏み出してしまった。
すべてを知っていた。
もう、後戻りはできないことも。
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