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そんし

『虚構の光』


1990年代初頭、日本は混沌の渦中にあった。経済のバブルは弾け、未来への希望は薄れ、人々の心にはぽっかりと穴が空いていた。そんな時代に、一人の男が静かに、だが確実にその存在を広げつつあった。


彼の名は、天海翔蓮あまみ しょうれん


長い髪に包まれた姿で、彼は「絶対的救済」を説き、多くの若者たちを魅了していった。宗教、哲学、科学、すべてを融合させたかのような彼の教えは、疲弊した社会を生きる者たちにとって、まるで砂漠の中のオアシスのように思えた。


翔蓮は、人類の苦しみの根源を「無知」と断じ、自己の覚醒こそが真の救済への道だと説いた。彼の教団「光輪真教こうりんしんきょう」は、瞑想、修行、そして独自の科学的技術を用いた精神修練を行い、次第にその勢力を広げていった。


しかし、その教団の内部では、表からは見えない奇妙な変化が起こり始めていた。翔蓮はやがて、「外界は堕落し、破滅へと向かっている」という預言を口にしはじめた。そして、信徒たちに対して、外の世界を浄化するための「特別な修行」と称して、過激な行動を指示するようになった。


表向きは慈悲に満ちた指導者。

しかし内側では、彼自身が抱える狂気と恐怖が、徐々にその教団全体を覆い尽くしていった。


彼のカリスマに導かれた若者たちは、疑うことを知らなかった。

彼らにとって、翔蓮は「絶対の存在」であり、「生きる意味」そのものだった。


だが、運命の歯車は音を立てて狂い始める。

ある冬の夜、教団内部で密かに行われた「浄化作戦」が外部に漏れ、社会は一気に教団へと警戒の目を向けた。


翔蓮はそれでも、全てを「必然」と呼び、信徒たちに最後の啓示を与えた。


「世界が我らを拒絶するなら、我らこそが世界を裁く者となろう」


その言葉に涙を流し、歓喜した信徒たち。

しかし、その先に待っていたのは、彼ら自身の破滅だった。


国家権力との衝突。逮捕、裁判、そして教祖である翔蓮自身の終焉。


拘置所の薄暗い独房で、翔蓮は最後まで「自分は間違っていない」と信じ続けた。

彼の目に映る世界は、今もなお「救われるべき場所」だったのか、それとも、ただの幻想だったのか。


外の世界では、春の陽光が静かに降り注いでいた。

だが、その光が届くことのない場所で、ひとつの物語は静かに幕を下ろした。

たぶんけす

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