第五章
第五章 愛島と恋崎
「う・・・」
次に栞が目を覚ましたのは、ほぼ使われていない体育倉庫の中だった。
「!!」
両腕が縛り上げられている。
降りかかるのは、罵倒と暴力。
「気がついた?」
晶、否。
晶のような者。
体は、確かに晶。
しかし、中身が違った。多くの時を一緒に過ごしてきた栞には直感で分かる。
「誰・・・?」
「まだ栞ちゃんなのね」
その口調は晶のものとは大きくかけ離れていた。
「私は、恋崎紅」
「!?」
恋崎紅。ついさっき、晶の口から聞こえた、過去の人間の名前。
「今のあなたは、栞ちゃんであり、紫でもある」
「え・・・」
「今の私は、晶でもあり、紅でもあり、華でもある。もっとも、まだ生きている晶には意思を介入させる権利は無いけど」
「嘘・・・」
「本当よ?」
クスクス。笑いながら、栞の体を傷つけていく。
「香がもっと過去の人間だったら、もし死んでたら。もっと酷い仕返しが出来たのに。」
その時、陰からその残虐な行為をうっとりと見守る影があった。
「由螺・・・?」
「まだ栞のままなのか。自我が強いのか、それとも紫の自我が弱いのか」
由螺はクスリと笑った。
「お前が自我を保っていられるうちに、一つ教えておいてやる。
僕の家系は、代々愛島と恋崎の家系に呪いをかけ続けている。呪いをかけられた者の本能で、お前らは僕を殺せない。僕は、お前らのどちらかが死ぬのを見届けるだけだ」
「・・・!?」
「僕の先祖が、無実の罪を着せられて殺されたことがある」
「な・・・」
栞は痛みをこらえながら呻いた。
「その罪を被せたのが、お前らの祖先だ。その時、僕の祖先は血の呪いをかけて死んで行った。その先祖の遺志を継ぐのが、僕の義務」
栞は段々身体の自由が利かなくなってくるのを感じた。
痛みのためではない。自分の中に、何かが這入ってくる。
「晶ぁ・・・」
ここで、栞は記憶を失った。