第三章
第三章 翠、怜と由螺
「女子、全員来るね」
ベスが言いながら、栞を連れて廊下に出た。
それにつられてか、暴れる晶への恐怖心からか、他の女子達も廊下に出た。
人数は、全員で12人。
「一体、何で私達が?」
翠が口を開いた。怜もつられて言う。
「そもそも」
すっかり縮こまってしまっている栞をキッと見据えた。
「栞ちゃんと話してたらいきなり叫ばれたよね?」
「そうだよね」
他の女子も口々に言った。
「確かにね」
「愛島さん、晶に何言ったの?」
「そもそも、何で翠と怜なの?」
「こんなにクラス全体を巻き込んで、何がしたかったのよ」
その口調は、明らかに栞を非難している口調だった。
「ちょっと待つね」
ベスが間に割って入る。
「私もそこにいたね。栞は悪くないね」
「いたみたいだけどさ、ベスじゃない気がするんだよね」
「あ、分かる」
「同感」
その言葉を聴きながら、栞は俯いていた。
反論したくても、できない。
(だって、晶は私のために・・・)
「ああ、もう、分かったね」
ベスが両手を挙げて言った。
「お前ら調子に乗るなよ」
「!?」
ベスの口調が変わった。
「私の情報収集能力にケチつけんのか?あ”?」
「ベ、ベス・・・?」
みんなが一斉に動揺する。
「翠、怜。次に栞を傷つけるようなことしたらただじゃ置かねえからな」
「どういうことだ?」
ずっと黙っていた一人の生徒が口を開いた。
波武由螺だ。
「愛島。お前は虐めにでも遭っていたのか?」
「い、虐めというか・・・」
栞は、由螺を含めた全員の女子に全てを話した。
「ふむ・・・」
由螺はベスを見据えて言った。
「お前の言うことだ。間違えはなさそうだな。井立、野池」
由螺は視線を硬直している二人に移すと言い放った。
「え・・・」
「諦めろ」
「っ・・・」
翠は半泣きだ。怜は俯いたまま、顔を上げない。
「あ、あの・・・」
栞が恐る恐る口を開いた。
「何で、私・・・?」
「言えるわけないじゃない!」
怜は怒鳴り散らした。
「私達だって、好きでやったわけじゃない!!」
「え・・・?」
栞はきょとんとした。
「確かに、あんたのことは好きじゃない!だって、私が好きな人は、あんたが好きなの!」
「私も・・・」
翠が小さな声で言った。
「栞ちゃん、自覚ないよね?男子達に人気あるんだよ?でも、私達だってあんなことまでしようとは思わないよ。
でも、あいつに、やらなかったら好きな人に、私達の気持ちをばらすって言われたら・・・」
「もういいよ」
栞が呟いた。
「だって、二人とも嫌な思いしてるんでしょう?」
「栞・・・」
「黒幕が誰か、言って困るならいいから」
ベスが栞の頭を撫でた。
「栞は優しいね」
いつの間にか口調が元に戻っている。
由螺はまた無口に戻って、いつも通り黙りこくっていた。
「戻ろう」
ただ、それだけ言って。
教室に戻ると、男子達に宥められたらしい晶が俯いていた。
「晶・・・」
「栞、ベス、みんなも。騒いでごめん」
さっきまでの喧騒が嘘のように静まっていた。
「ドンマイだなっ」
男子の一人がそう言うと、自然といつものクラスに戻って行った。