第二章
第二章 ベス・ファニアのWaterResoundInformationShop
「栞!おはよう」
「晶」
教室に飛び込んできたのは、息を切らした晶だった。
ちなみに、今は一時間目の自習時間。
「もうちょっと早く来なよ・・・」
「おまけにウルサイね」
栞の隣の席に座っているベスが笑いながら言った。
ベス・ファニア。母親が日本人のハーフらしいが、小学校時代は外国で過ごしていたらしい。
少しばかり日本語に違和感があるが、英語のテストはばっちりだ。
顔が広く、誰とでも仲が良い。故に、栞が喋れる数少ないクラスメートの一人でもあった。
「ベス、どうだった?」
「バッチリね!栞、晶、ちょっとこっちに来るね」
そう言うと、教室の後ろの晶の机にどかっと腰掛けた。
栞が椅子に座ると、晶が仁王立ちになって言った。
「そこ、うちの席なんだけど?」
「細かい事は気にしないね!皺が増えるよ!そんなことより」
ベスはニヤリと笑って言った。
「耳寄りの情報が入ったね」
「情報?」
栞が首を傾げると、晶が微笑んで言った。
「栞になら言っても良いよな。あ、他言無用で頼むよ?こいつ、人脈利用して情報屋やってるんだ」
「情報屋?」
「イエス。WaterResoundInformationShopね」
栞はもう一度首を傾げた。英語は苦手なのだ。よくわからない。
「Informationは情報、Shopは店ね。WaterResoundは店の名前ね。日本語訳すると、水が響く情報屋、ってとこね」
「ふうん」
晶は感心して頷く栞の肩を軽く叩いて言った。
「で、うちは常連だからな。こいつに依頼して、色々調べて貰った。金さえ払えば何でも調べてくるからな」
「お金!?」
ベスは当然とばかりに頷いて言った。
「依頼の内容によっては、失敗すればリスクを負うのが少なくないね。まあ、そんなヘマは滅多にしないけどね」
栞は晶に向き直ると聞いた。
「何か分かったんだ?」
「みたいだよ」
「イエス!」
ベスは急に声を低めて言った。
「今学期の落書きの犯人、分かったね。同じクラスの井立翠と野池怜ね。原因はまだ不明。
ただ、ちろっと小耳に挟んだんだけど、黒幕いるね。普段喋ってても、あいつら独断でそういうことしないと思うね。情報屋としての勘ね。
気をつけないと、これからもっと酷くなるね。原因と黒幕については、また調べるけど・・・ちょっと難しくなるね」
栞は黙ってベスの言葉を聞いていたが、晶がいきなりいきり立った。
「あいつら!?栞とは接点無いんじゃないのか?」
「生活班が一緒。他に、稲鳴君と雷治君が一緒なんだけど」
「燈斗と頼か・・・。あいつらは、虐めをするような奴らじゃないと思うんだが」
男子とも仲が良い晶が口を開いた。するとベスも晶に同意して言った。
「ありえないね。詳しくは言えないけど、確証はあるね。栞、勘だけど、女子に気をつけなね」
「う、うん・・・」
そうは言われても、班で活動する理科の実験や掃除の時には翠と怜はいつも二人で喋ってばかりいて、あまり関わっていない。
気をつけろといわれても、どうしようもなかった。
「あいつら・・・!ぶっ殺してやる!」
「ちょ、ちょっと晶!」
栞は晶をなだめようとしたが、既に火のついた晶を止めることは出来なかった。
「翠!!怜!!てめえらちょいと面貸せや!!」
「晶っ!?」
「晶!落ち着くね!!」
突然の怒涛に、クラス中が静かになる。
いきなり名前を叫ばれた二人は、誰が見ても動揺しまくっていた。
誰でも自習中にいきなり名前を叫ばれた上に晶に呼び出されればびびるに決まっている。
「え、な、何・・・?」
「私達、何も・・・」
「惚けんじゃねえ!」
「晶!」
栞とベスが必死になって止めるが、晶は制止を振り切って続ける。
「うちが知らないとでも!?それとも、うちを舐めてんのか!?」
すぐ近くにあった掃除用具入れから箒を奪うようにして乱暴に取り出す晶を見て、男子がいきり立った。
「ちょっと待てよ!?おい、晶!!」
晶を羽交い絞めにして、箒を取り上げる。
「放せよっ!!」
「いや無理だし!おい、愛島、ベス、離れてろ、危ねえから!!」
「分かったね。栞、ちょっとこっちに来るね」
栞は困り果ててしまった。だが、それは翠と怜も同じだった。
「井立と野池もだ!ああっ、もう、とりあえず女子は全員廊下に出てろ!」
「晶!もういいよ、止めてよ!」
栞は半泣きになって言ったが、晶がその言葉を受け入れる様子は無かった。