第一章
第一章 栞と晶
『死ね』
『消えろ』
少女は、机の上の落書きを見て溜息をついた。
(またか・・・)
少女の名は、愛島栞。とある公立中学の三年生だ。
三学期が始まって一週間が経つ。
最近、急にこういった嫌がらせが増えた。
それも、日々酷くなってきている。
(はあ・・・)
犯人の心当たりもなければ、何故自分がこんなことをされなければならないのかも分からない。
よく見れば、机の横にかけてある通学鞄や黒板、あげくは教室の後ろの壁にまで書き殴ってある。
栞はもう一度溜息をつくと、落書きだらけの鞄を手に取って教室を出た。
委員会で残っていたので、辺りは既に薄暗くなっていた。
栞は足元に落ちていた小石を蹴飛ばしながら一人で歩き始めた。
(何で私なんだろう)
栞が考え事に没頭していると、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。
(誰だろう?)
「おーい、栞!」
名前を呼ばれて後ろを振り返る。
「晶!」
すると、そこには親友の姿があった。
「一緒に帰ろうぜ」
彼女の名は、恋崎晶。
物静かな栞とは正反対で、活発で男勝りな栞の親友だ。
三年間同じクラスで、栞の唯一の友達ともいえる。
「うん」
「どうした?元気ないね」
「また・・・」
元気の無い栞を見て、晶は眉をひそめた。
「また?」
栞は黙って頷いた。
あまり晶に心配はかけたくない。でも、他に相談できる人がいなかった。
教師は生徒の成績がよければそれで満足で、両親は海外出張だった。
家で栞の帰りを待つ姉の香には、あまり心配をかけられない。
晶も似たような境遇で、両親はいなくて兄が一人、晶の面倒を見ている。
晶は何年か前に最愛の姉を亡くした、とも言っていた。
香と同じ年で、生前は仲が良かったとも聞いていた。
「全く、いったい何処のどいつだ」
晶が握り拳を作って栞に向き直った。
「陰でこそこそやってる汚い奴は、うちがぶっ飛ばしてやる」
「でも、それが誰かが分からないんだよね・・・」
はあ。栞は、これで何回目か分からない溜息をついた。
「絶対にうちが見つけてみせる」
晶は栞とは違い、男女を問わず人望があった。
携帯電話を取り出すと、メールをし始めた。
「誰?」
「クラスの連中。手掛かりが無いか調べてみる」
「ありがとう」
そう言ったところで、晶と別れる場所についてしまった。
晶は学区外から通っているので、栞意よりも家が遠い。
「じゃあ、また明日な」
「うん」
栞はそれだけ言って晶と分かれた。
(早く犯人が見つかりますように・・・)
心の中で、祈りながら。