序章
序章 体育倉庫の使い方
―キーンコーンカーンコーン
人気の無い放課後の中学校で、下校時間を示すチャイムが鳴り響いた。
今は一月で、時計の針は七時を差している。既に辺りは暗闇が支配していた。
にも関わらず、校庭の隅にある体育倉庫の中は異様に騒がしかった。
「調子に乗るな」
「お前うざいんだよ」
その中からは、誰かを罵倒する声と何か硬い物を投げつけているような音しか聞こえない。
(どうして、私が・・・?)
両腕はきつく縛り上げられ、体中に痣が増えてゆく。
そんな中で、少女は呻いた。
(私が、何でこんな目に遭わなきゃならないの・・・?)
あんなに仲が良かったのに。
か細い指が、華奢な腕が、通常なら考えられない方向に曲がってひしゃげている。
気絶すれば、その先に待っているのは冷水と嘲笑。
抵抗すれば、飛んでくるのは硬いボール、バット、ラケット。
いつ、首が折れてしまうのだろう。
猿轡を噛まされているので、舌を噛んで楽になることすら出来ない。
(死にたいのに、死なせてくれない・・・)
少女を虐げ続ける同級生は、かつて友と呼んでいた。
(死なせて!)
少女のそんな気持ちを知ってか知らずか、紙一重のところで生かされる。
痛みを感じて正気でいられるギリギリのところで止められ、今度は痣の上から腿をライターで炙られる。
熱がれば硬い氷を投げつけられ、その先に少女を待ち受けているものは結局痛みだけだった。
(・・・)
何も考えられなくなり、数十回目の意識が消えてゆくのを感じた。