プロローグ わたしは泡沫の詩です。
夢の話です。電撃文庫一次通過作品です。
プロローグ わたしは泡沫の詩です。
あなたはわたしのことをしっていますか。
美しい少女がそこにいた。
夢のようだ。こんな人いるわけないんだ。すらりと、僕の手に触れる折れそうな肢体。ふと、視線をあわせて、思わず逸らした。ちらりと覗いた瞳に薄く散りばめられた銀。肌も髪も透き通るような白金。僕は、知らないと思った。
いつのまにか僕の顔は赤らんでいた。彼女も薄く頬を染めている。僕の手に触れた指先には朱色が差していた。彼女は華奢なフリルのついた清楚なワンピースを着ていた。僕は学校指定の夏服を着ていた。なのに、汗の香りが全く無い。
僕は彼女に一歩近づいた。
彼女は腰の辺りまであるプラチナブロンドの髪を少し揺らして、手を後ろで軽く握り体を逸らす。そろりと視線もずらした。
全てが『無音』
ああ、これは夢だ。本格的にそう思った。
僕、紺生寝目は夢が嫌いだ。夢と言っても将来のこととかじゃあない。眠って見る夢のことだ。僕は決まって、誰かに追いかけられる夢を見る。一週間に一回は見る。
僕は逃げる。誰かから、逃げる。変質者、ナイフを持った誰か。足の無い顔色の悪い何か。時にはゾンビ、巨大な生き物まで登場する。
逃げる夢は精神的に追い詰められている、と一般的に言われるが、僕は何に追い詰められているのかわからない。闇雲に走って、追いつかれる! と思った瞬間に僕は目覚める。最悪の目覚まし時計だ。
そんな僕が、最近見た夢は不可思議なもので、銀の瞳に絹の様に滑らかなプラチナブロンドの少女が現れた。彼女は決して僕を追いかけたりはせず、ただその場に存在していた。そして彼女は言った。
あなたはわたしのことをしっていますか
そう『無音』で問いかけられた。
僕はそれに返答もできずにただただ見惚れた。そして、彼女が何か口を開いて二言三言囁いた瞬間、僕の夢は終わっていた。
ピピピ、と頭に響く音が部屋中を満たしていた。目覚まし時計をバシっと叩いて、大きく伸びをする。そして、ふと、思い出す。
『私は詩です』
彼女は最後にそう言ってなかっただろうか。
たぶん名前だろう。
そんな人は僕の通う藍妥高校には居ないはずだ。だから知らない。
「おはよう、お母さん」
そんなわけでいつも通りの朝食を済ませ、僕は学校に向かった。
続きはまた今度。