異世界転生しても何も変わらない僕へ
もし、異世界転生したとしたら僕はどうするのだろうか。
例えば剣士として魔王とかと戦ったりするのだろうか?疲れた社会人生活の反動みたいなスローライフを望むのだろうか?それとも魔法使いとして?「ステータスオープン」とか言って基礎能力やスキルなどと睨めっこしてスキルポイントを振って一人だけ無双したりするのだろうか?最果てのダンジョン?貴族生まれ?奴隷生まれ?不遇職だけど最強だったら?仲間に急に裏切られ復讐を?はたまた侯爵令嬢となり王族に婚約破棄でもされてしまうとしたら?現代知識や倫理観で世界を変えてみる?
僕はどうするだろう。僕は何をするんだろう。
きっとそういう舞台を揃えられても満足にその役をこなせぬまま立ち尽くすのだろうと思う。基本的に主人公であるからという理由もあるのだろうが、彼らは多かれ少なかれやりたい事というか目標と言うものを持っている。現代社会の生活レベルに慣れている故に欲しがる風呂や食事などもそうだ常人では考えられぬ程のバイタリティーをもって事に当たっている。もちろん偶然旅先で立ち寄った街に醤油に似た何かや米らしき物が都合よく存在していた為と言う体を取っているものが多いが。
ともあれ、その環境を与えられたとして僕はどうすのか。
例えば、醬油らしき物が都合よく見つかったとして。それが都合よく安価で大量に手に入れられるとして。
僕はきっと食の改善などしないだろう。否である。
例えば、貴族に生まれ魔力が桁外れに高い子供に生まれたとして。幼い頃から魔力を枯渇させ気絶を繰り替える生活をする事で魔力を増やす努力をするだろうか。否である。
例えば、例えば、例えば、と例えばを重ねて重ねてみても一言の前で一刀両断されてしまう。
「興味がない」
ただこれだけ。
絶大な力を振るうことも、現代の叡智を借り異世界に再現することも、自分だけ知っている攻略法も、地位や名誉、種族、尊厳ですら。正直どうでもいい。いや、どうでもいいと言うよりかはその時になってみないと分からないと思考をあきらめている故の「興味がない」に近いが。
しかし同時に、自発的に叶えに行く夢や目標のようなものでもないし特別好んでいるわけでもないのでやはり「興味がない」のかもしれない。
自分自身、もはや興味と言うものが分からなくなりつつある。幼い頃は確かにあった興味と言う感覚というか感情というかそういうものが、ここ最近無いしもう分からない。どういう感覚でどう感情が動いてどういう行動を取ったのか。なぜ目標や夢を抱き努力し焦がれたのか。
僕の「興味がない」は少なくともマイナス方向のものではあると思う。少なくとも強き人が使用する「興味がない」とは意味が違う。やるべき事が定まっていてその方向に向かっていてゴールをちゃんと据えている人であれば自分の定めた道に必要か不必要かを即座に判断できるように思う。そういった可否判断をしたのちにぞんざいに放つ「興味がない」ではなく、僕の掲げる「興味がない」は別に夢や目標も無いし得たい物も特にない。現状に満足しているかといえば首をかしげるくらいはするのだが結局改善するほどの事ではないという結論に収束する。
つまるところ、僕は概ね現状に満足している。
満足している筈なのだが、どうも納得はいかない。なぜ納得がいかないのかも分からない。だって考えうる限りは概ね満足しているからだ。なのに何かせねばという正体不明の焦燥感が襲ってくるのである。
だからまた初めから考える。
「僕は異世界転生をしたとしたら何をするのだろうか?」
木漏れ日が僕のマル暴を照らしたり照らさなかったりする。全体を照らしてはくれているが目線がずっとそこだったのだ深い意味はない。それに、ひどく寛ぎながら思案をしていたものだからうっかり言葉に出てしまった。何せ肌をすらりと撫でるそよ風と適度に暖かい木漏れ日が非常に心地いい。そんな非常にチルな僕を怪訝そうな顔で見つめるエルフが茂みの奥から顔を覗かせていた。
そんな昼下がりであった。
暇をみつけて書きたくなれば書きます