第9話_夕食
「─その理論を応用すると確かに従来のものより魔力の伝達効率があげられそうですね」
「ええ、ただ気温の影響が今一つわかっていなくて、実戦で火魔術を使う際はどの程度考慮していますか?」
「私の場合術式を組む際にフィードバック回路を──」
コンコン、と突然ドアがノックされる。
「ちょっといいかの?」
「どうぞ」
入ってきたのはカナデだ。
「カナデ、どうした?」
「どうしたもこうしたもあるか。今日の野営ポイントについたぞ。もう一通り準備もできておる。まったく、どれだけ白熱しとるんじゃおぬしらは…」
カナデは呆れ顔でこちらを見ている。
「すまない。つい夢中に」
「悪い…」
「ふふっ、本当ですよお父様。おかげで私はハクさんとほとんど話せていませんわ」
「ア、アリシア…、いや、その、すまなかった」
「冗談です。お気になさらずに、この後の時間は『血染めの月』の方たちと過ごしますわ。カナデさんとレイラさんからもお話が聞きたいですので」
「ああ分かった。すまないが娘を頼めるかな?」
「ええ、では行こうか、アリシア様」
「はい!」
四人で焚火を囲みながら晩御飯の準備をする。
「いいにおいですねえ」
「じゃろ?レイラの料理は絶品じゃからな。期待しておれ」
「カナデ、変なプレッシャーをかけないでくれるかしら?」
レイラは鍋からスープをよそっている。
「カナデ、お前も手伝えよ。働かざる者食うべからずだ」
「わし火起こしとかしたんじゃが?馬車で話し込んどったどっかの誰かさんの変わりに」
「ぐっ……。わ、悪かった」
そうこうしているうちに食事の準備ができた。
「「「いただきます」」」
メニューはパンとスープ、それだけ聞くとシンプルだが、素材の味を生かすように出汁をとったスープに、じっくり煮込んだであろう肉がゴロっと入った贅沢な一皿だ。
「美味しい」
「ありがとうございます。お口に合ってよかったです」
「本当においしいです。まさか旅の途中でこんな食事ができるなんて」
アリシアはその後も食べ続けた。お嬢様らしくお上品に食べるが、食べ盛りの年頃なのか、それともレイラの作るご飯がとても気に入ったのか、すごい勢いで平らげていた。
「ごちそうさまでした。お腹いっぱいです」
「満足していただけたようで何よりです」
「それで、アリシア殿、なにやら儂らから話が聞きたいと言っておったが、一体なにを聞きたいんじゃ?」
食事を済ませ、しばらくした所で、カナデが切り出した。
「はい。カナデ様たちはとても強いと伺っております。お三方の冒険譚をお聞きしたく」
「なんだ、そんなん聞いても面白くもないぞ?」
「それでも構いません。是非お願いします」
「まぁ、別に隠すことでもないしな。いいだろう」
「そうじゃな、まずは─
───と言うわけじゃ」
結構いろいろなことを話した。アリシアはその間ずっと目を輝かせていた。
「凄い!凄いです!!お父様からお話は聞いていたのですけど、実際にお会いすると全然違いました!!」
「いや、大したことじゃないさ。なぁレイラ?」
「えぇ、私達からすれば当たり前のことですものね?」
「いえ、みなさんは凄いですよ!」
私達は顔を見合わせ苦笑いをした。