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第7話_邏卒桜火

「今日は店じまいだ……なんだお前か」

「なんだとはつれないやつじゃのう、グレル。それなりにこの店には金を落としとると思うが?」


模擬戦が終わり餓狼隊のメンバーと話をしたりしていたらすっかり遅くなってしまった。今は、メンバー達と別れ、宿に向かう前に武具屋の親父に会いに来た。

こいつの名はグレル。ドワーフの鍛冶屋でわしの知り合いだ。武具のメンテや防具を買ったりしている。


「まあ、そうだな。お前さんが来ると店が儲かるのは確かだ」

「はは、そりゃよかったわい」

「んで?何の用だ?」

「ああ、実はの……刀を研いで欲しいんじゃ」


「この前やったろ?まだ足りないのか?」

「ああ、ついさっき模擬戦をしたんじゃが剣技を使っての。それでちょっと違和感があってな」

ほれ。と刀をグレルに渡す。


「なるほど。残存魔力のバランスが少し乱れてる。だがこの程度気にすることないんじゃないか?」

「実はこの街を出ていくことが決まってな。北方から王都への護送依頼を受けた。その前に完調にしておきたい」


「ほう、そうなのか。いつ発つんだ?」

「一週間後じゃ」

「そうか……。よし、わかった。それまでには仕上げておく」

「ありがとう、恩に着る。」


「妖刀、邏卒桜火。こいつを見れるのはこれが最後か。名残惜しいな。これほどの刀はそうねえぞ」

邏卒桜火。もともと鬼の国で封印されていた刀。刀に選ばれたものしか持つことができない。あまりに強大な力を持つゆえその刀を持つことは禁忌とされていた。しかし、わしはその刀を手にし、契約に成功した。しかしその対価として両目の視力を持っていかれた。”そういうことにしてある”。


「わしも、もう長い付き合いじゃ。こいつに何度も命を救われた」

「そうか。お前さんなら大切に扱ってくれるだろう。こいつが認めた主だからな」

「ああ。それじゃあ頼んだぞ」

そうしてわしは、グレルに見送られながら店を後にした。





日が落ちた街は少し肌寒い。宿までの道を歩きながら故郷に残してきた妹のことを思い出していた。

「ヒビキのやつ、元気しとるかのう」

ヒビキは今年で15歳になるはずだ。もう5年はあってない。

元々邏卒桜火を手にしようとしたのはヒビキだ。ヒビキには剣の才能がなかった。それに対しわしは神童とあがめられるくらいには強かった。このことをあの子がいつから劣等感として感じていたかはわからない。わかるのはあの子が妖刀と契約してまで強くなろうと思うほどには追い詰められていたということだけだ。



────

「ヒビキ!しっかりしろ!おい!」

わしが封印の祠についたとき、ヒビキの魂はすでに刀に吸い取られていた。どうやら契約の対価として魂を持っていかれたらしい。

『ああ!なんと醜き魂であるか!この程度では余は満足せんわ!』

脳内に直接声が届く。刀の思念のようなものだ。

「お主、なんのつもりじゃ!」

『この娘、貴様の妹であろう?余の使い手としてふさわしくなかった。それだけのことよ』

「…そうか。この妖刀風情が。わしの大事な妹を愚弄するか!!」

『ああ…。お前は強いな。お前になら余を使いこなせるかもしれんぞ?』

「なに?」

『今はまだそこの娘の魂は余の中に残っておる。余を支配下に置ければその魂を取り出せるかもしれんぞ?だが力が足りんとそこの娘の魂ごと消えることになるがな。さて、どうする?』

「くっ……」

『ふん、迷う必要などなかろう?早く決断せい』

「ふん…。後悔するなよ。貴様の主となってやる。わしの名はカナデ。さっさとヒビキを返せ」

『良い選択じゃ。これからよろしく頼むぞ、カナデよ。我が名は桜火。以後、末永くな……』

──────



結果、わしは両目と引き換えに刀と契約しヒビキの魂を救うこともできた。しかし刀を手にしようとしたのがヒビキだということは隠した。もしこのことが世間に知れれば、禁忌を犯したヒビキは処刑、良くて国外追放だと思ったからだ。

「はぁ、やっぱわしは甘いのかのう?」

わしは国外追放で済んだ。もっとも、強すぎるが故に処刑しようとすれば返り討ちにあうとわかっていたからだろうが。

宿につき、ため息をつく。

「いや、今はそんなことより明日からの準備をしないとじゃな」


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