第4話_餓狼隊
「餓狼隊?」
「ああ、なんでも黒狼のみで構成された傭兵団らしいんじゃがこの街にきてるみたいでの、同じ狼系のおぬしならなにか知っとるんじゃないかとおもったのじゃ」
「いや、知らないな」
「そうか、ならよいのじゃ」
「なんだあっさりしてるな」
ギルドで暇をつぶしているとカナデが話しかけてきた。この戦闘狂のことだ。てっきり戦いを挑むのかと思ったが……。
「ふふっ、わかっておらんのう。強い相手とは戦いたいが、おぬしが知らんということはそれまでのやつらよ。そんな雑魚に興味はないわい」
「さいで……」
実際強いやつなら私の耳にも入るのであながち間違いではないのだろう。
「それよりお主、最近付き合い悪いのぅ~。たまには一緒に飲もうではないか」
「まだ昼間だぞ、こんな時間から飲むわけないだろ」
「そう堅いことを言うでない。ほれほれ、こっちこい。わしが酒を注いで───
バンッ!!
そうやって騒いでいると入り口の戸が勢いよく開いた。そこからゾロゾロと大男たちが入ってくる。
「おい、あいつら」「全員狼だ」「ほら例の」まわりの冒険者がざわつき始める。
「餓狼隊……か」
「ほほう、さっそくおでましか」
カナデは思ったより楽しそうだ。
「カナデ、あんまり興味ないんじゃなかったのか」
「足音がそこいらの雑兵とは違う。かなりの練度じゃな」
「なるほど、だからって斬りかかるなよ?ここはギルド内だからな」
「分かっておるわい」
そう言っていると餓狼隊の一人が近づいてきた。
「あんた白狼か?」
「ああ、それがどうかしたか?」
「おいおい、誇り高き狼がなんで魔導士の恰好してんだよ!!特に冒険者やってんなら己の牙を使うべきだろ!!」
その男はこちらを見下しながら笑っている。
「なあ、お嬢ちゃん。お前もそう思うだろ?」
「いや、別に。ただ、お前さんのような者は誇りも何も持ち合わせていないのじゃろうな」
「んだとコラァ!!!!」
カナデの挑発に乗った男が殴りかかってくる。しかしカナデは冷静にそれをかわす。
そして男の背中に手を添えると、そのまま押し倒した。
「ぐはぁっ!?」
「この程度か。この程度の力で見栄を張るなど、恥ずかしくは無いのか」
「カナデ、やりすぎじゃないか」
「大丈夫、手加減はしてある。」
「てめえ、このクソあまぁ!!ぶっ殺してやる!」
「ミルコ、それ以上しゃべるな。お嬢さん、部下を離してはくれないか」
リーダーらしき男が出てきた。他のやつと比べても威圧感が違う。
「ふん、わしはいいが侮辱されたのはハクだからのう?どうする?」
「あんたはどう思ってるんだい、餓狼隊のリーダーさん?獣人の魔導士ってやつは邪道かな?」
男はしばらく考えたあと口を開いた。
「確かに、我らの美学に反するかもしれない。だが、それはあくまで俺たちの物差しだ。あんたが強いのは見ればわかる。それになにより、俺はあんたらが気に入った!」
「おぉ!そうかそうか!ならば仕方がない!勝負じゃ!」
「ちょっと待て!」
私は思わず声を上げる。このままではギルド内で流血沙汰になってしまうからだ。
「はっはっは、愉快な方々だ。君たちの名前を聞いてもいいかな」
「ハク」
「カナデじゃ」
「俺の名はガルム、餓狼隊という傭兵団のリーダーをしている。うちのメンバーが失礼なことをした。すまないがここは引いて貰えないか」
「へぇ、意外だな。もっと強情な奴かと思ってたが」
「あいにくだが、俺達は仕事で来ているからね。あまりゆっくりしてられないのさ」
「ほぅ、それは残念じゃのう。おぬしとはいい勝負ができる気がしたんじゃが」
「またの機会にお願いしよう、ほらミルコいくぞ」
「ちっ、わかったよ」
そう言うと二人はほかのメンバーとともに奥に消えていった。
「まったくあなたたちは何をしていますの」
「レイラ、いつからいた?というか見てたんじゃないのか」
「買い物から帰ってきたらパーティーの仲間が初めて見る大男を組み伏せていたのですわよ?そりゃ驚きますわ」
「いやーあの狼なかなかの手練れだったな。特にリーダーのほう。カナデ、かなり興奮していたろ」
「ふむ、久々に強い相手と出会った。あれは相当な修羅場を潜ってきたものじゃな。」
「はあ、まったく。トラブルだけは起こさないでくださいね」
レイラのため息が響いたのだった。