第2話_いつもの朝
この街の朝は嫌いじゃない。商業都市イノーバ、アスコット山脈の中腹に位置するこの街は街道の集合地であり商人や冒険者が多く集まる。空気は澄んでいるし食事もとてもおいしい。目の前で小言を言ってくる少女がいなければ完璧だ。
「ちょっと聞いてますの!?ハク!」
「あーはいはい。聞こえてるよ」
「またそんな適当な返事をして!だいたいですね──」
この子はレイラ。見た目は完全に人間の少女なのだが、実は精霊である。精霊になってしまったのである。
「全く、カナデさんにも困ったものです。昨日も一人で飲みにいってますし、ハクからも何か言ってやってくださいまし」
「わしがどうかしたかの?」
噂をすればなんとやら。カナデがやってきた。
「お前が一人で飲みに行って寂しかったそうだ。」
「なっ!?ち、違いますわ!ただ心配してただけです!」
顔を真っ赤にして反論している。こういうところが可愛い。
「それにお金はどうしたんですの!どうせ大量に飲んだんでしょ?」
「ああ、それなら帰りに盗賊から──」
「返してきなさい!!」
「そのことならちゃんと衛兵に許可を得てる。盗賊相手といえど街中で殺し、略奪はご法度だからな。」
盗賊から巻き上げた金は半分以上持っていかれたが、残りの半分が今回の報酬としてもらえることになったのだ。もともと指名手配されていたらしい。
「そういう問題ではありませんわ!」
「ならどういう問題があるんだ?」
「それは・・・とにかく、カナデさんのお金の使い方が荒すぎるのです!もう少し節制というものを覚えてくださいまし!」
「そうか?わしは十分節約してるつもりだが?」
「このパーティーのお金は私が管理しているのですからね!無駄遣いは許しませんよ!」
「別にいいだろ。共有資産には手を付けてないんだろ?」
「良くないですわ!」
実際、私たちは旅をしながらギルドの依頼をこなしている。依頼をこなすことで、その分の金額がもらえるのだが正直あまり貯金には向いていない。
というのも依頼の内容が危険を伴うものばかりだからだ。
今回のような盗賊討伐もあれば、ドラゴン退治なんてものもあった。
装備品に金をかけねばやっていけない。そんなところでけちって死にたくはない。
なので、基本的には共同資金という形で管理をしている。
「まぁいいではないか。金が減る前に次の仕事を見つければいいだけの話だ」
「まったく、あなたという人は・・・」
「それより今日の予定について相談したいんじゃが、いいかの?」
「どうしました?」
「実は今朝、ギルドに顔を出したらこんなものを貰ったんじゃ」
カナデが一枚の紙を取り出す。
「これは?」
「最近街はずれの森に魔物が増えたらしくてな。それで調査と駆除のために冒険者を募っているみたいじゃ」
「なるほど、確かに危険な仕事ではありますが・・・」
「しかし、お主らがいれば安心じゃろう?どうかの?」
「ああ、いいぞ」
「・・・いいと思いますよ」
「きまりじゃな」
そうして私たちは依頼を受けることにした。
「それじゃあギルドに行って手続きするとするかのう」
ギルドについた私達は受付に向かうことにした。
「すいませーん」
「はい、本日はどのような御用件でしょうか」
「この依頼を受けたいのだが」
そう言いながら先程カナデから受け取った用紙を見せる。
「えっと、森の魔獣調査ですか?」
「そうだ」
「分かりました。それでは登録いたしますのでこちらの書類に記入をお願い致します」
渡された紙にパーティー名と代表者の名前を書き込む。
「これでいいか?」
「はい、結構です。それとそちらの方は?」
「わしらの仲間のレイラじゃ。ここにも何度か来とるが覚えとらんか?」
「レイラ様ですね。申し訳ありませんが、記憶に無いもので」
「構いません。いつものことですから」
レイラは少し悲しそうな表情を見せた。彼女にとってこのやり取りは毎回の事なのだ。
「それではお気をつけて」
「ああ、ありがとう」
こうして私達は街の外にある森の中へと入っていったのだった。




