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高校生  作者: 三浦
3/5

2年生6月


ラッキーなことに、教科担当の先生がが出張で、授業が自習になった5時間目。



「あ、雨だ」



誰に言ったわけでもなく、呟いただけだったが。



「雨やなあ」



今月頭の席替えで隣になった蒼馬から返事が返ってきた。



「雨嫌いなんだよなぁ。髪広がるって千尋がうるさいし、靴濡れると気持ち悪いし」

「えー。雨、いいやん。相合傘できるし。相合傘って青春って感じせえへん?」

「誰とすんだよ」


相手がいねえよ、相手が。


「え?真尋と相合傘したい子、おると思うんやけどな」

「連れてこいよ、今すぐ、ここに」


俺が言い放つと、蒼馬は『ごめん、思いつかん。ひゃひゃひゃ』といつものように笑った。



今日は雨になるなんて天気予報でも言ってなかったから、傘なんて持ってきていない。





6時間目の体育は、千尋のクラスとの合同授業。


体操服に着替える途中、体操着の上がなんか違った。



「どしたん?真尋」

「あー、これ、千尋のだ」



胸元に書いてある名前は苗字だけなので、ちゃんとサイズを確認していないと、こうやって入れ違うのはよくある。


小学生の頃は体格も似てるからよかったんだけど、高校生にもなると、そうもいかない。




ズボンは自分のものだったので、ズボンだけ履き替えて上裸で体操着を持って教室を出ようとすると、「ちょちょちょ!」と蒼馬に止められた。



「なに?」


「上、着んで行くん?」

「え、だって着るのないし。体育館、すぐそこだから他のクラスの奴らには見られないだろうし」


逆にパツパツの俺が見たいの?と聞くと、

「まあ…真尋、身体バキバキやし、いっか」

と笑われた。



男子の着替えは教室、女子の着替えは体育館の2階の更衣室。

体育館に入ると、徐々に人が集まってきているところ。



「真尋ー。なーに脱いでんだよ」



体育館に先に着いていた男友達に聞かれ、「サービスサービス」と適当にポーズ決めながら返事した。


「誰にサービスしてんねん」と隣で突っ込む蒼馬と戯れて笑う。



そして、更衣室から出てきた女子に、「ごめん、千尋呼んでくれる?」と声をかけ、更衣室の出入り口付近で待った。


でも、「工藤ー、女子更衣室覗くなよー」って体育教官室から出てきた先生に茶化されるし、「わっ!なんで裸!?」と更衣室から出てきた女子に驚かれるので、少し離れた。



「真尋ー。お・ま・た・せ」



少し時間がかかって、更衣室から千尋が出て来る。



「おい、おせーし、俺の体操服着てんなよ」

「雨で髪の毛が広がるから結んでたんだもーん。ね、彼シャツっぽくない?」



くるりと回って裾を持ち上げてポーズを決める千尋。


そういう茶番はいいから早くよこせ。

俺の顔を見て思っていたことが伝わったのか、ポーズが恥ずかしくなったのか。

特に何も言っていないのに「ごめんごめん」と勝手に謝って俺から体操服を受け取った。



千尋が着替え、脱いできた俺の半袖を受け取り、そのまま着て、並び始めたみんなの列に合流する。


俺にとっては妹と入れ違っていた服を受け取って着ただけのことだが、周りのクラスメイトたちからすると、直前まで同級生の女子が来ていた服を俺が着ている状態。

近くの奴らが匂いを嗅ごうとしてきたので、受け入れて我が家の柔軟剤の香りを体感させてあげた。


正直、俺のいつもの匂いと同じだと思うんだけど。


シノは他の女子がいる手前、カッコつけて匂いをかいだりはしない。蒼馬は「やめやー」と笑っていた。


そして千尋はドン引きした視線をクラスの男子たちに送っていた。


そしてもちろん、体育の後に蒼馬に匂いを嗅がれた。俺の汗の匂いしかしてないと思うけど。





雨は7時間目の数学授業が終わってからも止んでいなかった。



「真尋!傘持ってる?」



帰りのホームルームが終わって帰り支度をしていると、千尋が俺に向かって廊下から叫んだ。


クラス中の人間の視線が、俺たち双子に向けられるが、千尋はそんなことちっとも気にしていない様子。



「俺が持って出てないこと、知ってんだろ」



一緒に家出たんだから。



「だよねー。どうする?走ってく?」


「俺、持ってんで。使っていいよ?」


諦めてびしょびしょになろうとする千尋に、蒼馬が言った。



「いやいや!真尋はまだしも、蒼馬くんに借りたら蒼馬くんが濡れちゃうから借りられないー!」



俺なら濡れてもいいのかよ。



「じゃあ、傘入ってく?駅までやろ?俺、送るし」

「え、ほんと?やった!」

「じゃあ15分後に靴箱でええ?」

「りょうかーい!」



千尋が自分のクラスに帰りの準備に行くのを見送って、蒼真は俺を見る。



「こうして倉原蒼馬は、相合傘の相手を見つけたのでございました!」



にかっとこちらにピースを向け可愛らしく笑った蒼馬に、『それはお前が人気あるからだよ』と千尋仕込みのど突きをお見舞いしたくなった。





サーッと降るだけだった雨は、俺が靴箱に降りてくる頃にはザーザー降りに変わっていた。

蒼馬と千尋は駅に着く頃だろうか。


傘はもちろんないし、すぐそこにある誰かの傘をパクる勇気もない。

こりゃ、駅に着くまでにびしょびしょだなあ…。



「はあ…」



ため息を吐くと同時に、肩にずしっと重みを感じた。



「まーひろちゃん」


「シノ」



誰かと思ったら、シノ。

俺の方に肘を乗せて、「結構降ってんね」と外を見ている。


女子と話してたから目だけで先に入るという合図をしてシノを教室に残して出たけど、すぐに追いかけてきてくれたらしい。



「傘がなくて可哀想な真尋ちゃん。なんと俺、傘、持ってます」



手に傘を持ち、にやりと笑うシノ。



「シノ」

「なに?」

「愛してる」


真顔で言うと、「きもい」と笑われた。



「仕方ねえから、今日の『東雲一将くんと帰れる特権』は工藤真尋くんに差し上げよう。相合傘のサービス付き」



シノが楽しそうに言うもんだから、「やったー」とこちらもノって喜んでみせた。



シノは学校の女子には絶対に手を出さないけど、外に遊びの友達がいっぱいいる。

ほぼ毎日そういう友達が肛門の前まで迎えに来る。


今日はそんな約束を断ってくれたらしい。





シノのビニール傘に入れてもらって駅まで歩きだす。



「やっぱ男同士だと、傘が小せえなあ。肩が濡れる」



文句を言いながらも、ニコニコと楽しそうなシノ。



「すいませんねえ、華奢な女子じゃなくて」


と首をすくめて見せると、「確かに、華奢とは程遠いな」と笑われた。



大きくはない傘に、男2人。

シノは細いから身長の割に華奢かもしれないけどそもそも背が低くはないし、俺は背が高いわけじゃないけど筋肉質で華奢ではない。


靴は既に濡れて靴下までばっちり浸水してるし、左肩もびしょびしょだけど、なんか楽しい。これも、青春じゃん?



「相合傘も、女子とするだけが青春じゃないよな」



同意を求めてシノを見上げると、

「俺はいつも華奢な女子と相合傘してるけどな」

とマウントとられた。



「結局、女子と相合傘で青春できてないのは俺だけかよー」


「ははは」



普段はあまり話さず、俺や蒼馬の話を聞くだけが多いシノだけど、2人だとこいつもやっぱり面白い。


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