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レインボーキャンデー

作者: 愁知 こにこ

雨降る道、私は傘を差しながら歩いていく。いつもいてくれる君も今日はいない、一人ぼっちの帰り道。

「はぁ、雨は嫌いだなぁ……」

 ため息をつきながら歩いていると、傘に『コツン』と何かがぶつかったような気がした。気のせいだと思ってみても、やっぱり『コツン……、コツン……』と何かがぶつかっている。

 おかしいなぁ。と思いつつも傘をずらして空を見上げると、いつの間にか雨はすっかり止んでいて青空が広がっていた。そして代わりに私の傘にさっきからずっとぶつかっていたもの、それは青空から降ってきている、飴だった。

「へ? なんで、飴が降ってきてるの?」

 傘を閉じて地面に転がっている飴を見つめる。ふしぎだなー。なんでかなー? と腕組みをしてうんうん唸りながら考えてみるが、答えなんて出てくるはずもなかった。

 答えの出ない問いを考えるのに疲れた私は、今の見方を変えてみることにする。雨が飴に変わった理由はわからない、でも、飴が降ってくるって……。

「とっても素敵なことじゃない?」

 そう。雨が降らないなら、濡れることがない。そして濡れることがないなら、傘なんてさす必要はない! 私は瞳を輝かせ、飴が降る空を見上げる。

 すると……。

「え? あれ?」

 先ほどまで曇りのない青空だったはず、なのに今、大量の飴が……。

「え、ちょ。待って? 飴で大豪雨とか……」

 顔が引きつるのが自分でもわかる。思わず後ずさりしてしまうが、そんなことでは現状は変わらない。空から降ってきた大量の飴たちは、容赦なく私に襲い掛かってきた。

「痛い! 脳天直撃とか痛いに決まってるじゃん!」

 私は傘をさして難を逃れようと、手元を見るが、

「なんで? 傘なくなってるんだけど! あー、もう!」

 鞄を頭の上に乗せ、飴から逃げるように走る。どこへ向かえばいいのかなんて、考える余裕はなかった。ただ、飴にぶつかることのない屋根のあるところを探し求める。すると、私の願いが天へと通じたのか、目の前にコンビニが見えたのだ。あそこまで、あと少し走れば……。と思った私はグニャリとした嫌な感覚を、靴底越しの足の裏で感じていた。勢い余った私の体はそのままゆっくり、倒れこむ。

雨でできた水溜り、そこに転がる飴、そしてこの日差し。あぁ、飴が溶けだしたんだ……。私は踏んじゃったんだな。と理解するのは簡単だった。

 もう、終わりだな。心が折れて空を見上げると、そこには無数の飴たちが……。

「きゃーー!!」

 私の姿は叫び声とともに、飴の中に埋もれてしまった。


  *  *  *


「っていう夢を見たんだよね」

 いつもの帰り道、天気は雨。私の隣には君がいる。二人並んで傘さして、なんてことはない日常を過ごしながら、私は昨晩見た夢の話をした。

「ふぅん、変な夢だね」

 君は空から降ってくる雨粒を見つめ、「雨じゃなくて、飴が降るのか……」などと呟いている。

「それでね、私思ったの。空から降ってくるものは、『雨』より『飴』のほうがいいなって」

「それは、どうして? 夢で怖い思いをしたんじゃないの?」

 君の言うように、夢の中で怖い思いはした。それでも抗いたい魅力があるというのも確かだ。

「だって、飴だよ? 傘ささなくてもいいんだもん」

「でも、降ってくる飴にぶつかると痛いんでしょう?」

 君に確認され、私は夢の中の記憶を手繰り寄せながら答える。

「うん。とっても痛かった、気がする」

「それはさ、どうやって防ぐの?」

 防ぐなんて考えてなかった。でも、上から降ってくるものから身を守るなら……。

「防ぐ? んー……? 傘をさす、とか?」

「傘、さしてるじゃん」

 間髪入れずに矛盾を突っ込まれてしまう……。

「あ、あれ? えと、じゃあ、濡れないから、かな?」

「ふーん。なるほどね」

「だってさ、飴なら降った後に晴れても、水溜りができないよ」

 君をもっと納得させるためにも、私はさらに言葉を紡ぐ。

「でも、飴が足元にいっぱい転がっていたら、地面がぼこぼこにならない?」

「……」

 思わず立ち止まり、足元を見つめてしまう。君も同じように立ち止まり、私の考えの甘さを暴いていく。

「それに晴れたら、飴が溶けだして……。虫たちが大喜びするよ?」

 想像すると身の毛がよだつ、そんな気持ち悪い光景なんか見たくない。

「と、溶ける前に食べちゃえば……」

「地面に落ちた飴を食べるの? 拾って?」

 代替案の提示をしても、人としてどうかと思う案だったらしい。

「……」

「……」

 私は何も言えなくなってしまう。君も何も言わない。何か言ってくれたらいいのに、沈黙は耐えられない。君は今、何を見ているんだろうか、馬鹿な考えをしていた私? それとも降り続ける雨? 足元を見つめぐるぐると悩んでいると、雨はいつの間にか上がっていたようだ。

大きな水溜りに空が映っている。あれ? 傘を閉じて空を見ると、そこには大きな虹がかかっていた。

 君に向き直ると私は、はっきりと伝える。

「あー、やっぱり。雨は雨のままでいいわ」

「どうして? 濡れるの嫌じゃないの?」

 相変わらず不思議そうな顔をする君。そうだよね、雨より飴がいいって言い出したかと思ったら、雨のままでもいい。だなんて言うんだもん。

「いやまぁ、濡れるのは嫌だけどさ……。こうして君と一緒に虹を見ることができるのなら、雨も悪くないかなって」

 思ったことをそのまま言葉にして、笑いかける。君はきまり悪そうに「そうだな」なんてぶっきらぼうにいいながら、私から顔をそむけてしまう。私は一歩君に近づいて、そっと手を繋いでみる。

「また、一緒に見ようね?」

 「何を」だなんて、言わなくてもわかっているでしょ? 君は返事の代わりに繋いだ手に力を込めた。私の気持ちに応えるかのように。

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