気がつけば、異世界1
目を開けると、見渡す限りの草原と青い空が広がっていた。
体を起こそうとするも、全身が痛く、あえなく起き上がることを断念する。
(これ、もしかしてあの世なのかな……)
そう思いながら、目覚めるまでの記憶を辿るため、目を閉じた。
お昼時の電車は意外と空いていて座りやすい。
私は無難なリクルートスーツに身を包み、三月の日の光が暖かく気持ちいい真昼の電車に乗っていた。
向かいに座っているおばあさんも気持ち良さそうに船を漕いでいる。
そんなのどかな光景を目にしながらも、心は晴れない。知らず知らずの内に表情が強張っていたのだろう、トンネルに入り窓に映った顔は、口は真一文字に引かれ、眉間にシワが寄っていた。
一つため息をつくと、気を紛らわすように手帳を開いた。
赤と黒のみで書き込まれた非常に飾り気のない手帳。それでも、今日の日付だけがやけにくすんで見えるのは、気のせいだろうか。
『帰省』
とだけ書かれた今日の欄。重くなる気持ちとは裏腹に、どんどん実家は近づいている。
僅かな抵抗とともに、電車は駅に停車した。もう見渡す限り、畑と山と、少しの家しか見えない。ここからさらに二駅先の終点に、実家への最寄り駅がある。田舎という面ではこの駅と変わりないが、やはり私の心情がそうさせるのか、この駅よりも寂れた印象がある。
しかし、何にせよ、近づく実家に胃は重くなるばかりだ。
逃げ出したい思いに駆られながら、無意識に握っていた拳を開く。力が入っていたためか、掌に爪の跡がついていた。
ふと車両内を見渡すと、もう私以外の乗客はいなかった。
もうここまで来たのなら、と覚悟を決め、椅子に座り直した時だった。
甲高いブレーキ音を響かせながら、車体が大きく揺れる。何が起こっているのか把握する暇もなく、次の瞬間には体は大きく投げ出され、全身を強打したところで、私の意識は途切れたのだった。