異世界心霊奇譚 第六話 複数の頭を持つ女 4
奇数の日はライと、偶数の日はレイと、ダルーは交互に愛しあった。
奇数の日は、とびっきりの甘い愛のことばをライの耳元で囁き、熱いキスをかわし、濃厚に愛撫しながらまぐわった。
偶数の日は、レイを耳元で思い切りなじりながら、お互いの体液を交わすようなキスをして、いたるところを乱暴に愛撫しながらまぐわった。
レイとの行為のあいだ、ライは機嫌悪そうにぷいっと横をむいて、目をつぶってひたすら無視していた。
だが、ライとの行為のあいだ、レイはカッと目を見開いて、じっとダルーをみつめていた。どんなささいな囁きも、どんなに柔らかな愛撫も見逃すまいとするようだった。
そしてダルーとライが一緒に絶頂に達する瞬間、レイはまるで研究者のような冷やかな目で、ダルーのオルガスムスの顔を見つめていた。
ダルーは次第に行為が苦痛でしかたなくなってきた。
レイに傍観されながらのライとの行為では興奮が持続しなくなり、ライの不機嫌そうな横顔を見ながらのレイとの行為は気分が乗らなかった。
ダルーは夜を怖れるようになった。
いつかどちらを相手にしている最中に、行為が最後まで続けられなくなる、のはわかっていた。
そのときどちらを相手にしていたとしても、その原因をもうひとりの相手のせいにしていざこざが起きる——
それが怖くてしかたなかった。
ダルーは狩った動物の肉を喰らい、血まで飲んで精をつけた。
旅行の途中で精がつくという怪しげな秘薬や、ポーションがあれば、金に糸目をつけずに買い求めた。
皮肉なことに、その頃のダルーのパーティーは、冒険者として頂点まで登りつめたといっていいほど、快進撃をつづけていた。S級クエストをこなし、難攻不落とされたダンジョンを攻略し、大量の激レアアイテムを手に入れた。巷間では『勇者』と讚えられ、そのクエストの冒険譚はみんなの酒の肴として囁かれ、手に入れた希少アイテムの市場価格は、尾ひれがついて、天文学的数字として語られた。
しかしダルーがおそれていた瞬間が訪れた——
ライとの行為中にダルーのモノが縮んでしまい、行為を最後まで続けられなくなったのだ。ダルーは「疲れているみたいだ」と自分のせいにした。
が、ライはレイをなじった。
あなたが咎めるような目で、ダルーを見ているからだ、と。
レイはそれにそくざに応戦した。
あなたこそ、三人で取り決めしたのに、ダルーを許さないという顔を向け続けている、と。
裸のまま、ふたりは唾をひっかけあいながら、罵り合いをしはじめた。
「オレはもう……耐えきれなかった……」
ダルーが顔をゆがめて言った。
「ふたりのもとから逃げだしたんですか?」
ベクトールは額から汗をぬぐいながら尋ねた。
「いや……」
ダルーは目をつぶって、達観したような表情で言った。
「気づくと、オレはふたつの首を刎ねていた——」
「首を……斬った……ですって? 勇者と呼ばれた、あなたが……」
「あぁ……」
「なんの罪もおかしてない人の?」
「そうだ」
「そ、そんな! だったらあなたは咎人じゃないですか!」
ベクトールはおもわず声を荒げていた。
そのとき、居酒屋の扉があいて女性が入ってきた。羽飾りのついたおおきなつばの帽子をかぶって、顔の前にはまるで葬式のときのような黒いベールがさがっている。
居酒屋の喧騒がふっとやみ、おとこたちの視線が彼女に集まった。
それはよくわかる。
ふるいつきたくなるようなグラマラスな体つき、スラリとした魅力的な細い足。
彼女はお目当ての人を見つけたようだった。
この場には似つかわしくないような高いヒールでカツカツと音をさせて、迷いのない足取りでこちらへ歩いてくる。
「ここだったのね、ダルー。さがしたわ」
ダルーはばつがわるそうに、頭を掻いた。
「セタ、すまん。ちょっとこの若者と話し込んでてね」
「なにを話してたの?」
とても魅力的な甘い声——
だが、残念ながら、黒いベールに隠れて顔は見えない。
「ほら、オレとおまえのサ」
「あら、またぁ? そんななれそめなんて、どうでもいいじゃないの。もう10年以上も一緒なのよ。そんな前のこと話されてもねぇ」
セタと呼ばれた女性が、ベクトールのほうに会釈するようにからだを傾けた。
ざっくりと胸元があいたデザインのドレスのせいで、豊満な胸のラインがベクトールの鼻っさきに近寄る。
おもわずその谷間に、ベクトールは目を泳がせてしまう。
「ダルーさん。ひ、ひとがわるいなぁ。さっきの話、ほら話だったんですね。ふたつの頭をもつ女性の頭を刎ねた、だなんて……」
「いいや、ほんとうだよ。オレはたしかに首を刎ねたんだ。だからね……」
「ずっとオレは脅されてンのさ……」
「脅されてる? だれにです」
「わたしにだよ」
女性の乳房と乳房のあいだの谷間に、女性の顔が浮かびあがっていた。両方の乳房についた鋭い目が、ベクトールをにらみつけていた。
ベクトールのからだが硬直した。
「若いの。もう一度警告しておく」
ダルーの表情は老いさらばえた老人のようだった。
「複数の頭を持つ種族に関わるな、絶対にだ」
そう言ったところで、ダルーは女性に引っ立てられるようにして、立ちあがらされて、店を出ていった。
ベクトールはその姿を見送りながら気づいた。
その女性には首から上がなかった——
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