異世界心霊奇譚 第六話 複数の頭を持つ女 1
異世界心霊奇譚 ベクトール バージョンのおかげで、一日のPV数が過去最高を記録したので、もうすこし続けます。
これは ベクトールがバイアスパーティーに加入する前夜の話。
パーティー募集の張り紙をみて、バイアスを訪ねたベクトールが、酒場でダルーという男に聞いた、男なら怖気立つ、不思議な話です....
複数の頭をもった種族を仲間に加えてはならない——
そう忠告を受けるまでもなく、冒険者のみなさまがたはご存知でしょう。
ですが、この忠告に耳をかさずに、複数の頭を持つ女をパーティーに加えた冒険者がいたのです。
さぞやひどい目にあっただろう?
いいえ。飛び抜けた能力をもったふたつの頭は、彼に勝利と栄光と、そして王族に匹敵するほどの富をもたらしました。
ただ、この男は忠告をきくべきであったと悔いているのです。
そう、こころの底から——
複数の頭をもった種族を仲間に加えてはならない——
「あんたも冒険者を目指す者なら聞いたことあるだろ?」
ダルーと名乗るその男は落ちくぼんだ目で、こちらを見あげるようにして尋ねてきた。
「え、えぇ……」
ふらっと立ち寄った居酒屋でベクトールは、そう問われてあからさまに顔をしかめてみせた。
バイアスという冒険者が仲間を探している、という張り紙をギルド庁舎内でみて、この酒場に駆け込んできたのだが、それらしい人物だと思って声をかけたら、人違いだったのだ。いますぐにでもバイアスのパーティーを探しにいきたかったが、すでに小一時間、このダルーという男の相手をするはめになっている。
「あ、いや、聞いたことはないです」
「そうか。じゃあしっかりと肝に銘じておくことだな」
ダルーはふーっと酒臭いため息をついた。
「そうでないと、おれのようになるからな」
そう言ってダルーは、そのまま黙り込んだ。
ダルーがその先の話を催促しているのだとわかったが、ベクトールはあえて無視して口をつぐんだ。ベクトールが自分の意向に沿わないのが、よほど腹に据えかねたのか、ダルーはとろんとした目つきのまま、ふんと鼻をならした。
その態度にいくぶん苛ついたものの、話が終わらないことには解放されそうにもないので、ベクトールはしぶしぶ話をうながした。
「もしかしてダルーさんは、その複数の頭の種族を仲間に加えたんですか?」
しばしの沈黙——
「あぁ、くわえた。一生の不覚だ」
「なにがあったんです?」
「ほんとうに聞きたいか? 聞くに耐えん話だぞ!」
ベクトールには、ダルーが本気でそう思っているのか、そういう前振りなのか、たんに酒のせいでそういう態度になっているのか、はかりかねた。
が、どっちにしても、答えはひとつしかない、
「ええ、ぜひ聞かせて欲しいです」
ダルーはテーブルのうえにひじをついて腕を組むと、そこに額をもたせかけるようにしてから話しはじめた。
いまから10年以上も前、冒険者として、各地の宝の発掘に挑んだダルーは、なかなか成果をえられずにいた。最初は新人同士で組んだパーティーも、クエストも宝探しもうまくいかなくなると、方向性のちがい、というていのいい理由で解散することになった。
次はまだ冒険をあきらめきれない者同士で組んだが、ベテランから初心者までまじるパーティーは、いつも仲たがいばかりしてうまくいかなかった。
ダルーにそれを統率できる力がないことが一番の要因だったが、彼はそれを認めたくなくて、結局たいした結果ものこせず喧嘩別れした。
その後も何度かパーティーを組むが、組むたびにメンバーの質も下がっていった。
たいした能力もないのに、「いつか自分はやる」と嘯くヤツ、はずれスキルだと自分の能力を卑下して、みんなのモチベーションを削ぐヤツ、不完全な魔法で仲間を危機を招くヤツ、だれかがやってくれると他人頼りでみずから動こうとしないヤツ——
このまま自分は、永遠に冒険者にはなれないのではないか——
ダルーはあるときから、そんな恐怖と絶望にさいなまれていった。
幼少の頃から、町一番の天才剣士と誉めそやされ、卒業したアカデミーでは常に学年トップクラスだったダルーは、いまさら冒険者以外の道を歩めようはずがなかった。
彼は禁断の果実に手をのばした——
あるクエストに失敗した帰路、桁違いの魔力をもつという種族の村に立ち寄ったとき、その女性に出会ったのだ。
その女性は足はすらりと長く、ぐっとあがった腰骨、きゅっとしまったウエストライン、そしてグラマラスな上半身、と、どんな種族の男だろうと、舞いあがってしまうような、魅力的なからだをしていた。
だが、彼女には頭がふたつあった——
彼女の名はライとレイ。
むかって右側にあるライは、心をとろかすような屈託のない笑顔をする女性だった。ダルーはひと目で、親近感をおぼえた。
左側にあるレイはそれに対して、心をまどわすようなクールな魅力をもっていた。一瞬冷たい印象をうけるが、なかからにじみでる知性は、どうやっても隠しようがない。たちまち魅了された。
「きみたちは桁違いの魔力をもっているという噂だけど、ほんとうかい?」
「えー、桁違いっていい方はわからないですけど、たぶん、わたしスゴイと思いますよ」
にこやかな笑顔で自分の力をアピールしてきたのはライだった。
「まず、『きみたち』という言い方が気に入らないわね。私をこのライと一緒くたにされてもねぇ。私の能力をみたら、そういう言い方にはならないと思うから……」
初対面からダルーに、難癖をつけてきたのはレイだった。
「えーー、レイは詠唱魔法でしょう。即効性がないから、もたもたしているあいだに、敵にやられちゃうわよ。その点わたしは瞬時に魔法を使えるのよ」
「はん、ライの魔法はスライムやゴブリンを倒すのが精いっぱいでしょう。この世にはもっと強力な魔族が解き放たれてるのよ。それを一掃するのは、私の魔術こそ有効っていうものです」
「なにせふたりは仲がわるかった」
ダルーはしみじみと言った。
「そのやりとりで気づけばよかったんだよ。だけどな、若いの。あのふたりの魔法と魔術を目の当たりにしたら……」
「いやぁ、それは凄まじかった。おれは一瞬でノックアウトされちまった……」
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