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異世界心霊奇譚 第十話 命を救う悪徳令嬢 3

「だから、殺してあげなかった」


「え?」


 自分でもまぬけな反応だと思った。

 気づかないうちに、はやく死なせてあげて欲しいと、いつのまにか思わされてしまっていたからだ。


「けっきょく、あの子、自分で死んだわ。(かめ)を洗っているときに、窓をやぶって飛び降りてね。あのからだでよくも、まぁ動けたものだ、と思うわ」


 わたしはからだだけでなく、感覚もしだいに麻痺してきたのではないか思えてきた。

 ミロンダのことばに、それほど動じなくなってきている自分に気づいたからだ。ショックも怒りも嘆きも感じない。


 もしかして霊とことばを交えると、人間性をうしなっていくのだろうか——


「でも、わたくしを裏切る者は、あとをたちませんでしたわ」


「なかでも、ポーラットをさしむけた義妹(いもうと)のクーシェには手を焼きましたわ。なかなか尻尾をつかませませんでしたからね、でもわたしの育てた密偵たちのおかげで、わたしの暗殺計画を事前に察知することができて、ようやく逮捕できましたの」


「そ、そのクーシェという方はどうなったんです……?」

 わたしはおそるおそる尋ねた。


「ああ、死刑判決を出させましてよ。あの子は串刺し刑に処してあげましたわ」

「串……刺し……ですか……」


 ミロンダが顔を輝かせて言った。

「ご存知ですか? 通常の串刺し刑ってね、死刑執行人が先の尖った杭を、肛門から口をめがけて一気に貫くんですよ。でもそれだと、杭の先端に内臓がぐちゃぐちゃに引き裂かれて、簡単に失血死してしまうのですよ。つまらないじゃありません?」


「つ、つまらない?」

「ええ。だって、あの子はわたくしの暗殺を先導したのですよ。簡単に死なせるわけいかないでしょう? そんなんじゃあ、わたしの恨みって晴れないじゃありませんか?」


「わたくしのやり方はね、先の丸まった細い杭を使いますの……」

 ミロンダが両手先でゆるやかなカーブを描いてみせた。

「それを肛門から慎重にさしいれるんです。そうするとね、自分の体重ですこしづつ、杭は臓器をゆっくりと押しのけながら刺さっていくの。死ぬまで3日くらい、焼けるような痛みにのたうち回るわ」


「わたくし、杭に刺さったクーシェを前に、三日間、お茶をして語らい合いましたわ。まぁ、からだのなかを杭が貫いていますから、あの子、なぁーーんにもしゃべれませんでしたけどね。あはははははは……」

 けたけたと笑うミロンダに、わたしは戦慄する思いだった。だが、それを彼女に悟られるわけにはいかない。

 いますぐこの場を立ち去りたい——

 恐怖と憤怒がないまぜになった気持ちが、ぐるぐると腹のなかでうごめき、反射反応で嘔吐(えず)きそうになった。


「あらあら、吐いてはもったいありませんよ。もう一切れ食べられます?」

 そういいながらフォークに刺した肉を、わたしの口元に運ぼうとした。

 わたしはかぶりをふって、それを拒否した。

 ミロンダは残念そうな顔をして、白い靄のなかに消えていった。



 次に現われたときミロンダは、肉を口に運んでくれながら、そのあとの話をした。

 

 大王がみまかり、自分の夫が王になると、彼女はその後、政敵になりそうな人物に濡れ衣を着せては、次々と処刑していった。そのあいだに女王の権限は王と同等以上なほどに拡大し、彼女のひとことでどのような量刑になるかが決まるほどになっていた。


「『皮剥ぎの刑』は騒々しいから、あまり好みではありませんでしたわ」

 ミロンダはまるで料理の付け合わせの話でもしているように言った。


「からだ中の生皮をはぐから、あざやかな薄紅色の真皮がまるみえで、とてもきれいなんですのよ。でもね、風がちょっと吹いただけで痛いらしくて、ぎゃーぎゃー悲鳴をあげるんですの。そのくせ大騒ぎのわりには、なかなか死なないんですよ。何日も死ぬのを待つのものだから、わたくし飽きちゃって……」

 

「その点、『八つ裂きの刑』はすぐに終わるからよかったわ。でもね、あれって、ちゃんと八つ裂きにならないんですのよ。わたくし、がっかりしました。牛や馬に同時にひっぱらせても、たいがい腕か脚が先にとれてしまって。そのたびに何度もやり直すのですから……」


 彼女は食事のたびに、自分がおこなった刑の話を楽しそうに話した。

 釜ゆでの刑、鋸びきの刑、磔の刑、腹切り、打ち首——

 わたしは、どれほどむごたらしい刑、どれほど苦痛な拷問を聞いたかわからなかった。


「でもね」

 ある日、ミロンダが言った。

「ひとつだけ、やっていない刑があることに気づいたの。『中の国』っていう東のほうで行われていた刑。この世で一番、残酷な刑だって聞いたわ」



「ど、んな刑……なんだい……」

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