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第2話 襲いくるモンスター


 ぼくのたったひとつしかない取り柄は、すべてのひとを不幸にする——。



 ぼくは森のなかでたき火にあたりながら泣いた。


 涙がとまらなかった。


 楽しかった冒険の日々を思いだして泣いた。

 そしてその日々がすべて、まやかしだったことを思ってさらに泣いた。


 これから、自分はなにをめざしていけばいいのか、なにをすべきか、不安でまた泣いた。


 ぼくには戦士をやれる『腕力』がない。

 魔法使いになるための『資格』がない。

 射手に必要な『集中力』もなければ、防御手に必須の『体力』も微々たるものだ。

 もちろん魔導士になるための『博学』や『経験』などは、言うにおよばない。


 カサッ……。


 そのとき落ち葉を踏むような音が聞こえて、屈強なからだの男がふたりあらわれた。


「やっぱり、こんなところにいたか」

 リーダーらしき男が言った。


「き、きみたちは……?」


「いや、さる騎士団から、あんたを消すように頼まれてね……」


 バイアスだ——。


「ぼくを殺す、ってこと……?」

「おっと、具体的なことはかんべんしてくれ。おれたちにも守秘義務があるんでな」

「うははははは……」

 もうひとりの男がおざなりに笑った。

 たぶん、このリーダーのお約束のジョークなんだろう。


 グォォォォォォォォォォォォ………。


 どこかで動物の低い唸り声が聞こえた。一頭じゃない——。


「なんだ?」


「たぶんオオカミかなんかですよ。はやく片づけちまいましょう」

「あぁ、そうだな」


 ふたりがナタのような剣を引き抜いた。


 バイアスたちにとって、ぼくという存在は、葬り去りたい汚点なんだ——。

 自分たちが成りあがった先で、邪魔にしかならない存在なんだ。


 また涙がこぼれ落ちた。

 これが一年以上も苦楽をともにした仲間からの……、ほんの一日前まで仲間だった連中からの仕打ち。それを思うと泣けてしかたなかった。


「恨まねぇでくれよ。こっちも仕事なんでな」

 リーダーが剣をふりあげた。


 その瞬間、そのリーダーのからだが、ぼくの視界から消えた。

 意味がわからなかった——。


 それは殺し屋の相棒もおなじで、あたりをきょろきょろと見まわしていた。

 

 リーダーはなぜか地面に転がっていた——。

 血まみれで、すでに息がないようだった。


「おまえ、なにかやっ……」


 男の顔がぐちゃっと砕けて、そのままドサリと前にたおれた。


 なにが起きてる——?。


 

 ガサガサっ


 近くの茂みがゆれた。

 ぼくは恐怖のあまり動けない。


 彼らを襲ったなにかだったら、次はまちがいなくぼくの番だ——。


 だけど茂みの陰からでてきたのは、女の子だった。

 年齢的にはぼくとおなじくらいかもしれない。

 月明かりのしたでも美人とすぐにわかる。

 透明感のある肌、魅力的な青みがかった長い髪——。


 でも今は顔や手にキズをおっていて、服もところどろころ破れている。


「ど、どうしたの!」

 彼女はぼくの顔をみるなり、大きな瞳から涙をながしはじめた。

「たすけて……。わたしたち、怪物に襲われたの……」


「怪物……?」


「見たことがない。クマのような怪物……」


 クマってーー。

 もしかしたらそれ——。


 彼女はふらっと前に倒れかかった。あわてて彼女のからだをうけとめる。


「ぼくはベクトール。きみは?」

「わたしは……、ヒルベルト・パーティー所属、アリス……」

「ヒルベルト・パーティー。聞いたことがある。超一流パーティーじゃないか!」



「だった……よ」



 ぞわっとした。

 あまりも確信にみちた言い方に、なにが起きたかが想像できたからだ。


「アリス、きみ以外の仲間はどこにい……」


 バキバキ、ボキボキ……。


 いたるところでいっせいに木々が折れる音がした。

 音のした方向を見る。

 

 余裕で5メートルはある、クマのような生物が立っていた。

 クマのはずはない。

 いくらなんでもおおきすぎるし、そのクマには三つの頭がついていた。


 そして——。

 ぼくらはそのクマたちに取り囲まれていた。

 

 殺し屋たちは、こいつらに不意打ちされたのはまちがいない——。



 アリスの言った、『だった……』の意味がわかった。



 三つの頭のバケモノ——。


 ケロベロス。


 一瞬そう思った。


 でも、からだがオオカミじゃなくクマだ。

 あたまも、クマ、ヘビ、トラとバラバラ——。

 まんなかのヘビは長い首を、前につきだしてこちらを威嚇(いかく)してくる。



 ただ……、遠めにはどうしても『アレ』にしか見えない——。



 ぼくはアリスの手をひいて、大木の陰に移動した。

 運のいいことに根っこに『うろ』があって身をひそめることができた。

 『アレ』は燃え残っているたき火に気をとられていて、ぼくらの存在にはまだ気づいていない。

 

「あのクマ……、ケロベロス……、いや『アレ』に、きみのパーティーはやられたのかい」

 ぼくは声をひそめて、アリスに尋ねた。


「はい。あの蛇の長い首にはじき飛ばされて、動けなくなったところを、クマに殴られたり、虎の牙の餌食になった……」


 なるほど、問題のフォルムは、いちおうそれなりの理由があるらしい。

 

 だけどそんな考察は、いまこのピンチをしのぐのに、なんの意味もない。


「アリス。逃げよう。ここじゃいずれ見つかる」

「どこへ?。とても逃げ切れない」


「でも、ぼくじゃあ、あの怪物は倒せない」



 そう、ぼくには……、なんの武器もスキルも、魔力も……ない……。

「おもしろかった」

「続きが気になる。読みたい!」

「このあとの展開はどうなるの?」


と思った方は、

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正直な気持ちでかまいません。反応があるだけでも作者は嬉しいです。


もしよければブックマーク(お気に入り登録)もいただけると、本当にうれしいです。

どうかよろしくお願いいたします。

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