第16話 街の荒くれ者と対決
ここは逃げるが正解——。
そう、まちがいない。
現に、アリスの姿はすでに……ないっっ。
「おまえたちが手にもっている、わしらの金をとりかえしにきた!」
ロ、ロワン。
それは宣戦布告ですよーーー。
専守防衛に徹してぇぇぇーー。
「ははん。おまえタッチが、そこに転がっテル小僧に金をすられた、ロックでなしか」
なぜかところどころ『巻き舌』なしゃべりかたをする男は、上半身だけが病的に肥大している。とくに上腕の太さはバケモノレベル。
まるで『腕オバケ』。
「ウひひひひ。この金はもらったゼ。パケット」
ことばの頭と終わりの発音が、やけにひとをイラつかせる、頭がよわそうな男。
こいつは逆に下半身の肥大がすごい。非常識な発達をしているので、まるで脚だけが別のイキモノ——。
そう『脚オバケ』だ。
「ソれにしても、ガキどもに、シテやられるって、マぬけじゃなくネ」
「『ロックでなし』でも、『マぬけ』でもない。わしらは勇者じゃ」
「ユー者だとぉ……」
ロワンのことばに、ふたりの荒くれ者が顔を見あわせた。
ロワン、さっき、街中で『勇者』っていう、ことばの反応、見たよね。
ここで使うと、どうなるか、だいたいわかるじゃないのさぁぁ。
「おまえタッチ、ユー者なら『金』以外、なんか持ってるだろ。たとえば力や技をつよくスルー、あいてむ、とかサー」
「マ導師なら、レア魔術のかかれた、マどーしょとか持ってルンじゃネ」
「もってない。たとえ持ってても、おまえたちのような脳みそのないヤツラには、渡しはせんよ」
ロワン、完全に否定してぇ。もってる感、ださないでぇぇーー。
「なんか隠しテルな、兄者」
「アー、なんかかくしてるっショ、弟」
「どースルー、兄者」
「ドーかつ、するしかないッショ、弟」
と言ったとたん、目の前から『脚オバケ』が消え——
となりに建っていたバラック小屋が、バラバラにはじけとんだ。
そして、一瞬ののちに、脚オバケが姿を現わした。
アリス!!。
脚オバケはアリスの腕を荒っぽくつかんでいた。
なのに、アリスは痛がるというより、困惑した顔でぼくのほうに目をむけていた。
「な、なんで……」
「こイッツが、兄者のスキル。ひとの10倍はやく動ける『10倍速移動』」
「ブッとんでダロ。でも、ハヤすぎてイロんなところ、ブツかっから、からだ、キタえてンだよネ」
「アリス。だ……だいじょうぶ……かい?」
「いたあぁぁぁぁぁぁい」
そこではじめて強く腕をつかまれていることを認識したらしい。悲鳴をあげた。
「ベクトール。助けてぇ」
ぼくはこぶしを握りしめて、うつむいた。
ぼくの貯蔵庫から『ケンジュウ』を取り寄せすれば、たぶん勝てる。
だけど、どちらかか、もしくは両方とも殺してしまう可能性がある。
ロワンが言うように、ぼくの得たスキルは、どれも手加減ができない——。
もし人を殺してしまったら……。
勇者ではなく、殺人者だ。
バイアスやラグランジュたちの高笑いが、聞こえたような気がした。
ふと、地面に倒れている少年と、目が合った。
少年の片目は腫れあがり、口が切れて血がでていた。
そうとうに暴力を加えられたのだろうし、少年も必死で抵抗したんだと思う。
ふさがっていないほうの目が、ぼくに訴えかけていた。
たすけて……。
ぼくは手を上にあげると、中空から『ケンジュウ』を取り寄せして、筋肉兄弟のほうにむけた。
「動くな!」
「はぁぁ。ナにイッてんの。コいつぅ。手をまえにだしただけジャンよぉ」
「なんかオッドしてるみタイで、こいつキラーいだね」
「弟、ボコボコにしちまエ」
腕オバケが、ぼうのほうへ突っ込んできた。
ぼくは『ケンジュウ』をかまえたまま、動けなかった。
フックをひけば、勝てる——。
だけど……。
腕オバケが大木のような腕で、ぼくを殴りつけてきた。
それがぼくの手の先にあたった。
手首から先がもげたかと思うほどの痛み——。
腕オバケの剛腕の鉄槌はいきおいあまって、そのまま地面にめり込んでいた。
地面がゆれる——。
腕オバケがそのこぶしをもちあげると、地面にバラバラになった『ケンジュウ』があった。
「ナんでぇ。こんなにかんたんにこわれンのかヨ」
「け、け、け、け。弟、オーマイのスキルは、あいかわらずエッグいねぇ。ひとの10倍強力な『10倍パンチ』ってサー」
「ほう、兄弟そろって、すごいスキルじゃのう」
うしろで静観していたロランが、感心していった。
「この街では、おぬしらが一番つよいのか?」
筋肉兄弟がおたがいをみあった。
「あ、イヤー、おれタッチは二番だ。かしら二ヤー、勝てねぇ」
「ほう、そいつが『勇者狩り』のリーダーかい」
「アー、ソう。元勇者だったマルベル様が、このショバをしめてるノサ」
「そこに連れてってくれ」
「ナんでサ?」
「おぬしら『勇者狩り』なんじゃろ」
ロランがぼくのほうをツエで指ししめした。
「こやつはいくらでも欲しいものを出せる『魔法のスキル』の持主じゃよ」
うそでしょ……う……。
ロワン、ここにきて、ぼくを売るって……。
【心配するでない】
そのとき頭のなかにふいにロランの声が響いた。
え?、これはテレパシー?。
【わしをみくびるな。これくらいは雑作もないことじゃ】
おおーー、さすがレベル3000!。
『じゃあ、逃げる手だてがある、と?』
【いいや、気にくわんから、アジトまで行って、勇者狩りを……狩る!!】
ゆーーーしゃガリを、狩るぅぅぅぅぅ。
ここは逃げる一択でショーーーーー。
『で、でわ……、な、なにか作戦でも……?』
【そんなモンありゃせん。おぬしが考えろ】
オー・マイ・ゴッドぉぉぉぉぉ。
ノー・プラン。丸腰の、ノープランですかぁぁぁぁぁ。