第15話 スラム街の洗礼をくらう
「じゃが、おしいのぉ。レベルと相性をうまくあわせれば、それなりのパーティーが組める連中もおるというのに。あぶれ者同士で組むことを優先して、バランスのわるいパーティーになったんじゃろうな」
「ロラン、そんなことわかるのかい?」
「もちろんじゃ。レベルだけじゃなく、属性や相性なんかも、数値で見えておるからな」
「すごいね」
「でもわたしたちは、ああはならないわよ。だって、お金だけはたんまりあるんですもの。なんかあっても、お金で解決できるからね」
うわー。はやくも便利屋にされてるぅーー。
「いや、アリス。そんなこと頼られても困るよ。ちゃんと節約……」
ぼくは自分のポケットをまさぐった。
ない——。
財布が——ないっ——。
「お金がない!」
ぼくがそう叫んだとき、ぼくの前を走り抜けていくちいさな影が目に入った。
少年——。
見た目はロワンとおなじ、10歳程度だろうか——。
ものすごい勢いで、いきかう人々のあいだをすり抜けていく。
手にぼくの財布が、しっかりと握られているのがみえた。
「アリス。あの子だ。あの子に財布を盗まれた——」
ぼくが言い終わる前に、アリスは少年を追いかけていた。
少年のすばしっこい走りなど、ものともしないエゲつないスピード。
ものの数秒で捕まるはず——。
だけどそうはいかなかった。
アリスの前に子供たちがたちはだかってきた。雑踏のなかにからだを踊らせるようにして、アリスの進路をことごとく邪魔をした。
まだちいさい子供たち、5歳ていどの幼児もまじっている。
アリスがふいに足をとめた。
あっという間に100メルト以上先まで行ってて、もう数歩も走れば追いついたと思う。
でもアリスは追いかけないことを選択した。
「ごめーん。ベクトール。この子たち、ケガさせたくない」
ちょっぴり悔しそうに言った。でもその顔はどこか晴々としていた。
「あ、あぁ……。そ、そうだね」
そんな顔……。
そんな顔されたら、うなずくしかないじゃないか——。
「全財産とられたんじゃろ」
ロランが怒り心頭で顔をつきだした。
「ん、まぁ……、そ、そうだね」
「気にくわんな」
「お、お金はぼくがどうにかするよ。取り寄せで」
「いいや。先にやられた。『専守防衛』じゃ。今から……」
ロランの杖の先がボワンと光りはじめた。
「ちょ、ちょっとぉ。ロラン。こどもたちになにするつもりぃぃぃ」
「ツエで頭をこづくだけじゃ」
ツエでぇぇーー。
ロランがコツンとこづいただけで、内部からはじけとんだ、あのキマイラ——。
「やめてよ。そんなことしたら、ぼくらは勇者になれなくなるよーーー」
そう言ったとたん——。
あたりの喧騒が、ふっ、とやんだ。
みんながぼくのほうを見ていた。
そこにいる全員がだ。賭けてもいい。
ふゆかいな生き物や、不浄なものを見るような、あわれみと忌避がまじったような目がむけられていた。
「かわいそうに……。新規の勇者パーティーかい……」
「何十日ぶりかね……」
「まきぞえは勘弁だな……」
ボソボソとしたささやきは、どれもネガティブな色合いをおびていた。
「さぁ、さきほどの子供を追うぞ」
ロランが言った。
「え、どうやって?」
「仲間の子供の頭をこづいて、盗っ人の居場所をスキャンしたのじゃ」
「あ、あぁ、そうなんだ……」
「おぬしの『ケンジュウ』とかあの『火炎放射のキカイ』とかとちごうて、わしの魔法はいかようにも調整が可能じゃ。みそこなうでない」
ぼくらがロランに導かれて、むかったのは街のはずれにあるスラム街だった。
貧相なバラック小屋がひしめきあう場所——。
「この角をまがったところに、あの小僧はいる」
だけど、その角を曲がったところで、ぼくの足元になにかが転がってきて、ぼくの足にぶつかった。
あの少年だった。
ぼろぼろになった少年がぼくらの足元にうずくまっていた。
「ヲとなしく渡せば、そんな目にあわずにすんだのに。ネ〜〜。兄ジャ」
「おれタッチに逆らうからよ、な、弟」
路地のむこうに、筋肉バカを絵に描いたような、筋肉ムキムキの二人組がいた。
運のわるいことに、ぼくはそのふたりと目があった。
「ナんだ、てめぇワァァァァ」