第11話 森の精霊どもに襲われる
ロワンの号令で、たいまつをもった村人がいっせいに動いた。
手前の草に火をつけていく者、たいまつをできるだけ遠くへ投げる者。
足が速い者は森の奥までダッシュして、火をつけてきた。
おかげで、森全体を火事にするのに成功した。
「よし、盛大に燃えはじめたぞ!」
「魔法の青い炎から、赤い炎にかわりはじめた。これなら樹の精霊でも燃えるぞ!」
「葉っぱやツルがおもしろいように燃えている」
「地面も燃えてる。根っこにもきいてるはずだ!」
村人たちが口々に叫ぶ。
手ごたえを感じているくちぶりだ。
ぼくはみんなにむかって叫んだ。
「みんな、手をゆるめないで!。もっと火をくべ……ゴホゴホ、ゴホン、ゴホン」
「なぁに。おもいっきし、煙吸いこんでンのよ。ベクトール、足ひっぱらないでよね」
「すビバせん……、ゲホ、ゲホ……」
「ーーーったく、指揮なんか、やったことないのに、ちょーしのって張りきるからよ」
「コホン……、ご指摘のとおりで……コホン……」
「わぁ、きれーーい」
うしろから子供の声がきこえた。
さきほどお礼にきた子供たちだった。
「だ、ダメだよ。ここにきちゃ。アブナイんだから」
ぼくは子供たちを追い返そうとした。
その瞬間、しゅるしゅるっという、風を切るような音がして、男の子のからだが宙にういた。つづけてとなりの女の子も——。
「ツタが!!!」
だれかが叫んだ。
あっという間にふたりの子供の足にツタがからみついて、燃えさかる森のなかへ引きずり込まれていった。
「うわあぁぁ。子供たちが連れていかれた!!」
ちかくにいた村人が悲鳴をあげた。
ぼくは反射的に森のなかへ飛び込もうとした。
そのぼくをアリスが押しとどめた。
「あんたの足じゃ、ケシズミになるわよ」
え?。
と思った瞬間、アリスのからだは、燃えさかる森のなかに消えていた。
ぼくは消火用に用意していたバケツを拾いあげて、頭から水をかぶった。
「おぬしがいっても、役にたたんぞ」
ロランが当然のような、口ぶりで警告してきた。
ぼくはぐっとこぶしを握りしめた——。
あぁ、そうだ。ぼくは役立たずだ。
剣術も体術も魔法も、特別なスキルもない。
子供たちを助けにいける、早足もない——。
だから、バイアスパーティーから追放された……。
「わかってる、わかってるよ。ロラン。でも、ぼくは勇者なんだ……。勇気を……」
「勇気とむこうみずは、ちがうぞ……」
にぎりしめたこぶしが白くなる——。
「でも、でも……、アリスは……、飛び込んだんだ」
「あいつは足が速い」
「でも、戦うための武器やスキルなんか、なにももってないんだよ」
「そうじゃったな……。あいつも『むこうみず』のほうじゃったかもしれん……」
ぼくはロランをにらみつけた。
「ぼくは、ひとを救うために命をかける人を、見捨てたりはできない!」
ぼくは森のなかに飛び込んだ。
煙で視界とノドをやられ、熱さに前にすすむ気力をうばわれる。
でも、ぼくはぼくのもてる力をふりしぼって走った。
ウォォォォォォォォォォォォォォォォン。
なにかが苦しみにうめく声が、森のあちこちから聞こえてきた。
たぶん樹の精霊たちの声——。
メキメキとおとをたてて、おおきな枝が落ちてくる。
ふいに広場のような、ひらけた場所があらわれた。
そこはまるで結界にでも守られているように、火の粉ひとふりすらなかった。
燃えてないって……、どういうことだ?。
「ベクトーーーール」
「おにいちゃぁぁぁぁん」
頭上から声がした。
ひときわ大きな樹の枝に、アリスと子供たちが吊り下がっていた。
枝からのびるツタが、みんなのからだをぐるぐる巻きにしていて身動きがとれなくなっている。
「ごめん。人質になっちゃった」
「人質……って……」
『おまえか。このモリにヒをはなったモノは?』
正面の巨木がしゃべっていた。
「びっくりでしょ?。そいつら、しゃべるのよぉ」
「おどろくとこじゃないよ。だって樹の精霊だよ」
『ニンゲンよ。なぜこのようなまねをする?』
あたりの木々が巨木のことばに反応して、はやしたててきた。
【そうだ、そうだ。ばかなまねをするニンゲン】
「それはこっちのせりふでしょう。この森を封鎖したから、村人が飢えてしまってるんです。あんたらこそ、なぜそんなまねをするんですかぁ?」
『あのかたのメイレイだからだ……』
【そうだ、そうだ。あのかただ。あのかただ】
「あの方?」
『ついにあのかたがマカイからフッカツする。ニンゲンたちも、それはわかっているのではないかね?』
わかってる——?。
あぁ、うすうす感じていた。
いま、王都は手当たりしだい、勇者パーティーを正規軍にとりたてている……。
ぼくを追放した『バイアス・パーティー』も……そのひとつ……だ。
「復活したからって、な、なんだっていうんだ」
『どっちにつくかをいまのうちにキメておかねばな。ワレも、このヨからショウメツさせられたくないのでね』
【あのかたにつくにきまってる。きまってる】
「ふざけるな!」
ぼくは取り寄せした『ケンジュウ』を、巨木の顔にむけた。
パン、パン、パン、パン!。
連続でフックをひいたのに、巨木の樹の表面の皮を、わずかに削っただけだった。
『うわはははは……。なんだ。そのオモチャは?。いちまいづつ、はっぱをチらせるつもりかね?』
【はっぱ、はっぱ……、ケタケタ、ケタケタ】