第9話 役得ということで
次の日。デートのために早起きした。
部活もバイトも休み。一日たっぷり智絵里といれる。
人に見られてりゃ、智絵里は可愛い恋人。
そこでちゃんとしよう。契約満了となっても智絵里と恋人になりたい。
一番オシャレな服を着て、髪型をバッチリ決めた。
一番いい角度の顔も鏡でチェック。くぅ~。イケる!
マンションの廊下に出て、隣に住む智絵里へと電話をする。
「もしもし?」
「あ、智絵里? オレ。準備できた? デート行こう。デート」
「えー。早いよ。それにどこ行くの?」
「ショッピングモールに行って、買い物しない?」
「買い物?」
「そうそう!」
「ふーん。ハイハイ。20分くらい待ってね」
「あ。うんうん。オーケー」
一度家の中に戻ってもよかったのだが、廊下でそのまま智絵里を待つ。
すると、オレの家の中から友貴が出て来た。
オレと目が合うと、服装でデートと感じたのか、睨みつけてきた。
「……デート?」
「だな。お前は?」
「図書館」
「受験だもんな。どこ受けるの?」
「栄夢高」
「エムコーかよ。医者にでもなんの?」
「まぁね」
その時、隣の家のドアが開いて智絵里が顔を出した。
今日の服装も可愛らしい。でもいつもよりは露出が少ないかな?
だがオレは感動に打ち震えていた。
「あ~智絵里、今日も可愛いよ~」
「んふ。ありがと。ユタカくん。おはよ」
昨日、ユーくんではないと言われたからだろうか?
友貴への呼称を変えて微笑んだ。
それに友貴は顔を伏せる。
「ざス……」
「なによ。元気ないね。いつも会うと元気なのに」
「なんでもないっス。今から図書館行くんで」
「そう。勉強頑張れ」
「はいス」
友貴はオレたちに背中を向けて先にエレベーターへと向かっていく。オレたちはその背中を見送った。寂しそうな背中。
「アイツ、エムコー受験するんだってよ」
「知ってるよ。結構、道で会うと話ししてたもん」
「そうなの?」
「うん。女子高だから同じトコに行けないスね。でも大学は同じトコに行きたいっスって言ってた」
「それってつまり……」
「うん。気持ちに応えられないって言ったよ」
「そうなのか……智絵里はもうアイツの気持ちを知ってるんだな」
「そうだね。二回告られたし」
「二回も! アイツ……マジ本気なんだな」
「そーだよ。見る目ある」
「……そーだな」
つか、こんな身近にライバルがいたなんて。友貴か──。正直勝ち目ねぇじゃん。そんなヤツが告っても振るんだから、智絵里の理想はどんだけ高いんだよ。
まぁスペック高いし、頭もいいから今は恋とかじゃないとかってことなのかな。うーん。
「何考えてんの。ホラいこうよ」
そうだ。恋人タイムスタート。
なんとか智絵里に惚れてもらはないと!
契約期間が終わっても、もうマーくんと離れたくないない! 一緒にいたいよぅ。やったぜヴイ!
って感じにしたいもんな。つか、なってもらえるのかなぁ。はぁ。
「ショッピングモールかぁ。何買うの?」
「そりゃー、決まってるっしょ。海いくんだぜ。海!」
そう。智絵里の水着だ。もうこんなにプロポーションがいいんだから、みんなに見せつけてやらないと。
ビキニだ!
美沙どころじゃないぞ?
まぁ、美沙のプロポーションまでは知らないけど、向こうは俺の金で買うビキニを着てきやがる。
しかし、俺の本命の智絵里はそれ以上のビキニなのだ。美沙の負け確。おめでとうございます。ありがとうございます。ざまぁ。まさにざまぁなのです。
訝しげな目で見ている智絵里。そんなに軽蔑しないでくれよ。それに、契約期間中は俺にベタ惚れなんだから、ここは一つ役得ということで。