第4話 追い撃ち
次の日。重い体を引きずって学校へ。
顔をあわせたくないヤツらがいる。
美沙と翔琉。
仲がいいグループなんて、表向きの話だ。
ヤツらは彼氏と彼女。
悲惨だ。オレはピエロ。
自然と顔が下を向き、口数が少なくなる。
休み時間、みんなが集まってきても、オレは皇族のように微笑を浮かべてみんなの話にうなずくだけしかしなかった。
その内に、佑弥が赤い顔をして口を開いた。
「ご報告がございまーす」
改まって何だと、みんなそちらを向くと、佑弥の隣にいた晴香が佑弥の肩に頭を乗せた。
「オレと晴香が付き合うことになりましたー……」
と恥ずかしげ。
オレの動悸が速くなる。
じゃ何? このグループにカップルが二つもあるわけ?
「じゃオレも言うけど……」
と言い出したのは俊介。隣の梨奈は慌てて手をバタつかせた。
「やめてよぅ」
「いいじゃねーか。オレと梨奈も付き合ってまーす」
「もう!」
「かれこれ三ヶ月になるかな。ま、そう言うことだ」
待ってくれ。
もう心臓が止まりそう。
なんなのこの急展開。
やめて。もうやめて。
必死に祈るも、梨奈は気の毒そうに翔琉の方を見る。
「マサと美沙も付き合ってるし、翔琉は? 彼女いないの?」
どんな勘違い。
つか、ハタから見りゃオレと美沙は恋人に見えるほど、美沙は巧妙だったってことだ。
「やだぁ。マサと私は友達だよ」
「またまたぁ。もうそう言うのいいから」
「ホントだってェ」
梨奈とのやりとり。いつもの風景だが今日は違う。
このグループ7人の内に3組のカップルがいるということだ。
美沙の否定は空気が読めていない感が漂っていた。
「そうだな。美沙と付き合ってるのはオレだし」
「は……?」
翔琉の言葉にグループの時が止まる──。
しかしオレは微笑を浮かべたまま。
そうでもないと精神が崩壊してしまう。
気にしない振り。
翔琉がこんな手に出たのは、オレをグループから排除しようとしているのかも知れない。
美沙に金を貸したままの状態で。
もしもあの教室での出来事を知らなかったら翔琉の思うつぼ。
オレはグループから抜けてぼっちになっていただろう。
寂しい夏休みを送っていただろう。
「みんな勘違いしているようだけど、美沙はオレと付き合ってんだ。だから彼女がいるのか聞くべきなのはマサの方にだよ」
空気が重い。当たり前だ。
誰しもがこの二人へ不信感を持った。
美沙と翔琉へ──。
そんなことに悪びれる様子もなく翔琉の勝ち誇った顔。
美沙は視線を合わせようともしなかった。
悔しい。本当にただのピエロだ。
逃げ道がない。
──逃げ道。
智絵里の提案を思い出す。
もはやヤケ気味に口を開いた。
「実はオレも最近彼女が出来たんだ──」
「え!?」
言ってしまった。
驚いた美沙は急にこちらに顔を向ける。
美沙だけではない。翔琉も梨奈も他のみんなも。
こうなりゃどうにでもなれだ。
「幼なじみでね。向こうはこっちにぞっこんで仕方なくって感じで」
「へぇ!」
美沙の挑発的な声。
美沙に告白したのは数日前だ。その気持ちを持っていながら、相手の告白を受けるだろうか。
だから美沙はこれを嘘だと感じ取ったに違いない。
一時凍ったグループ内の空気だが、全員が彼氏彼女持ちということが分かって安堵した雰囲気となった。
「よかった。マサにも彼女がいるんだァ。どう? 私たちと海に行くのに彼女も誘ったら。大勢ならきっと楽しいよ!」
という梨奈の提案。
「ああ、もちろん。だけど彼女の智絵里は顔だけはいいんだ。みんなの彼氏たちがこっちばっかり見なきゃいいけど」
「ま。性格悪」
「うそうそ。はははは」
梨奈を含めた他の三人はかなり友好的でマジで喜んでくれてる。
美沙と翔琉はオレが美沙に告白したことを知ってるから、まだ嘘だと思ってやがる。
くっそう。何が何でも智絵里に期間限定の有料コースをお願いしなきゃならなくなったッ。