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第2話 即フラれたっス!

それはひと月前の出来事だった。


「美沙、好きだ! 付き合ってくれ!」

「ごめんなさい」


終わった。説明が始まって三行目でフラれるなんて最悪だよ。

二人しかいない夕暮れの教室に、オレ、塚田雅武(つかだまさたけ)は、田代(たしろ)美沙(みさ)の顔を見ながら固まっていた17歳の夏休みの数日前。


「マサとはまだまだ友達のままでいいよ。グループの中でギクシャクしたくないし」

「それって……」


「うん?」


まだあきらめなくて良いってことか。

そうだよな。美沙とオレは友人同士。

高校に入学してから、つるみだした。男四人、女三人。


そんな中で一番仲が良い美沙へ勇気を出して告白。

それというのも、同じグループの桜田(さくらだ)翔琉(かける)も美沙へちょっかいを出し始めたから焦りもあったのだ。イケメンで声の調子もイケボイスな翔琉になど勝ち目は無い。


だからこその先手だったが、美沙の心はまだ盛り上がっていなかったようだ。


「夏休みにみんなで海に行く約束してたでしょ? それで彼氏彼女ですって言うのはいやだなぁ」

「そ、そうか」


友達のままか。だけど感触が悪いわけじゃない。

まだまだこれからじゃないか。

フラれたけど、落ち込むような気持ちじゃなかった。

美沙の気遣いかも知れないけどものの言いよう。

チャンスは残されてる。希望はある。


オレは帰り道、美沙を送り笑顔で手を振る。

気持ちを伝えられただけでも一歩前進。そう思って両腕を上げて体を伸ばし、家路に着いた。


駅中に入っている小さな紳士服売り場。

そこのショーウィンドウにある秋物のコート。

大人っぽくてカッコいい。

少し値段が下がってきて18000円。

バイト代を貯めてこれを買いたい。

そしてコレを着て美沙とデートするのが秋までの目標だ。



次の日、オレたちは何もなかったように休み時間集まって普通の雑談。

ユーチューブで誰を見たとか、ソシャゲでどこまで行ったとか、部活やバイトがつらかったとかいつもの話だ。


「ねぇマサ」

「何? 美沙」


「飲み物買ってきてよぅ」

「ああ。どうせバナナオレだろ」


オレは立ち上がって彼女のパシリをする。

後ろから、「仲いいなぁ、お前ら」の声。「付き合えよ」の声。

昨日フラれたんだけどね……。


学食の自販機コーナーから、紙パックのバナナオレとコーヒーを買ってきて彼女に手渡す。微笑む彼女。


「怪しいなぁ。美沙ばっかり」

「別に……。梨奈も言ってくれれば買ってきたよ?」


「いーえ。美沙に嫉妬されてもいやだから」

「そんな。何もないよ。私たち」


友人たちの冷やかす声に、オレたちは軽く流す。

美沙は思い切りバナナオレを吸い込んで赤い顔。

これでいい。本当にオレたちは友人同士なんだから。

一歩ずつ。少しずつ近づけば。


昼は昼でまた美沙にこっそりと学食で昼食をおごった。

もうほとんど日課のオレたちのスタイル。

ここで楽しくおしゃべりするのも毎日の楽しみだ。


「ねぇマサ?」

「何? 美沙」


「あのさ、夏休みのみんなで海に行くのに、カワイイ水着を見つけたの。ビキニだよ」

「え? ビキニ」


「そうなの。でもちょっと高いんだ」

「え? いくら」


「12000円」

「え。そんなにするんだ」


12000円は高校生にはデカい。

バイトしているとオレにだって高い買い物だ。


「でもお金ないんだよね〜」

「だよな。普通は買えないよな」


「でも翔琉に借りようと思って」

「は?」


「さすがにマサにはいつもおごってもらったりして悪いしね」

「いやいや、貸すよ。何言ってんの?」


「え? ホントに?」

「ホント。ホント。そんなこと翔琉に言うなよな~」


「エへ。ゴメンゴメン」


美沙は可愛らしく舌を出して笑った。

12000円……。あー。秋物のコート……。

でも美沙のビキニ姿を見れるからいいか。

オレだけの美沙のビキニ……はまだ早いか。


オレは美沙を連れて教室の外に設置されているロッカーへ行くと、鍵を開けて財布を取り出し、12000円を手渡した。


「わーい。ありがと」

「いやいいってこと。返却はいつでもオーケー」


「だよね。マサありがとう!」


感謝の言葉。それに嬉しくなって互いに微笑み合った。




部活休みの水曜日。今日はバイトが入っている。

家の近くのコンビニ。バイトをやってみんなで行く海に備える。

あと、美沙にバナナオレを毎日買ってやりたいし。ぬふふ。


家までは学校から二駅。

駅に着いてから思い出した。バイト先のネームプレート。

別のバッグに入れていた。

それを学校のロッカーに入れてきてしまった。


前に店長にイヤミを言われていたんだ。

バイトの時間まで学校に戻っても余裕がある。

仕方ない。戻るか。


学校へ戻り、教室の外に置いてある鍵付きのロッカー。

そこに近づくと教室の中から声がする。


それは美沙と翔琉の声。

一気に緊張が走る。

二人きりだ。教室で美沙と翔琉は二人きり。

恐る恐る覗くと、二人は廊下に背中を向けて何やら話していた。

それはそれは親密そうに体を寄せ合いながら。


「とんでもねー。マサに告られて断っときながらジュース買わせるとか悪ィ女」

「いいじゃん。翔琉のお金使わせるの悪いし」


「まーな。マサにはマジ感謝してるよ」


翔琉に肩を抱かれながら美沙は翔琉の肩にもたれている。

胃が痛い。極度の緊張。

大好きな美沙が翔琉に寄り添っている?


「みんなオレたちが付き合ってるの知らねーとか、よっぽどニブい」

「ねー。一年の頃からなのにね」


「ま、もうしばらく友達だと思わせとくか。マサにいろいろおごって貰わなきゃいけないしな」

「そうだね。貯めたお金で夏休みどこ行く?」


「どっかに泊まりに行くか」

「やだぁ」


「なにが、やだぁだよ。初めてのことじゃねーだろ」

「うふふ。そうだね」


マズい。吐きそうだ。

大好きな美沙は、すでに翔琉のもので、思わせぶりなセリフは二人の計略だったんだ。


クソ!

なんだよそれ!


オレは足音を立てずにその場を後にした。

ネームプレートのことなど忘れて。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 最初から強烈な展開ですね^^; 翔琉君は、自分の彼女が別の男のお金で買ったビキニを着るのはOKなのかな? 学生だからか、価値観の違いか……実際に目の当たりにしたら微妙な気分に…
[一言] 拝読させていただきました。 こいつはいけませんな。 人の心を弄ぶのはよくない。
[良い点] なんとエゲツない! こりゃあ天罰が下りますな!
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