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第16話 契約内容変更

あの時。トイレから出て来た智絵里は、翔琉に一連のことを謝られ、神社の方が花火が見えるからみんなはそっちに移動した。俺もそちらへ向かうと言われたらしい。

神社へいく道すがら、おかしいと思って俺に連絡しようとしたが、スマホを叩き落とされ草むらへ。

二、三度頬を叩かれ、完全に怖くなって抵抗できなくなってしまい、途中経過の記憶は曖昧で混乱のままあそこに押し倒されたようだ。


未だにパトカーの中で怯える智絵里の肩を俺はずっと抱いていた。あんなに強そうに見えても智絵里はやっぱり女の子なんだな。

翔琉はパトカーに乗せられて連れて行かれた。もはや祭りどころじゃない。智絵里の親が智絵里を迎えに来たが、俺はおじさんに殴られた。大事な娘をこんなところに連れ回してと叫んでいたのが聞こえたが、本当にその通りだ。

智絵里は俺の恋愛のいざこざに巻き込まれたんだ。本当に申し訳ない。


家に帰って、うちの両親からも散々咎められた。口答えなんて出来るはずも無い。いろいろ疲れて部屋に戻って電気も点けずにベッドに倒れると、スマホに着信だった。

それはトークアプリのほう。見て見ると、智絵里からのメッセージだった。


「ベランダで待ってるよ」


ベランダの方を見ると、智絵里の部屋から灯りが漏れている。俺はそこに出てみると仕切りに智絵里の横顔が見えた。


「智絵里。ごめんな? 大丈夫か?」

「うん。まあね。マー君もいろいろご苦労さま」


「親父さん怒ってるか?」

「ううん。今では殴ったこと反省してるみたいよ?」


「そうか。よかった」


俺達は、ただの幼なじみだ。恋人じゃない。でも深い絆で結ばれた。そんな感じがした。


「あのさ、マー君」

「うん。どうした? 智絵里」


「契約の内容なんだけど、夏の最後に私を振るじゃん? それ、私が振ることにしない? あんな危険な目にあってトラウマになった。みたいな。その方が自然だよね」


深い絆は気のせいだった。

全然、智絵里はまだお芝居の真っ最中。

まだ契約のことを気にしてたのか。ちくしょう。


「はぁ~……。別にいいよぉ~」

「ホント? よかった。今から梨奈ちゃんと晴香ちゃんとグループメッセージするんだ。じゃまたね~」


軽。全然気がない。それに、もう復活かよ。まあ頼もしいや。智絵里が部屋を仕切る壁から姿を消して部屋のドアを開ける音が聞こえた後。


「あ。そうだ」


との智絵里の声。


「マー君助けてくれてありがと。──かっこ良かったよ」


小声のお礼。聞こえるか、聞こえないか程度の。

しかしバッチリ聞こえた俺は心の中に温かいものが溢れて、そのままベランダの壁に寄り掛かって街の灯りを見ていた。

夏の終わりまでに智絵里に好きになって貰うことなんて無理なのかもしれない。

でも少しだけなんとかなりそうな感じ。あの時の智絵里のスマホの俺の登録名にはハートマーク。それってつまり──。だけどアイツのことだ。期間中ですからお名前に細工しただけですのよ、お客様。なんて平気で言うだろう。


だけど……ちょっとだけ期待出来そうな感。頑張る。俺に振り向いて貰えるように!



それから、翔琉はどうやら少年院送りになるらしい。暴行の未遂とはいえ、凶悪な犯罪だ。無理矢理智絵里を抱いたからといって自分のものになるわけなんてないのに。なんて浅はかな。バカなヤツだ。


俺と智絵里は残りの夏を楽しんだ。まぁ楽しんだのは俺だけかもしれないが。

手を繋いで街を歩く。肩を組んで家で映画を見る。プールで遊ぶ。梨奈や俊介と食事に行く。

最高の夏休みだった。

夏休みの宿題も智絵里の手伝いで完璧に終わらせた。智絵里の普段のベタベタぶりは俺の気持ちを最高潮に高めた。

だが智絵里が俺のことを本当に好きがどうかは分からない。むしろ、もう早く契約を終わらせたかったのかもしれない。



夏休み最後の日。二人きりの公園。ベンチに座って他愛もない雑談をしていた。

会話が途切れたとき、智絵里の手を固く握って彼女の目を見た。彼女の瞳に俺が映っている。鼓動が高鳴る。

今しかないと思ったんだ。


「智絵里。好きだ!」


時が止まる。彼女は赤い顔をしてそのまま俺を見つめていた。俺からはもう言葉はない。全力で言葉をぶつけたんだ。その回答を待っていた。


「私も。マー君のこと好きだよ」


ん? それって、マジなほう? それともフェイクのほう?


「マジで?」

「マジだよ」


「じゃ明日になっても別れない?」

「うーん……」


フェイクじゃねぇか。


「いや智絵里。本当にキミのこと好きなんだ。契約が終わってもキミと付き合いたい」

「うーん……」


「ダメかな?」

「それはマー君が私のこと、契約の時でしか見てないからだと思うよ?」


この思いは本物なのに。智絵里は信じてくれない。


「私の性格は昔から変わってない。マー君が嫌いな智絵里のままなんだよ」

「そ、それは違う。このひと月一緒にいた時間、ところどころで出る本物の智絵里。それをひっくるめて好きなんだ! 付き合って欲しい!」


智絵里は黙る。下を向いたまま。

やっぱり俺ではダメなのか?


「心に決めた人?」


智絵里は黙ったまま首を横に振る。

正直違うんだと思った。その人を想っているから俺と付き合えないんだと。


「──うるさい女って言ったんだよ?」

「え?」


「小学校の頃、マー君にいろいろ注意した。それはマー君に治って欲しいから。だけどマー君はみんなの前で、うるさい女って。私、恥ずかしかった!」


そ、そんな昔のことを引っ張っり出されても。正直憶えてない。言ったかも知れないし、言ってないかも? いや言ったんだな。智絵里の心にそれが引っかかってるんだろう。


「ゴメン……」

「そんなこというマー君なんて……。嫌いじゃないけど、好きでも無いよ」


「そんな昔のこと……」

「昔のこと? ねぇマー君。あなたの夢は何ですか?」


な、何だ、藪から棒に。

昔、コイツと夢なんか語り合ったっけ?

将来のことか?


「夢。夢ねぇ。──まぁ専門学校か大学行って……なにかやりたいこと見つける……じゃ、ダメ?」


智絵里の深い深いため息。

不正解だったらしい。

でもそれがなんなんだよ。


「全然覚えてないんだね。夢も、私を笑いものにしたことも」


まったく答えが分からない。そして、この恋人期間の気安さからか、俺はハッキリ言わない智絵里に腹を立てた。


「うっせぇなぁ。そんな昔のことなんて憶えてるヤツいるかよ。智絵里の夢はなんなんだよ!」


智絵里は怒鳴られて驚いたように体を揺する。

そして完全に下を向いてしまった。


「またうるさいって言った」


しまった。智絵里を傷付けてしまった。さっき言われたばかりなのに。そこが智絵里の琴線なのに。


「ご、ゴメン」

「そんなの……。受け入れられないよ」


智絵里は、荷物を持って立ち上がる。そして、思い出したようにポツリとつぶやいた。


「私の夢? 私の夢はねぇ。……もう 忘れちゃった」


そういってマンションの方へ歩き出した。俺はそんな智絵里の後ろ姿を眺めることしか出来なかったんだ。



こうして俺と智絵里の恋人期間は終わった。

終わってしまった。

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