第14話 決別の刻
焼きそばやらタコ焼きやらフランクを入れた袋を中央に置き、俺達はそれぞれの彼女の隣へ。
俊介が美沙の話をすると、梨奈と晴香に睨まれる俺。怖い。
「智絵里も怒るか?」
「ううん。そんなマー君が好き」
決められたセリフ。みんなの前ではベタ惚れな演技。みんなはそんな智絵里をほほ笑ましく見るが、それはフェイクなんだ。智絵里の本当の言葉が聞きたい。
──そうだ。トークアプリ。
俺はスマホのアプリを立ち上げて、智絵里にメッセージを送った。
「ホントは? 美沙にしたことは良かったかな?」
智絵里は、アプリの呼び出し音に気付いてすぐに返信を送ってくれた。
「いいんじゃない? マー君が優しくしてあげたいって気持ちは大事なことだと思うよ。ただ、私にはもっと優しくしてよね。あの二人にざまぁして上げた功労者なんだから」
そっか……。智絵里はやっぱり俺のために復讐してくれたんだよな。
「ありがとう。でもちょっと後味悪いかな?」
「そうだよ。復讐なんてこんなもの。残るのは後悔だけ。そんなものなのかもね。それはマー君が優しいからだよ」
「たしかに。復讐なんて空しいだけだよ」
相手がどんなヤツだって、こちらの後味だけは最高に悪い。と思ったところでまたもメッセージ音。
「不勉強だな、マー君は。そんなこと人間の歴史上でたくさんあるよ」
メッセージを見て隣の智絵里を見て見ると、物凄い勢いでメッセージ文を打ってる。アカン。これ歴史勉強的なやつや!
俺は智絵里のスマホの画面を手で覆った。
「いいから」
「えーなんでぇ~」
「もういいっつーの」
「あと少しなのに~」
智絵里の面倒くさいやつを封じようとしばらく格闘してると梨奈がこちらを見てるのに気付いた。俺たちがイチャイチャしてるように思ったらしい。
「仲がいいですね、オフタリサン」
「い、いやちげー」
「もぉーん、マー君たらぁ」
「ふーんだ。俊介、パンチしちゃう。パンチ、パンチ」
「!!?」
突然巻き込まれた俊介は鳩が豆鉄砲くらった顔をしていたので思わず笑ってしまった。
ああ楽しい。フェイクでもこの青春を大事にしたい。フェイクはなにも残らないと思ったけど、おかげで智絵里に恋することができたって考えるべきだ。智絵里は友だちかそれ以下って思ってるかもだけど。
ちゃんと、ちゃんと智絵里に恋すれば良かったな。
「何笑ってるの?」
「ん? いやー、俺ってサイテー」
「んーん。そんなことないよ」
そう智絵里に言われるまま、レジャーシートの上で彼女の手を優しく握っていた。
偽物の夏。
偽物の恋。
偽物の思い。
それでも俺には最高の夏だ。
夜空に花火が上がる。広がる大輪の花。それによって作られる一瞬の光に智絵里の美しい顔が照らされる。それに心奪われていた。
その時。智絵里の方から俺の手を握る力が強くなる。
そして顔を近づけて小声で囁く。
「……トイレ」
……なぁ~んだ。ドキドキとこの赤い顔を元に戻してくれよ。
俺は智絵里の手を繋いだまま立ち上がった。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「あそ。いってらっしゃ~い」
「混んでるぞ~」
仲間たちに見送られて俺達は簡易トイレが並んでいる場所へ。たしかに大行列。係員もいて、一人一人トイレが空いた順から案内されていた。
俺は少し離れた場所で智絵里を待っていた。並んでいる途中、振り返って手を振る智絵里。かわいい。
俺は智絵里の背中を見ていたがやがて混雑と夜闇に彼女の背中を見失った。
まぁここにいれば用を足したらそのうち来るだろうと待機していた。
ふと横に人を感じた。他人とは違う距離感。視線を落とすと美沙だった。俺は仲間の手前か即座に視線をそらした。
「──なーんだ。まだ帰らなかったの? なーんちゃってェ……」
「マサも……、嫌な女と思ってる?」
いきなり重くて答えづらい質問。あー。ここは適当にごまかそう。
「あの俺、智絵里を待ってるから──」
「あの時、告白を断ってゴメン。もう翔琉と付き合ってると思ってたから。でもアイツの中ではそうじゃなかった。騙されたの私。ホントはマサの告白、嫌じゃなかったんだよ?」
嫌じゃなかった──。思い出される恋人未満の日々。俺と美沙は仲間に隠れて二人で遊んだ。デートみたいなこともした。そりゃ金を使わされることもあったけど、それ以上に心動かされていたのは間違いない。
「私、バカだよね。あんなやつに全て許しちゃって。マサのためにとっとけば良かったな……」
そ、それって……。
「ねぇ。ホントに智絵里ちゃんのこと好きなの? まだ付き合ってそう経ってないでしょ? 私と一緒にいた時間も思い出して欲しいんだ」
つまり、つまり、これは逆告白?
智絵里と切れて、私と付き合わないかってことだよな。
正直、美沙に未練がないかっていったらウソになる。美沙を見返したい思いで智絵里に期間限定の恋人をお願いしたんだ。
智絵里とは夏が終わったら期間満了で終わりだ。でも美沙とはこれからも……。
智絵里。
智絵里。
智絵里──。
あの笑顔。俺を注意する優しい言葉──。
智絵里とは偽物の恋だ。彼女には思い続けてる人がいる。俺の思いなんて届かない。9月になったらあのクールな顔でそっぽ向かれてしまうに違いない。
でもどうして?
完全に智絵里が俺の中に入ってきてしまった。
美沙をとって智絵里と別れるなんて──。
そんなこと……できないよ。
「ねえ、美沙聞いて」
「うん──」
「智絵里は、今までは幼なじみだった。でも今は違う。とってもとっても大事な人なんだ。だから──」
「待って!」
美沙が俺の言葉を止める。指を上げて制止した。俺は言いかけた言葉を止めて、彼女が何を言うのか待った。
「分かった。もう充分。はぁ。しょうがないよね。私がしたこと最低だもん。ちゃんとお金は返すからね」
「お、おう」
「じゃ。今度こそ帰るね」
美沙は背中を向けて手を振って人混みがない駅の方へ。
俺達とは逆の道。俺と美沙は完全に決別したんだ。
ん~、やっぱもったいなかったかな……。
いや、この優柔不断! 未練がましい!
智絵里にちゃんと告白する!
たとえフラれたって。
フラれるんだろうな~……。




