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第13話 夏祭り

それから俺達は、しばらく同じように波乗りをして遊んだ。智絵里の腰を抱きながら。

この時が永遠ならいいのにと彼女の顔を見つめながら。智絵里はそんな俺に微笑むが、それが演技だと思うと哀しさと空しさが心に穴を開けてゆく。


夏祭りもあるので、海の家の更衣室で浴衣に着替え、15時頃に切り上げ荷物を持って花火大会のある場所へと移動した。

浴衣姿の智絵里もまた可愛い。白と赤の混じった浴衣はビキニと同じカラーリングで、智絵里色と言っていいくらい。梨奈と晴香も浴衣姿。俺と佑弥はTシャツ、ジーパン。俊介はこれまた浴衣だ。すげえ気合い入ってるな。

そんな俊介に梨奈がイチャつく。浴衣のカップルいいなぁ。俺もそうすれば良かった。


まだ時間があるからか、神社前広場の一番いい場所が取れた。女の子たちは場所取り。智絵里は二人と意気投合して、女子トークで盛り上がっていた。

男子たちは買い出し。露店の集まっているところを目指して歩き出した。


俺達が海話で盛り上がっていると、道の真ん中に白いワンピース姿の美沙が立っていた。沈んだ表情は悲しげだ。俺はつい足を止めてしまった。

だが俊介と佑弥は顔を斜め上に向けて美沙を見ないようにした。


「おい行こうぜ」


俊介の決別の言葉。そのまま美沙の横を通り過ぎる。それは決められていた未来。友人である俺を食い物にした罰。追い撃ちをかけた罰。仲間から排除しようとした罰だ。

佑弥もその横を無言で通り過ぎる。

彼らは通り過ぎた後、足を止めて振り向いた。美沙のことは目にも入れず、俺に早く来いと無言で訴えたのだ。

俺も当然、彼女の横を通り過ぎようとしたが、彼女の言葉。


「──待って」


それに足を止めてしまったが、俊介は俺の手を引いた。


「待つ必要なんてねぇよ。美沙。早く家へ帰れ」


そういって俺を前に立たせ、ガードするような形で進もうとした。


「──違うの。翔琉が電車の切符もってて……。私、お金持ってなくて」


俊介の歯がキリキリときしむ音が聞こえた。また俺を食い物にするつもりだと感じたのだろう。佑弥も深くため息をついた。


「だったら翔琉に電話して切符貰えばいいだろ? 俺達になにか頼むなんて筋違いだろ」


美沙は何も言わず立ち尽くしていた。その姿がとても気の毒で……。

俊介と佑弥は俺の背中を押して進ませる。しかし俺は足を止め、彼女の元へ走った。そして財布からいくらか出して、美沙の手にそれを握らせた。


「貸すだけ。後で返せよ?」

「あ、ありがと。マサ。ヒドいことしてゴメンね──」


言葉の途中で彼女は泣き出したが、俊介に肩を引かれて俺達は露店の方へ。


「まったく、お人好し過ぎるだろ。みんなアイツらにムカついてるのに、当事者のお前と来たら」

「そーそー。気の毒でも頼る相手を間違えてるよ。親に電話しても良いわけだし」


まったく二人の言うことがもっともだ。俺はなんてバカなんだろう。


「でも……」

「あん?」


「智絵里もそうしろって多分言うだろうし──」


なぜかそう思った。智絵里のした行動は無情だろうけど、それは俺を守るため。

本来はあんな子ではないんだ。正義感が強くて、よく俺を叱ってたっけ。やれ廊下を走るな。忘れ物するな。爪が切られていない。水道をちゃんと締めろ。女子には優しくしろ。

それを俺は嫌がってたなぁ。


智絵里は──。

俺ばかり目の敵にすると思ってた。でもそれって、俺を。俺のことを──?


なんだろう。

思い出せない。

胸の中に閊えている思い出。

智絵里の心に決めた人。

なにかリンクするような。

制服。帽子……。近所のお兄さん。警察官。

あ。智絵里と警察。

そうだ。智絵里の憧れは警察官だ。

あの近所のお兄さんっていったっていい歳だろ。

俺達が小学校低学年のころに警察官になったんだから。一回りかそれよりちょっと上かな?

ん~。恋愛対象にはなるか。

あの人、名前なんだっけ?


智絵里の正義感ってそれかぁ。

なんか解決したような。してないような。

まあいいか。俺達は露店で食べものや飲み物を買い込んで、女子たちの待つ場所へと戻っていった。

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