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第12話 これぞ知略

昼食の時間だと梨奈が言い、梨奈と俊介の作った弁当を食べに俺達の拠点へと戻ると、すでに佑弥と晴香の元に美沙と翔琉も来ていた。


俺と智絵里は、美沙たちと顔をあわせないように、小さなレジャーシートを広げて、グループから少し離れて座った。

梨奈は俺達の元に来て、二人分のサンドイッチとから揚げとソーセージを渡してくれた。

そこになにが面白くないのか美沙が声を張り上げる。


「智絵里ちゃんはホントにマサのこと好きなわけ~?」


何言い出すんだよ。自分の金づるがいなくなったからって、マジで性格悪。

それに逆にいきり立ったのは梨奈。梨奈は美沙の前に立って弁護し始めた。


「あのさぁ美沙。そう言うのやめてくれない? マサと智絵里ちゃんに嫉妬でもしてるわけ? 見て見なよ。智絵里ちゃんのビキニ。一線を越えてなきゃ、好きでもない人にビキニなんて見せると思う?」


いやぁ、好きでもない人にビキニ見せてる訳ですけど……。それに俊介にビキニ着せてるキミはつまり俊介とは一線を越えてる訳で……。

美沙は嫌らしい笑みを浮かべて追撃を緩めない。


「別に? マサは私に告白してきた割に智絵里ちゃんと付き合うのあっという間だったなーって思って。体裁悪いから頼まれて恋人のフリしてるんじゃないかなって思って」


痛! 痛いところついてくるなコイツ。人のことフっといて、追い詰めるだけ追い詰めるなんてヒドいよ。悪魔かよ。


「もし、恋人ならみんなの前でキスできる?」


うぉい! どこまでも俺を追い詰める女だな。智絵里に一度キスを迫って逃げられたトラウマのある俺にはその言葉すらダメージだよ。まったく。


ふと太陽が陰る。視界から明るさが消えた。俺の前には智絵里の顔。彼女が俺の唇に自分の唇を合わせている。

全ての時間が止まったようだ。

さざ波の音すら聞こえない。俺はただ智絵里の唇に混乱していた。彼女は洋画のキスシーンのように、深く唇を合わせ何度も吸い方を変えていた。そして顔を離し、うっとりとした表情で俺に視線を送った。


「ゴメンね、マー君。人前で」


俺は急いで彼女の体を抱いて、肩を両手で支えて立ち上がらせ、仲間たちには笑顔を送って、彼女とその場を離れた。


「バカ。智絵里。無理すんなよな。あんな挑発にのるなんて、智絵里らしくないぞ」

「だって……。悔しかったし、いちいち言い訳するのも面倒くさかったんだもん」


「だからっていったって。俺のためにバカなことすんなよな」


智絵里は恋人じゃない。だけど肩を寄せて抱きしめた。二人きりの時ですらキスはNGだったのに、大勢の前で恥ずかしかっただろう。俺のプライドのために、キスしてくれたこと。感謝しかなかった。もしも抱かれるのが嫌なら突き放されたっていい。だけど今はこれしか思い浮かばなかったし、智絵里も身を離そうとはしなかった。


「ゴメン。俺のために」

「──いいよ」


「少しは落ち着いた?」

「だいぶ落ち着いたよ」


「そうか。よかった」

「ありがとね」


「こちらこそ」


ハタから見れば大胆な格好をしている恋人同士がはにかんだ微笑ましい笑顔を浮かべてると思っただろう。

そこに、新たなる敵。コイツは智絵里の肩をつかんで俺から引き離した。


「か、翔琉?」

「もう芝居はやめろよ。マサ。この子が恋人なんてウソだろ? アンタもいいかげんやめろよな?」


翔琉は、グループから離れて俺達を追いかけてきていたのだ。そして智絵里を自分の胸に引き寄せている。イケメンの顔と声が智絵里の方へと向けられる。


「俺、夏休みヒマでさぁ。二人のことこっそり影で見てたんだよね。写真もバッチリ撮った。会話も聞いた」


か、会話?

それって二人の時は契約の話してるかも……。


「恋人なんてなりすましだろ? 俺、冥女(めいじょ)にもたくさん知り合いいるんだ。そこでアンタの写真見せて聞いたんだよね。アンタのこと。そしたら恋人なんていないってよ。心に決めた人がいるとか聞いたけど? アンタ、マサじゃない人のこと好きなんだろ? それは年上か? 婚約者かだれかか? いいのかなぁ、こんなことやってて」


翔琉の腕が、腰に回されまるで自分のもののように抱き寄せてしまった。


「バラされたら一大事じゃね? 高校も退学になるかもよ? それが嫌なら俺の女になれよ」


俺の目の前で智絵里を脅す。俺は二人に駈け寄ろうとすると智絵里は顔で俺を制した。そして翔琉へと降伏するように懇願する。


「ちょっと。あの人には言わないでよね。あなたの女って……美沙さんはどうするの?」

「あの人? やっぱりな。別にアンタみたいなハイクラスの女が手に入るなら美沙なんてどうでもいいよ。だいたい美沙なんて、たくさんいるガールフレンドの一人ってだけだし。それが俺の女気取り始めたから正直困ってんだ」


「うふ。悪い人」

「まあね。でも男としての自信は誰よりもあるぜ?」


「ぜ? かっこ悪。今どきそんな話し方するヤツいるんだ」

「はあ?」


智絵里は翔琉に肘鉄を食らわせ、うずくまってる間に俺の元に駈け寄って来た。


「行こ!」

「お、おう」


翔琉が回復して追いかけてくる前に俺達は手を繋いで逃げた。仲間たちがいる場所へ。

みんなから見れば、怒って追いかける翔琉と、それから逃げている俺達。

俺はここへ逃げてどうするのかよく分かっていなかったし、翔琉はここへ来たら俺達の仲をみんなにバラすという危険性しかないと思っていた。

もう俺達の恋人ごっこは終わりなんだと思ったんだ。

翔琉は当然、到着するなり俺達を指差して批難した。


「コイツら恋人じゃねぇ。そのフリをしてるだけなんだ」


みんなキョトンとしている。翔琉から話を聞いているであろう美沙だけは勝ち誇った顔をしていたが。


「妖しいと思って夏休みの間に付け回してたんだ。そしたら聞いたぞ、二人の会話」


ヤバい。どんなこと言い出すんだ?


「コイツらは休みの間だけの限定恋人。彼女には心に決めた人がいるんだ。マサに頼まれて恋人のフリをしてるだけ」


はいやられたー!

翔琉は全て知っていて泳がせていたんだ。でも、智絵里の心に決めた人って? そんなの聞いたことないぞ? つか、俺なんかに言うわけないか。チクショー! もう終わりだ。残りの夏休みも、これからの高校生活も惨めなまま。


「翔琉さんは、どうして私の心に決めた人がマー君じゃないって言い切れるの?」


そうそう。智絵里の心に決めた人は別に俺でもいいわけで……。いっ!?


「そ、それは──」

「私がずっと思い続けてたのはマー君。フラれたから自分から告って彼女にして貰った。マー君の説明通りだけど?」


「だって、二人が夏休みまでとかの会話を聞いたぞ! たしかに聞いた」

「ああ、普通にみんなやるそういうシチュエーション。ごっこ遊び的なのでそんなことしたかなぁ?」


「は、はぁ?」


さ、さすが冥女(めいじょ)

頭いいね! 完全に翔琉をやり込めたぞ!

そう思っていると、智絵里は持っていたスマホをおもむろに肩まで上げた。


「翔琉さん、人のことどうこう言う前に自分のこと心配したら?」

「な、なんだよ」


翔琉が一歩後ずさる。智絵里のスマホにはアプリが立ち上がっており、彼女は右向きの三角ボタンをタップした。


『──ラスの女が手に入るなら美沙なんてどうでもいいよ。だいたい美沙なんて、たくさんいるガールフレンドの一人ってだけだし。それが俺の女気取り始めたから正直困ってんだ』


先ほどの翔琉の音声を録音していたもの……。

いつの間に! 智絵里ちゃん怖え!

美沙は両手で顔を抑えて泣き出す。そしてそのまま荷物を持って駆けていってしまった。

翔琉も相当脱力した様子で、アイスボックスと荷物をとり、足取り重く美沙の後を追って駅の方へ……。


俺達男子は固まってそれを結構な時間眺めていたが、晴香が一言。


「じゃ遊ぼうか?」

「そうね」


それに梨奈もうなずく。

女って怖え!

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