表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】没落令嬢の幸せ農場〜最愛の人と辺境開拓スローライフ〜  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
第七章.辺境の宿屋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/97

74.お店、まだ開店してませんけど?

 しばらく、ソフィアもその友人貴族たちもディアナの山小屋に来なくなった。


 真夏になってエディブルフラワーが一時的に咲かなくなり、ディアナの営業活動が滞ったことも影響しているのだろう。


 しかしディアナにとっては、今やそんなことは全く気にならない。


 なぜなら──




 秋の空。ディアナは紅葉を始めた山の前に建つ二階建ての家を見上げた。


 木製の小屋に、真新しいオフホワイトの塗料が眩しい。レンガで出来た小さな花壇には、コスモスの種を植えた。


 今日は家具の搬入日。


 いよいよ、山小屋から新築に移り住むのだ。


 義兄たちが家具を運び入れるのを眺めながら、ディアナは山小屋で冷たい井戸水のレモネードを作る。


 もしかしたら、ここで調理をするのは今日が最後かもしれないのだ。


 何もかもが手の届くところにあるこの便利な山小屋。


 レオンに連れて来られ、共に過ごした山小屋。


 今更になって、少し離れがたい気もする。


「おーい、ディアナ」


 レオンが小屋に入って来る。ディアナは慌てて目尻を拭った。


「何?」

「フリッツが新築祝いにさばいた鶏を持って来たぞ!今から調理出来るか?」

「あら、ありがたいわね。フライパンでカリカリにソテーしましょうか」

「トマスからはワインと釣り竿」

「道具を与えるとは分かってるわね」 

「ハンスは今、カーテンをつけてくれてる。しかし、真っ白なカーテンとは味気なくないか?」

「古びて来たら、染め直して使えばいいじゃない」

「あっ、なるほど。ディアナは賢いな」


 レオンは汗ばんだシャツの首元をはだけ、ぱたぱたと扇ぎながらぐるりと小屋を見渡した。


「……この小屋とも、これでお別れかあ……」


 ディアナは肩をすくめて笑う。


「意外と私がここに住んだ期間は短かったわね」

「俺は三年ぐらい住んだ。元々は、親父が山で狩りをするための小屋だったんだ」

「へー。だからこんなに古いのね……」


 ディアナはそう言いながらレオンに身を寄せる。レオンはディアナを覗き込むようにして口づけた。


「……新しい家では新しい思い出が出来るよ」

「そうね。あっちの家に住む方が、きっと長いもんね私たち」


 熱したフライパンに鶏肉の皮目から焦げ目をつけ、にんにく油でこんがりと両面を焼いて行く。


 ガーリックチキンの皿とレモネードのガラスジャーを持って、ディアナは外に出る。


 木の丸テーブルに真っ白なテーブルクロスがかけられ、既に手土産を下げた面々が集っていた。


 白いクロスの上には、沢山のパンが籠に入っている。ゲオルグが持って来たらしい。


 ラウラもいた。エディブルフラワーのサラダを取り分けてくれている。


 グスタフから貰った食器を並べ、一族全員で丸テーブルに着いた。


 少し柔らかくなった秋の日差し。


 全員で神に祈りをささげたのち、それぞれ待ちきれない様子で食べ始めた。


「……これで全員か?」


 ゲオルグに問われ、ディアナは頷いた。


「姉はもう少し落ち着いてから、お祝いの品を持って来るらしいです」

「なるほど。婚家の都合を優先せよということか。出来た姉だな」

「ええ、あれでも一応その辺の分はわきまえております」


 と。


 ラウラがディアナの肩を叩き、山の斜面を指さす。


 振り返ったディアナは驚いた。


 遠くから、馬車が数台まとめて走って来るのが見えたのだ。ディアナは特に約束の覚えがなく、混乱した。


「あれ?お店がオープンするのはもう少し後なんだけどな……」


 レオンが言う。


「新しい家の前でパーティなんかしているもんだから、とりあえずお祝いに馳せただけかもしれないぞ」

「皆さん気が早いのね。とにかくお会いして、ご挨拶をしなければ……」


 その中の一台は、イシュタル商会の馬車だった。ディアナは目を丸くする。


「……って、イルザの馬車じゃない!」

「どれも見覚えのある馬車ばかりだな。高貴な身分で乗る馬車だ」

「んんんん?どういうこと?」


 困惑している内に、イシュタル商会の馬車が一番乗りを果たす。


 馬車からイルザが降りて来た。ディアナがぼうっとしていると、姉はつかつかとディアナに歩み寄ってこう詰め寄った。


「ディアナ!あの古い方の山小屋、私に売ってちょうだい!」


 ディアナは目を白黒させた。確かに以前そんな話をしたことがあったが、急すぎる。


「お姉様、まだ引っ越しは完全に済んでなくて……」

「いいのよ。所有権は私にちょうだい!」

「何をそんなに急いでいるの?その話はもう少し後で……」


 そうやって押し問答を続けている内に、続々と馬車が到着し、争うように人が降りて来た。見覚えのある貴族たちは、イルザに続けとばかりにディアナに押し寄せる。


「新しい家が建ったのね?ならばあの小屋は必要ないでしょう。私達を泊めて!」

「あの小屋はおいくらなの?言い値で買うわ!」

「一日だけでいいの。ちょっと貸してくださらない?」


 混乱しているディアナを押しのけ、レオンが前に立った。


「はいはい、そこまで。俺があの小屋の所有者だ。皆さん一体、何があったって言うんです?」


 高貴な身分の女たちはレオンが出て来ると急にしおらしくなり、口々に理由を述べ立てた。


「だって……あの小屋に行けば、夫婦円満になるって言うじゃない」

「そうそう。何て言ったって、あの変わり者のソフィアが山小屋に通ってから、急にクラウスといちゃつき出して」

「かと思ったら妊娠したって言うんですものね。あの山小屋は凄いわ。何か秘密があるに違いないのよ!」


 ディアナは飛び上がった。


「えっ?ソフィア様が妊娠!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

没落令嬢の幸せ農場〜最愛の人と辺境開拓スローライフ〜
↓Amazonリンクに飛びます↓i629006
アース・スターノベル様より好評発売中!
― 新着の感想 ―
[良い点] ソフィアの話が一番好きです。何度もこの部分を読み返しています。
[良い点] 主人公を中心に巻き込んで好転して往く様に魅入ります [気になる点] あるよね。パワースポット的な善い運気となる不思議な土地や建物(あと人)ってさ [一言] 読んでいて愉しいしかないです …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ